牧野が司と分かれたと聞いたとき、「ああ、やっぱり・・・」と思った。 牧野と司が婚約をしたころから、牧野はどこか様子がおかしかった。 物思いにふけるような、ぼうっとしていることが多くなった。 「牧野、大丈夫?」 そう声をかけても 「大丈夫だよ。類、いつも心配してくれてありがとう」 そう言ってにっこりと微笑むだけだった。「類の傍にいると安心する」 そんな風に言って俺と一緒にいることが多くなった牧野。 その気持ちはうれしかったが、同時に戸惑ってもいた。 ―――俺の役目は、2人を見守っていくこと。 そう思っていたのに、牧野がすぐ近くにいるだけで、その笑顔を見るだけで、俺の心は簡単にぐらついた。 「司と連絡とってるの?」 「・・・・・うん」 微妙に開く間。 何があったのか聞いても 「何もないよ。心配しないで」 と答えるだけ。心配、しないはずないだろう? そんな俺の気持ちに気付いてか、牧野はふっと微笑みながら俺に寄り添い、 「大丈夫・・・こうして、類が傍にいてくれれば・・・・」 と呟くように言う。 そう言われて悪い気はしない。俺の気持ちは高校生のころから変わってはいない。 だが、牧野には司がいる。 「辛いときはよっかかればいい」 そうは言ったものの、ただ傍にいるだけで触れることの出来ないもどかしさは、どうしようもない。 愛しさが募り、そろそろ限界に近づいたころ・・・
「道明寺と、別れたの」 どこかすっきりしたように、穏やかに告白する牧野。 ―――ああそうか。だからずっとおかしかったんだ・・・。ずっと1人で考えていたんだ・・・・・。 どうして自分に相談してくれなかったのか。 そう思わなくもなかったが、牧野のことだ。きっと俺と司、両方の気持ちを考え、1人で結論を出すことを選んだんだ。そして、その想いを司も受け止めた・・・。 それならば。 もうそれについて、俺が口出しすることはなかった。 俺に出来ることは、これからもずっと牧野の傍にいることだ・・・。 「牧野はもうフリーだぜ。さっさと告っちゃえば」 にやりと笑い、総二郎にそう言われたが、そんな簡単にはいかない。そもそも、告るもなにも俺の気持ちは牧野だって知っていることだ。 それに、牧野はあのあとすぐに大学を辞めてしまい、その後もバイトだ就活だと毎日忙しく走り回っていてゆっくり話す暇もない。 司に出してもらった授業料を返す為、というのがいかにも牧野らしく、俺はただそれを見守ることしか出来なかった。 そして今日は、久しぶりに牧野とゆっくり話が出来る機会だ。 パーティーというものは苦手だが、牧野が参加するなら話は別。 「ヤッホー!滋ちゃん登場〜♪」 大河原がいつものようにハイテンションで現れる。 こういうノリは苦手だ。 別に嫌いとかいうのではなく、そのペースには着いていけない。 「あ、滋さん、久しぶり!」 「きゃ〜つくし!良かった〜、最近全然会えないから寂しかったよ〜」 「うん、あたしも」 牧野がうれしそうにニコニコと話す。 元はといえば、司をはさんでライバル関係とも言える2人だったが、大河原の無邪気な性格と牧野の裏表のない性格のおかげか今では本当に仲が良いようだった。 「あれ、優紀ちゃんは?」 「あ、優紀は今日来られないって・・・・大学のサークルで、新歓があってどうしても抜けられないんだって」 「そうなんだ〜残念。ねえ、今度また女の子だけで集まろうよ」 「お、なんだよ。俺たちは呼んでくれねえの」 2人の会話に総二郎がちゃちゃを入れる。 「え〜、にっしー?」 「あ、ダメですよ〜西門さんは。男が寄ってこなくなるじゃないですか!ね、今度また合コンしません?」 そう言って大河原と牧野の間に入ってきたのは三条だ。 「あ、それいい!大体あたし達みたいないい女に男がいないなんて、おかしいよね」 と大河原は乗り気だが、牧野は苦笑いしている。 「あ、あたしはいい。バイト忙しいし・・・」 「えー!つくしが来ないとつまんないよ〜」 詰め寄る大河原に、牧野は閉口している。 全く冗談じゃない。俺は司が相手だからこそ2人を見守ろうと決心したんだ。その辺のくだらない男に取られるくらいなら、俺が・・・・
そう思ったときだった。 牧野たちの後ろを通り過ぎようとしていた数人の男たちの1人が、牧野の顔を見てぴたりと足を止めた。
「あれ?牧野じゃない?」 「え?」 牧野が驚いて振り向く。 と同時に、あきらと総二郎がぴたりと動きを止め、その男のほうに視線を向けた・・・・。
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