*このお話は、「ブランコ」「X'mas
Panick!!」「Traveling」から続くお話になります。 こちらのお話だけでもお読みいただけますが、より詳しい内容をお知りになりたい場合は、「ブランコ」からお読みくださいませ♪ -tsukushi-
どうしよう。
通りを渡ればすぐそこにそれはあるのに、あたしはなかなかその通りを渡ることが出来ないでいた。
どうしよう。
そんなことをしてるうちに時間だけがどんどん過ぎて行ってしまう。
「牧野?」 急に後ろから声をかけられ、あたしは飛び上がるほどびっくりしてしまう。 振り向くと、そこには美作さんが立っていた。 「美作さん・・・・・」 「どうした?こんなところで」 不思議そうな顔であたしを見る。 それはそうだろう。 本当だったら土曜日のこの時間は類と家で過ごしてるはずだったから・・・・・。 「み、美作さんこそ・・・・・こんな朝早く、こんなところでどうしたの?」 「朝早くって言ったってもう10時だろ?ま、土曜日のこの時間じゃまだ早いか。類は?一緒じゃないのか?」 「う、うん・・・・・」 どうしよう・・・・・・。 何を言ったらいいのかわからなくて、黙り込んでしまう。 美作さんは、そんなあたしを変に思ったのかじっと顔を覗き込んでいる。 「・・・・・牧野?何があった?」 心配そうな顔。 何か言わなきゃ。 そう思うのに・・・・・・声が出ない。 「・・・・・なあ、時間あるなら一緒に来ないか?これから総二郎と会う約束なんだ」 「西門さんと・・・・・?」 「ん。車で来ることになってる。もうすぐ待ち合わせの時間だし・・・・・」 「でも・・・・・あたし・・・・・」 それでもその場から動けないでいるあたしを暫く見ていた美作さんは、すっとあたしの手を掴み、優しく引っ張った。 ぼんやりと突っ立っていたあたしは、そのまま倒れこむように美作さんの胸に寄りかかってしまう。 「そんな顔するな。何でも聞いてやるから・・・・・な」 美作さんの、いつもの優しい声にほっとして、涙が出そうになる。
「おいおい、こんなところでラブシーンってどういうことよ?」 突然横から声がして、あたしはまたびっくりして美作さんからぱっと離れた。 「おしいな。これから2人で逃げようと思ってたのに」 含み笑いをしながらそう言う美作さんは、気付いていたのだろう。 すぐそこに、車に乗った西門さんがいることに・・・・・
「まったく、あんなところでいちゃいちゃしてんじゃねえよ」 西門さんがじろりと美作さんを睨む。 あたしたちは、西門さんの車に2人で乗り込んでいた。 「い、いちゃいちゃって!」 「そういうふうにしか見えなかったぜ。あんな場面、類に見つかったら半殺しにされるっての」 その言葉に、あたしははっとして西門さんから目を逸らした。 そんなあたしを見て、2人が顔を見合わせる。 「・・・・・類と、何かあったのか?」 西門さんが聞く。 さっきまでとは違う、真剣な声だ。 あたしは、ゆっくりと首を振った。 「じゃ、何があった?俺たちにも言えないことか?」 西門さんの真剣で、優しい声にあたしは顔を上げる。 「んな、泣きそうな顔して・・・・・そんな顔してあんなところに1人で立ってられたら放っておけねえだろ」 美作さんが、優しくあたしの頭を撫でてくれる。 「あたし・・・・・・」 「ん?」 この人たちになら、話せる。 2人の優しい笑顔に、あたしは気持ちが和らいでいくのを感じていた。 だけど、やっぱりどう言ったらいいのか分からなくて言い淀んでいると・・・・・ 美作さんが、口を開いた。 「・・・・・お前、もしかして・・・・・妊娠したんじゃねえの?」 その言葉にあたしは驚いて美作さんを見る。 と、同じように驚いて美作さんを見た西門さんが、あたしに視線を移し・・・・・ 「・・・・・そうなのか?」 と言ったのだった・・・・・。
「類には、言ってないんだな」 美作さんの言葉に、あたしは頷いた。 「さっき・・・・・お前がいた場所。あの道路挟んだ向い側に、小さい産婦人科があっただろ。なんとなくだけど、お前がそこに行こうかどうしようか悩んでるように見えたんだ」 美作さんの鋭さに、あたしは何も言えなかった。 そう。あたしは、産婦人科に行こうと思ってたのだ。 生理が、もう1ヶ月以上も遅れてる。普段、2週間くらいまでは遅れることがよくあったから、なんとなく放っておいた。 だけど、ふと気付いたらもう1ヶ月、生理が来てないことに気付いた。 類に言おうか、とも思った。 だけど、類は今仕事の方が忙しくて、家に帰ってくるのも夜遅く、毎日とても疲れているのがわかる状態で・・・・・。 ちゃんと確かめてからにしよう。 そう思ったのだけれど・・・・・・。 よく考えたら、あたしたちは婚約こそしたものの、まだ結婚はしていない。 一緒に住んではいるけれど、まだ正式に夫婦になったわけじゃないのだ。 それに、まだ大学も卒業していないのに、妊娠だなんて・・・・・
いろいろなことが頭を渦巻いていた。 類のこと、家のこと、学校のこと、自分のこと、そして生まれてくる子のこと・・・・・・ もし本当に妊娠していたら、どうしたらいいんだろう。
まだ確かめてはいない。 だけど、予感があった。 その予感を、事実として受け止めるのが、怖かった・・・・・・
「牧野・・・・・これから、病院に行こう」 西門さんの言葉に、あたしは顔を上げた。 「でも・・・・・」 「心配するな。俺の知ってる病院で、信頼できる先生がいる。とにかく調べよう。話はそれから。な?」 西門さんの優しい笑顔。 髪を撫でる美作さんの優しい手。
あたしは、ゆっくりと頷いたのだった・・・・・。
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