***Happy Beat vol.1 〜類つく〜***



 
 *このお話は、「ブランコ」「X'mas Panick!!」「Traveling」「Sweet Angel」から続くお話になります。


 「―――なにこれ」

 思わず言葉が漏れる。

   土曜日なのに仕事に駆り出され、朝から会社に行っていた俺がようやく帰宅できたのは午後3時過ぎ。

 静まり返る家の気配に、もしかしたら寝ているかもしれないと足音を顰めリビングの扉を開けてみれば。

 そこには子供を寝かしつけようとしてそのまま寝入ってしまったであろう妻と優斗。

 そしてその横には大の字に伸びてばんざいの格好で寝ている快斗と、同じように大の字になって寝ている総二郎。
 そしてその快斗を挟むようにして床で頬づえをついたまま寝息を立てているあきらの姿・・・・・。

 俺は軽く溜め息をつき、そっとつくしの傍へ行った。

 「つくし」

 耳元で囁き、唇に軽くキスを落とすと、微かに瞼が震えた。

 「ん・・・・・類・・・・・?」
「おはよ」
 にっこり笑うと、つくしは2,3度瞬きし、ゆっくりと体を起こした。
「―――お帰り。ごめん、あたし寝ちゃってた?」
「ん。ずいぶん賑やかだったんだね」
 その言葉に、つくしがクルリと振り返り、総二郎たちの姿を目に入れ苦笑する。
「うん。双子たちの遊び相手しに来てくれたんだけどね、もうあと追いかけまわすだけで精いっぱい。久しぶりに会ったから、2人とも歩けるようになっててびっくりしてたよ」

 明日、1歳を迎えることになった双子、優斗と快斗。

 歩けるようになったのはほんの2週間前だけれど、子供の成長は早い。

 特に快斗は活発で、一度動き出すと止まらない。

 キャッキャッと笑い声をあげながら屋敷中を逃げ回るものだから、花沢家では毎日ドタバタと駆け回る足音が絶えなかった。
 比較的おとなしい優斗も、放っておくとこっそりといたずらを始めるので目が離せない。

 大学に復学し、昼間は2人を保育園に預けるようになったつくしだけれど。

 育児と勉強の両立は思った以上に大変なようで、講義中に居眠りしてしまうことも多いと言っていた。

 それでも毎日すくすくと成長していく子供たちの姿を見るのは嬉しいもので。

 やんちゃ盛りの双子の、今は天使のような寝顔を愛しそうに見つめる。

 「ようやく、かな。それともあっという間?1年間、ご苦労様」
 俺の言葉に、照れくさそうに微笑むつくし。
「ありがと。でもさすがに双子は大変。類や家政婦さんたちがいなかったら、きっとできなかった」
「そんなことないよ。やっぱり、つくしが一番頑張ったよ。あと半年、大学卒業まで頑張って」
「うん、頑張るよ、もちろん。ところで、お義父さまとお義母さまっていつ日本に帰られるの?明日の誕生日パーティーは向こうのおうちでやるんでしょ?」
「ああ、今夜には着くはずだけど」
「ご挨拶に行った方がいい?」
「いや、明日どうせ行くんだから今日はいいよ。向こうも帰ったばかりじゃ疲れてるだろうし。明日、双子に会えるのを楽しみにしてるって言ってたから」
 俺がそう言うと、安心したように微笑むつくし。

 滅多に日本に帰ってこない俺の両親が、明日の双子の誕生日にはパーティーを開くと言って日本に帰ってくるのだ。
 生まれてから、両親が双子に会ったのは3回ほど。
 しかも一番最近会ったのはもう半年も前だ。
 メールで写真はしょっちゅう送っているけれど、実際に会ったらその成長ぶりに驚くに違いない。

 「―――んあ、類?帰ってたのか」
 俺たちの気配に気づき、あきらが体を起こす。
「うん。今帰ったばっかり」  
 「ぐあ、体がいて―」
 そう言って、総二郎も起きだす。
「お疲れ」
「いや、マジでこいつらはすげえよ。いつの間にあんな早く動くようになったんだ」
 感心するように言う総二郎に、つくしがくすくす笑う。
「2人がかりで快斗追っかけまわすんだもん、もう喜んじゃって大変。追いかけっこ、大好きだから。優斗まで珍しくあきら追いかけたりしてたんだよ」

 双子が生まれてからというもの、毎日のようにここへ通ってきていたあきらと総二郎。

 そのうち、つくしも2人のことを名前で呼ぶようになった。

 「本当に、パパが3人いるみたい」

 という言葉通り、双子はとても2人になついていた。

 卒業してからはさすがに仕事が忙しく、毎日は来れなくなってしまったけれど、それでも時間をつくっては会いに来るのは、ただつくしに会いたいだけではなく、双子に会いたいという気持ちがあるようだった。

 「明日で1歳か。早いな」
 あきらが目を細めて双子を見る。
「プレゼント、楽しみにしてろよ」
 総二郎も眠っている優斗のほっぺをツンツンとつつく。

 穏やかな土曜日のことだった・・・・・。





  

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