***Sweet Angel vol.3***



 -rui-

 最近、また牧野の様子がおかしいことに俺は気付いていた。
 何かを隠している。それが何かまではわからないけれど、一つだけわかっているのは、牧野は自分が言いたくなるまでは絶対に喋ろうとしないことだった。

 最近また仕事が忙しくなってしまい、牧野とゆっくり話をしている時間もなかった。

 どうしたものかと悩んでいた時。

 「明日、久しぶりに優紀と会う約束してるの。行ってもいい?」
「ん。気をつけて。遅くなるようだったら電話して」
「うん。わかった」

 特に変わったところはなかったように思う。
 でも何かが引っかかって。
 この日は早く帰ろうと思っていた。
 せっかくの土曜日なのに仕事が入ってしまい、がっかりするかなと思ってたのに、逆にほっとしている様子なのも気にいらなかった・・・・・。

 そして土曜日。

 予定していた会議が延期になり、思いの他早く仕事を終えることの出来た俺は、そうそうに車に乗り込み家へと急いだ。

 まだ帰って来てはいないだろうとは思ったが、何故か嫌な予感がしていつもは通らない、近道になる住宅街へ入る。

 そして、それを見つけた。

 小さな産婦人科から出て来たのは、総二郎に肩を抱かれた牧野だった。
 
 慌てて車を止めて外に出る。
 「牧野!」
 俺の声に驚いて振り向く牧野と総二郎。

 なんで2人が産婦人科から出てくるんだ?
 とてもじゃないが、冷静でなんかいられなかった。

 「・・・・・どういうこと?何で総二郎とここに?」
 ついきつい言い方になってしまう。
 2人が顔を見合わせ、何か言おうとしたその時。
 病院の扉が開き、中からあきらが出て来た。
「わりい、待たせた・・・・・・あれ、類?」
「・・・・・これ、どういうこと?」
 牧野が観念したように、大きな溜め息をついた・・・・・


 結局、心配そうについていたあきらと総二郎とはその場で別れ、2人で家へと帰ることになった。

 家に着くまで牧野は何も喋らなかった。
 どこか緊張しているような様子の牧野。

 まさか、という思いと、もしかしたらという思いが俺の頭の中を渦巻いていた。

 家に着き、すぐに部屋へ向かう。

 「・・・・・話してくれる?」
 優しく声をかけると、牧野はゆっくり顔を上げた。
 その瞳は、不安気に揺れていた。

 「類、あの、あたし・・・・・」
「うん」
 キュッと握った手は微かに震えていた。
 俺は、ベッドに牧野を座らせると自分もそこに座り、牧野の肩を抱いた。
「大丈夫。俺は、ずっと牧野の味方だから」
 俺の言葉に、牧野が顔を上げた。
「ずっと、傍にいるよ」
 頬に、そっと手を添える。
 牧野の瞳から涙が溢れ落ち、俺の手を濡らした。
「・・・・・赤ちゃんが・・・・・いるの・・・・・」
 その言葉を聞いた瞬間、俺は牧野を抱きしめていた。

「類・・・・・」
 少し戸惑ったような牧野の声。
「・・・・・よかった」
「え・・・・・?」
「産婦人科から、牧野が総二郎と出て来た時・・・・・凄い焦った」
「・・・・・焦ったって・・・・・」
「総二郎に、妊娠させられたのかと思った、一瞬」
「ええ!?」
 牧野が驚いてぱっと俺から離れる。
「なにそれ」
「だって、友達のところに行くって言ってたのにあんな場面に出くわしたら、誰だってそう思うでしょ」
 その言葉に、牧野はうっと詰まる。
「大体、なんで俺に言う前にあいつらに言うの?」
「ご、ごめん」
「婚約者は俺なのに・・・・・」
「あ、あたしだって、類に一番先に言うつもりだったよ!だけど、病院の前で入るの躊躇ってたら、偶然美作さんにあっちゃって・・・・・」
「で、2人に言っちゃったの?」
「―――てか、病院の前でぼーっとしてたから、分かっちゃったみたいで・・・・・」
 何となくその場面が想像できてしまい、怒るに怒れなくなる。
「西門さんが、信頼できるお医者さんを紹介してくれるって言って連れて行ってくれたのがあの病院なの」
 そう言われ、さっきの病院を思い出す。
 住宅街にある、こじんまりとした病院。
 確かに、人目にはつきにくいかもしれない・・・・・。
「それで・・・・・なんて言われたの?」
「妊娠9週目に入ってるって・・・・・」
「ってことは、何月?」
「えっと・・・・・予定日は10月7日ごろだろうって・・・・・」
「10月・・・・・そっか。気候的にはちょっと涼しくなって過ごしやすくなるかな」
 俺がそう言うのに、牧野はどこか戸惑ったように俺を見上げる。
「ね、ねえ、そんなことより・・・・・」
「ってことは・・・・・・出来たのってあれかな。冬休みに2人で温泉行ったとき。2日目からは結局総二郎たちに邪魔されたけど、最初の日の・・・・・・」
「うん、たぶん・・・・って、そうじゃなくて!」
 牧野の大きな声に、顔を顰める。
「何、大きな声出して。うるさいよ」
「だ、だって・・・・・あたしたち、まだ結婚もしてないんだよ。まだ大学にも通ってる。こんな状況で・・・・・」
 俺は牧野の心配してることを察し、牧野の肩を抱いた。
「・・・・・だから、俺に言わなかったの」
「だって・・・・・」
「俺は、すごく嬉しいのに・・・・・。牧野は、そうじゃないの?」
 がっかりしたように言うと、すぐに牧野がぱっと顔を上げ、俺を見た。
「そ、そんなこと!あ、あたしだって嬉しいよ?類との子だもん!嬉しくないわけない!」
 その言葉に俺はにっこりと笑い、牧野の唇に触れるだけのキスをした。
「よかった・・・・・それなら、大丈夫・・・・・。きっと、うまくいくから・・・・・・」
 そうして、まだ戸惑った表情の牧野を抱きしめ、その髪にもキスを落としたのだった・・・・・。







  

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