***Sweet Angel vol.4***



 -tsukushi-

 類の両親が、帰国する。

 類は心配いらないって言うけど、あたしの胸は不安でいっぱいだ。

 「ちょうど、日本に来る予定があったんだ。それを1週間早めてもらった。大事な話があるとだけ言ってある。大丈夫、俺からちゃんと話をするから。牧野は俺の隣にいてくれればいいから」
 いつものようにやさしく笑ってくれる類。
 この笑顔に、何度救われたかわからない。
 あたしは類の袖をきゅっと掴んだ。


 「お帰りなさい」
「牧野さん、お久しぶりね。まあ、以前よりもずいぶんおきれいになったんじゃない?」
「あ、ありがとうございます」
「まあ、座らないか。話があるんだろう?食事でもしながら話そう」
 類のお父さんが既に食事が運ばれてきているテーブルの席について言った。
「悪いが、あまり時間がないんだ。1時間後には出なきゃならん」
「ああ、そうだったわね。ごめんなさいね、牧野さん。せっかっく久しぶりにお会いできたのに・・・・・」
「いえ、こちらが無理にお願いをしたんですから・・・・・」
「牧野、座って。時間がないなら、早く食事を済まそう」
 そう言って類に促され、席に着く。
 続いて類のお母さんが席に付き、4人で食事を始めたのだった・・・・・。


 「牧野が、妊娠したんだ」
 オブラートに包むこともなく、いきなりそう切り出した類。
 目の前に2人並んで座っていた類の両親が、一瞬食事の手を止め、目を見開いた。
「まあ、それは・・・・・」
「確かなのか?」
「病院に行って診察を受けてるよ。だから呼んだんだ。俺は・・・・・牧野と籍を入れたいと思ってる。1日でも早く。それを、報告したかったんだ」
 夫妻が、顔を見合わせる。
 その表情からは、考えを読み取ることまではできない。
「報告、か。許しを得たいとかじゃないところがお前らしいな」
 肩をすくめて、お義父さんが苦笑した。
「反対する理由はないでしょ?」
 類の言葉にお義母さんも苦笑する。
「適わないわね。あなたには。籍を入れるのはいいとしても・・・・・これからどうしようと考えているの?あなたは」
 お義母さんの言葉に、類はチラリとあたしを見てから口を開いた。
「時期を見て、式を挙げたいと思ってます。牧野の体の事もあるから、それは牧野と相談して決めたい」
 類の言葉に、お義母さんがクスクスと笑いだす。
「ごめんなさい、急に。あなた、相変わらず牧野なんて呼んでいるのね。籍を入れるのなら、そろそろ名前で呼んであげなくちゃ」
「そうだな。もうすぐ花沢になるのに牧野はおかしいな」
 お義父さんまでがクスクスと笑っている。
 予想外の和やかなムードに、あたしはなんとなく何も言えないでいたが、それでもなんとか口を開く。
「あ、あの」
「なあに?牧野さん」
「あの・・・・・大学は、辞めなくちゃいけないんでしょうか」
 夫妻が、顔を見合わせる。
「・・・・・つくしさんはどうしたいんだね?」
 お義父さんの言葉に、あたしはごくりと唾を飲み、口を開いた。
「私は・・・・・出来れば、辞めたくないです。せっかく通わせて頂いているのに、途中で辞めてしまうのはもったいないと・・・・・」
「だったら辞めることはないわ」
 そう言ってお義母さんが優しく微笑んだ。
「休学という処置が必要にはなると思うけれど、辞める必要はないわ。休学して、1年は育児に専念して欲しいところだけれど・・・・・その辺は類とも相談して決めるといいわ。もちろん、その間は類にも日本にいてもらうようにします。類の仕事についてはいくらでも調整できるわ。ねえ、あなた?」
 お義母さんに笑顔を向けられ、お義父さんは困ったように肩をすくめた。
「まあ、仕方がないな。類とつくしさん、そしてかわいい孫のためとあらばこちらは何でもしよう」
 そう言って、お義父さんはあたしに笑顔を向けた。
「・・・・・心配していたんじゃないかね?私たちに反対されると。婚約したとは言え、まだ大学生の身だ。君は、まじめな子だ。もちろん子供のことも考えただろうが、類の仕事のことも心配していたんじゃないかな?」
 何もかも、あたしの気持ちをわかってくれているような優しい瞳。
 まるで類に見つめられているようで、あたしの胸がきゅんとなる。
「・・・・・言っただろう?君は、私たちにとっても大切な娘だ。君が苦しむようなことはしない。孫の誕生ももちろん楽しみだが・・・・・・君自身の体も、大切にしておくれ。いいね。無理だけはしないように・・・・・。わたしたちが君に言いたいことはそれだけだ。事務的なことは私たちに任せなさい。君は、くれぐれも体に気をつけるんだ。いいね」
「はい・・・・・。ありがとうございます」
「大丈夫よ。類だけじゃないわ。あの2人・・・・・総二郎君やあきら君も付いてくれてるんだもの。3人のナイトたちが牧野さん・・・・・いいえ、つくしさんにはついててくれてるんだもの。こんなに心強いことはないわよね」
 お義母さんの言葉に、類がちょっと肩をすくめて見せた。
 お義父さんが楽しそうに笑う。
「相変わらず楽しくやっているようだな。あの2人は頼りになるだろう。なんといってもつくしさんが信用しているようだからな」
 お義父さんの意味深な言い方に、ちらりと類を見上げれば、類は苦笑してあたしの髪を撫でた。
「・・・・・俺も信用してるよ、あの2人のことは。牧野のことをどれだけ大事に思ってるか・・・・・きっと俺たち3人にしかわからない」
 西門さんと美作さん。
 あたしにとっても、類にとってもとても大切で、切り離せない存在・・・・・・。
 あたしと類の子が生まれても、それは変わらないのだろうか・・・・・・。


 「少しは安心した?」
 類の両親が家を出た後、類があたしの肩を抱いて言った。
「うん・・・・・。ありがとう、類。あたし・・・・・なんだか幸せすぎて罰が当たりそう」
「何言ってんの。牧野はいつもがんばってる。それだけがんばってればこれくらいのご褒美は当たり前だよ。それに・・・・・新しい命のために、これからもっとがんばってもらわなくちゃいけない。だから、俺たちができることは何でもやらせて。遠慮はなしだよ。これから、俺たちは夫婦になるんだから・・・・・いいね?」
「ん・・・・・」
 類の唇が、優しくあたしの唇に重なる。
 何度も啄ばむような、やさしいキス。
 類の傍にいたい。
 類と一緒にいられれば、きっとどんなことも乗り越えていける・・・・・・。

 この時のあたしたちは、この後起こる出来事を想像することなんて、とても出来なかった・・・・・。







  

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