*このお話は、「ブランコ」「X'mas
Panick!!」の続きになります。
「2人きりになれるところならどこでもいいんだ」
そう言って笑った類。
そして冬休み。 連れて来られたのはなんと熱海。 しかも別荘とか高級ホテルとかじゃなく、あたしの実家の方がまだきれいなんじゃないかと思うほどの寂れた温泉宿だった。
「こういうところの方が案外わかりにくいんじゃないかと思って」 「・・・・・かもね。てか、よくこんな宿見つけられたね」 あたしの言葉に満足そうに笑う類。 ここに来てからすこぶる機嫌の良い類。 あたしはみんな一緒でも楽しいかなって思うけど・・・・・。 でも類のそんな嬉しそうな顔を見れるなら悪くないかもと思ってしまった。
ただ、問題が一つ。 それは・・・・・
「失礼しま〜す!お茶お持ちしました〜」 そう言って部屋を開けたのはこの旅館の娘―――家族4人でやっている旅館なのだ―――だった。
もうさっきから3度目だ。 お菓子だとか、お茶だとか、浴衣だとか・・・・・ なにかと理由をつけては部屋に来て、類にぽーっと見惚れているのだ。 18くらいに見えるその娘さんはなかなかかわいらしい人で・・・・・ そりゃあ類はかっこいいし、みとれてしまう気持ちは分かるんだけど。 それでもあまりにもじろじろ見られると悔しい気持ちになるのはなんでだろう。 娘さんが類に見惚れながら出て行くのを見て、あたしは小さく溜め息をついた。 「疲れちゃった?」 類が心配そうにあたしを見る。 「ううん、大丈夫だよ。まだついたばっかりだし」 「・・・・・顔、引きつってるよ」 「え!」 と、思わず両手を頬に当てると、類がにやりと笑った。 「あ・・・・・」 ・・・・・引っかかった。 「・・・・・ちょっと、妬いてた?」 「べ、別に・・・・・」 ぷいと顔を背けると、類がクスクスと笑う。 「あんたは、嘘つけないんだから」 馬鹿にされてるみたいで悔しくてジロリと睨むと、思いの他優しい顔に出会い、ドキリとする。 あまりに優しい瞳に見つめられて、何も言えずにいると、ふいに類に抱きしめられた。 「牧野、かわいい」 「・・・・・かわいくなんか、ないよ・・・・・」 「かわいいよ。そうやってやきもち妬いてくれるのも嬉しい。でも、心配しないで。俺が好きなのは、牧野だけ」 その言葉が嬉しくて・・・・・ でも、ちょっと照れくさくて・・・・・ そのまま顔を上げられなくなってしまう。 「牧野・・・・・顔上げて」 類が、抱きしめていた手を緩める。 「や。今あたし、真っ赤だもん。恥ずかしい」 「いいから」 そう言って類は、あたしの顎を人差し指でクイッと持ち上げた。 「すごく、かわいいよ」 「恥ずかしいってば・・・・・」 顔を背けたくても類の手がそれをさせてくれなくて、余計に恥ずかしくなってしまう。 「どんな牧野も好き。だから・・・・・」 ゆっくりと重なる唇。 啄ばむようなキスから、深い口付けに変わるまで、さほど時間はかからなかった・・・・・
結局気付けば外は暗くなっていて。 せっかく来たのだから、熱海の町を散策しようと思っていたのに、とがっかりするあたしの横で、満足そうに微笑む類。 「言ったでしょ?俺は、牧野と2人きりになりたかったの。町の散策なら、明日出来るよ。今日は・・・・2人きりを堪能したい・・・・・」 そう言ってまたあたしの腰に手を回し、ぎゅっと抱き寄せる類。 そんな風にされれば、あたしだって嫌とは言えなくて・・・・・・
「で、でもさ、せっかく来たんだし、温泉、入りにいこうよ」 その言葉に、類はう〜んと考えて・・・・・・ 「・・・・・わかった。じゃ、行こう」 そう言って立ち上がり、あたしの手を引いて部屋を出ようとする。 「え、類?タオルとか・・・・・」 慌てるあたしを振り返り、余裕の笑み。 「大丈夫。用意してくれてるから」 その笑顔に、なんとなく嫌な予感・・・・・・。
「・・・・・聞いてないよ」 そこは家族風呂。 そう、夫婦が2人きりで楽しめるようになっている個室になった温泉だった・・・・・。 「これがあったから、ここ選んだんだよ」 温泉につかりつつ、あたしを抱きしめる手を緩めない類が言った。 素肌が触れあい、すぐ耳の後ろで類の甘い声が響く。 あたしの心臓はさっきからどくどくと激しい鼓動を打っていて・・・・・ このままじゃ、早々にのぼせてしまいそうだった。 「でも、気持ちいいでしょ、温泉」 「う・・・・・うん、それは・・・・・」 「牧野と2人きりで、ゆっくりしたかったんだ・・・・・」 「類・・・・・・」 温泉の中で向きを変えられ、2人向き合う格好になると、さすがにあたしは類を直視できず、俯いてしまい・・・・・ そんなあたしの頬に手を添え、顔を類のほうへ向かされる。 「ちゃんと、俺のほう見て」 温泉の中で響く、類の甘い声に眩暈を感じる。 「愛してる・・・・・」 類のきれいな顔が近づき、唇が重なり、そのまま深い口付けを続ける。
でも、さすがにこの場所でそれを長く続けることはできなくて・・・・・ 「・・・・大丈夫?のぼせちゃった?」 「かも・・・・・・」 はあっと息を吐き出すと、類があたしをじっと見つめる。 「・・・・・部屋、もどろっか・・・・・・」 すっと耳の後ろを撫でる指の動きに、ピクリと震える。 「類・・・・・?」 「そんな色っぽい牧野見てたら・・・・・我慢できない・・・・・」 熱っぽい瞳で見つめられ、あたしは何も言えなくなってしまう。
やっぱり少しのぼせていたあたしは、そのまま類に抱えられるように部屋に戻り・・・・・・ そのまま、熱く、甘い夢の中へと誘われていったのだった・・・・・・・
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「よお、牧野!類!」 翌朝目覚めたあたしたちの目の前でくつろいでいたのは、なぜか既に温泉に浸かったあとの西門さんの美作さんだった・・・・・・・
fin.
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