-tsukushi-
ついた先にあったのは、こじんまりとした個人病院で・・・・・大きな大学病院にでも連れて行かれるのかと思っていたあたしは、ちょっとびっくりしていた。 「でかいところは意外と情報が漏れやすいんだ。ここなら絶対安心だから」 そう言って、西門さんはあたしの手を引いた。
扉を開けたあたし達を迎えたのは、まだ30そこそこくらいの若い女医さんだった。 「どうぞ、上がって」 優しい笑顔でそう言ってあたし達を中に入れると、一旦診察室の中へと入って行った。 「兄貴の、大学の先輩だった人。父親の跡継いで産婦人科医になった人で、兄貴の相談に乗ってくれてた人なんだ」 西門さんの言葉に、美作さんが意味深な視線を向けた。 「美人だよな」 「変な勘繰りするなよ。あの人はそんなんじゃない。そういう人のとこ、俺が牧野連れて来るわけねえだろ」 「そりゃそうか」
診察室の扉が開き、先生が顔を出した。 「お待たせしました。どうぞ入って」 その言葉にあたしは立ち上がり、チラリと2人を見た。 「ここにいるから」 西門さんの言葉に頷き、あたしは診察室へと入った・・・・・。
「牧野つくしさんね。私は白井響子。よろしくね」 にっこりと微笑む白井先生。笑うとエクボが出来て、かわいらしい印象になる。 「よろしくお願いします」 そう言って頭を下げたあたしの顔を、先生はじっと見つめた。 「最初に聞きたいんだけど、あなたのお相手は、総二郎くん?」 「・・・・・え?」 一瞬呆けてしまってから・・・・・ その意味を理解し慌てて首を振る。 「ち、違います!西門さんとは、その、友達で・・・・・」 そう言うと、先生は笑って頷いた。 「そう。あの総二郎くんがすごく大事にしてるように見えたから・・・・・あんな総二郎くん、初めて見たわ。すごく愛しそうに見つめて・・・・・随分変わったのね、彼」 「そ、そうですか・・・・・?」 「ええ。嬉しいわ。あなたのような子が総二郎くんの傍にいて」 にっこりと微笑む先生。 その笑顔はとても優しくて・・・・・ いつの間にか緊張がほぐれていくのを感じていた・・・・・
「妊娠9週目に入ってるわ」 先生の言葉に、あたしは無意識にお腹に触れていた。 「・・・・・大丈夫?」 先生が心配そうにあたしの顔を覗き込む。 「はい・・・・・」 そう返事をすることしかできなかった。
『やっぱり』という思いと、『まさか』という思いが交錯する。 触れたお腹からは、まだ何も感じない。 だけど、確かにここに、新しい命があるんだ。 そう思うと、胸が高鳴った。
まだ学生なのに妊娠なんて、という思いがあるのに、それに反して、あたしの中に類とあたしの赤ちゃんがいるんだと言う事実に、不思議な幸福感を感じていたのだ・・・・・。
「・・・・・彼と、よく相談してね。それから、妊娠初期はお母さんにとっても、赤ちゃんにとってもとても大事な時期なの。体には十分注意して・・・・・何かあったら、いつでも連絡を頂戴」 そう言って、先生はあたしの手を握ってくれた。 とてもやさしくて、暖かい手・・・・・。 あたしは、ただ頷くことしか出来なかったけれど、先生の優しい笑顔に、とても励まされた気がした・・・・・。
「とにかく、類に話すしかねえだろ?話しにくいんだったら俺が着いてってやってもいいけど」 病院を出ながらあたしの肩を抱き、そう言ってくれる西門さん。 診察室から出てきたあたしの顔を見て、何となくわかってしまったのだろう。 美作さんも心配そうにあたしの傍に付き添ってくれていたけれど・・・・・ 「あ、わりィ、忘れ物した。ちょっと取って来るわ」 そう言ってまた病院の中へ戻ってしまったので、あたしと西門さんは、病院の外で美作さんが出て来るのを待っていた。
「とりあえず家まで送るから。その後どうするか―――」 西門さんがそこまで言った時だった。
「牧野!?」
突然呼ばれ、驚いて振り向くと――― そこには、同じように驚いた顔をした類が立っていた。 「類!!」 どうしてここに・・・・・ 今日も確か、仕事だと言っていたのに・・・・・・ 「・・・・・どういうこと?何で総二郎とここに?」 類の表情が険しくなる。 あたしは西門さんと顔を見合わせ・・・・・・
西門さんが、何か言おうと口を開いたとき、後ろの扉が開いた。 「わりい、待たせた・・・・・・あれ、類?」 出てきたのはもちろん美作さんで・・・・・・ 類はまた、驚きに目を見開いたのだった・・・・・。
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