***ブランコ vol.1***



 「あ、せんぱ〜い、来てくれたんですね!」
 桜子があたしを見つけて駆け寄ってきた。
 今日は英徳大学の入学式だ。
「何言ってんのよ。バイトだって言ってんのに脅迫まがいのこと言って呼びつけたの誰」
 あたしのいやみにも全然こたえる様子はない。
「だって〜。せっかく久しぶりにみんなで集まろうって言ってるのにまきの先輩がいないなんて、つまんないも〜ん」
 口を尖らせてそう言う桜子に、思わず笑う。桜子とも長い付き合いだ。彼女の性格はいい加減把握しているし、もはや怒る気にもなれない。
 そこへ、おなじみのメンバーが集まってくる。
「よお、牧野。久しぶり」
 西門さんが笑顔を見せる。その横には美作さん。この2人は相変わらず遊び歩いているものの、最近家のほうも忙しくなってきて、鬱憤が溜まっているらしいとか何とか、桜子が言っていた。
「なんだよ、類。お前いないと思ったら牧野と一緒だったのか」
 美作さんがあたしの隣に立っていた花沢類を見て言った。
「たぶん、あそこにいるんじゃないかと思って最初によってきたの。で、予想通りいたから連れてきた」
 と答えたのはあたし。あそことは、もちろん高等部の非常階段だ。
「ふーん。で、滋は?あいつも来るんだろ?」
 相変わらず気配りの美作さんが滋さんのいないことに気付いて言う。
「なんだか用事があるから遅れるって」
 あたしの言葉を聞きながらも、全員で歩き出す。
 今日は久しぶりに集まったメンバーで桜子の大学部進級祝い・・・にかこつけたパーティーをする予定だった。


 本当ならあたしもこの大学で、今年2年に進級するはずだった。
 でも、今あたしは大学を中退し、様々なアルバイトをしながら家族を支えている毎日だ。
 どうしてそうなったかといえば、簡単に言えば道明寺と別れることにしたからだった。
 1年前、静さんの結婚式でフランスまで行き、あいつと会った。あの時は間違いなくあたしはあいつを好きだったし、あいつもあたしのことを想ってくれていた。
 それが変わって来たのはいつからだったか・・・・。
 はっきりとした原因はあたしにも良くわからない。
 きっかけになったのは、「きみこ」だ。
 道明寺がとんでもない勘違いをして類に紹介しようとした「きみこ」。その話を聞いて、わたしは驚いたのと同時に、ふと寂しさを感じてしまった。もちろん、そんなこと言えるはずもなく類のためなら協力しようと思ったのだが・・・
「本気でそう思ってる?」
「俺と、その子がうまくいけばいいって」
 その言葉に、固まってしまった。
 それから、雪のせいで階段で足を滑らせ病院に運ばれたあたしの元にいち早く駆けつけてくれた類。
 思えば、そのときからわたしの気持ちが微妙に変わってきたような気がする。
 仕事を抜け出し駆けつけた道明寺は、類を100%信用してあたしを任せてくれた。それは道明寺と類の友情であり、あたしのことを信じてくれている道明寺の行動だったと、理解はしている。
 だけど、あたしの心には何かが引っかかっていた。すぐにとんぼ返りで帰ってしまった道明寺。
 その後、類のお膳立てで道明寺から指輪を受け取り「婚約」という形にこぎつけたわたし達だったけど・・・・。
 あたしと道明寺の間には、徐々にすきま風が吹くようになっていた。
 気付いたときには、その隙間はどうしても埋められないほど大きなものになってしまっていた・・・・。

 3月の始めのことだった。
 忙しいスケジュールを切り詰め、日本に帰ってきた道明寺は、あたしに言った。
「俺たち、友達に戻った方がいいんじゃねえか?」
 そう言われる事をなんとなく予想していたあたしは、静かに頷いた。
「お前には・・・悪いことしたな。散々振り回して・・・」
「本当だよ!あたしくらい波乱万丈の人生生きてるやつもいないんじゃな?」
「自分で言うなよ」
「だれのせいよ!」 
「・・・・・俺か」
 そこであたし達は顔を見合わせ・・・・同時に吹き出した。
 ひとしきり笑いあった後・・・あたしは言った。
「道明寺・・・。こんな形になっちゃったけど、あたしはあんたに感謝してるよ。つらいことも多かったけど、楽しいこともたくさんあったし・・・何より、あんたとじゃなかったら出来ない経験がたくさん出来たから」
「牧野・・・・・」
「ありがとう。今度あったときは、F4のメンバーと一緒に集まりたいな」
「ああ・・・。そのころには、お前、類と・・・・」
「・・・・・どうかな・・・・それは神のみぞ知る、でしょ」

 婚約解消のニュースを、マスコミに知られる前にF3に知らせたあたし。
 3人とも驚いてはいたものの、予感していたところもあったようで、誰も理由については触れなかった。
 そして、あたしと類の関係も変わることなく・・・。

 それからあたしは、大学を辞めた。
 道明寺は気にするなと言ってくれたけど、大学の授業料を道明寺に全て払ってもらって平気でいられるはずがない。
 それからあたしは就職活動をしながら、アルバイトに明け暮れる日々。道明寺に出してもらった授業料は働きながら返していくつもりだった。
 これはあたしに残された小さなプライド。それを曲げるつもりはなかった。
 それでも、変わらずあたしと友達でいてくれるその人たちに、あたしはとても感謝していた。
 この人たちがいてくれるからこそ、あたしは毎日がんばれる。
 かけがいのない仲間達にかこまれ・・・・あたしは、ずっとこのときは続いてくれれば、と願わずにはいられなかった・・・・・。


  

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