***Sweet Angel vol.2***



-tsukushi-

 ついた先にあったのは、こじんまりとした個人病院で・・・・・大きな大学病院にでも連れて行かれるのかと思っていたあたしは、ちょっとびっくりしていた。
「でかいところは意外と情報が漏れやすいんだ。ここなら絶対安心だから」
 そう言って、西門さんはあたしの手を引いた。

 扉を開けたあたし達を迎えたのは、まだ30そこそこくらいの若い女医さんだった。
「どうぞ、上がって」
 優しい笑顔でそう言ってあたし達を中に入れると、一旦診察室の中へと入って行った。
「兄貴の、大学の先輩だった人。父親の跡継いで産婦人科医になった人で、兄貴の相談に乗ってくれてた人なんだ」
 西門さんの言葉に、美作さんが意味深な視線を向けた。
「美人だよな」
「変な勘繰りするなよ。あの人はそんなんじゃない。そういう人のとこ、俺が牧野連れて来るわけねえだろ」
「そりゃそうか」

 診察室の扉が開き、先生が顔を出した。
「お待たせしました。どうぞ入って」
 その言葉にあたしは立ち上がり、チラリと2人を見た。
「ここにいるから」
 西門さんの言葉に頷き、あたしは診察室へと入った・・・・・。

 「牧野つくしさんね。私は白井響子。よろしくね」
 にっこりと微笑む白井先生。笑うとエクボが出来て、かわいらしい印象になる。
「よろしくお願いします」
 そう言って頭を下げたあたしの顔を、先生はじっと見つめた。
「最初に聞きたいんだけど、あなたのお相手は、総二郎くん?」
「・・・・・え?」
 一瞬呆けてしまってから・・・・・
 その意味を理解し慌てて首を振る。
「ち、違います!西門さんとは、その、友達で・・・・・」
 そう言うと、先生は笑って頷いた。
「そう。あの総二郎くんがすごく大事にしてるように見えたから・・・・・あんな総二郎くん、初めて見たわ。すごく愛しそうに見つめて・・・・・随分変わったのね、彼」
「そ、そうですか・・・・・?」
「ええ。嬉しいわ。あなたのような子が総二郎くんの傍にいて」
 にっこりと微笑む先生。
 その笑顔はとても優しくて・・・・・
 いつの間にか緊張がほぐれていくのを感じていた・・・・・


 「妊娠9週目に入ってるわ」
 先生の言葉に、あたしは無意識にお腹に触れていた。
「・・・・・大丈夫?」
 先生が心配そうにあたしの顔を覗き込む。
「はい・・・・・」
 そう返事をすることしかできなかった。

 『やっぱり』という思いと、『まさか』という思いが交錯する。
 触れたお腹からは、まだ何も感じない。
 だけど、確かにここに、新しい命があるんだ。
 そう思うと、胸が高鳴った。

 まだ学生なのに妊娠なんて、という思いがあるのに、それに反して、あたしの中に類とあたしの赤ちゃんがいるんだと言う事実に、不思議な幸福感を感じていたのだ・・・・・。

 「・・・・・彼と、よく相談してね。それから、妊娠初期はお母さんにとっても、赤ちゃんにとってもとても大事な時期なの。体には十分注意して・・・・・何かあったら、いつでも連絡を頂戴」
 そう言って、先生はあたしの手を握ってくれた。
 とてもやさしくて、暖かい手・・・・・。
 あたしは、ただ頷くことしか出来なかったけれど、先生の優しい笑顔に、とても励まされた気がした・・・・・。

 「とにかく、類に話すしかねえだろ?話しにくいんだったら俺が着いてってやってもいいけど」
 病院を出ながらあたしの肩を抱き、そう言ってくれる西門さん。
 診察室から出てきたあたしの顔を見て、何となくわかってしまったのだろう。
 美作さんも心配そうにあたしの傍に付き添ってくれていたけれど・・・・・
「あ、わりィ、忘れ物した。ちょっと取って来るわ」
 そう言ってまた病院の中へ戻ってしまったので、あたしと西門さんは、病院の外で美作さんが出て来るのを待っていた。

 「とりあえず家まで送るから。その後どうするか―――」
 西門さんがそこまで言った時だった。

 「牧野!?」

 突然呼ばれ、驚いて振り向くと―――
 
 そこには、同じように驚いた顔をした類が立っていた。
「類!!」
 どうしてここに・・・・・
 今日も確か、仕事だと言っていたのに・・・・・・
「・・・・・どういうこと?何で総二郎とここに?」
 類の表情が険しくなる。
 あたしは西門さんと顔を見合わせ・・・・・・

 西門さんが、何か言おうと口を開いたとき、後ろの扉が開いた。
「わりい、待たせた・・・・・・あれ、類?」
 出てきたのはもちろん美作さんで・・・・・・
 類はまた、驚きに目を見開いたのだった・・・・・。






  

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