***夢のあと vol.5 〜類つく〜***



 
 ―――花沢類に会いたかったよ。ずっと―――

 ―――でも、会えばきっと甘えてしまうから―――

 ―――弱いあたしを、見られたくなかった―――

 ―――ずっと―――会いたかったよ―――


 途中からはよく覚えてない。

 泣きじゃくってしまったあたしを落ち着かせようと、花沢類に勧められたカクテルを飲んだ。

 思いのほかおいしくて、飲みすぎてしまったかもしれない。
 


 ガンガンと痛む頭を抑えつつ、起き上がる。
「った・・・・・きもちわる・・・・・」
 ふらふらとベッドから出て、部屋を見渡して―――ようやく気付く。

 「―――ここ、どこ・・・・・?」

 自分の部屋じゃないことはすぐに分かった。

 こんな広くてきれいな部屋、自分の部屋のわけない。

 そして殺風景なほどもののないこの部屋は―――

 「おはよ。気分どう?」

 そう言って入ってきたのは、花沢類だった―――


 「だいぶべろべろに酔っぱらってたからね。うちに連れてきた。覚えてないでしょ?」
「―――全然。ほんっとごめん。迷惑かけて―――」
 つくしの言葉に、類は優しく笑った。
「俺は楽しかったよ。あんなにべろべろに酔っぱらう奴、初めて見たかも」
「意地悪な言い方」
 むっと口を尖らせるつくしに、類はますますおかしそうに笑った。
「牧野が変わってなくて嬉しいよ。綺麗になったと思ったけど―――中身が昔のまんまだ」
「化粧がうまいってこと?」
「ばか。そうじゃないよ」
 類が笑うのをやめ、つくしを見つめる。
 突然見つめられて、つくしの胸が高鳴る。
「な、なによ」
「―――変わってないのは中身。やっぱり牧野は牧野だ。昔の―――俺が好きだった牧野だ」

 まっすぐに見つめる、ビー玉のような瞳。

 変わっていないのは花沢類の方。

 そう言おうとしても声にならない。

 類の繊細な手が、つくしの頬に触れた。

 ピクリと震えるつくし。

 「花沢類、あたしは―――」

 「俺、まだあきらめてないよ」

 「―――え?」

 にっこりと、無邪気な笑み。
 昔と変わらないその笑みで、類は続けた。
「俺の気持ちは、少しも変わってない。昔のまま―――まだ、牧野が好きだよ」
 つくしの目が、驚きに見開かれる。
「―――ちょっと―――待って。あたし、付き合ってる人が―――」
「知ってる。でも、本当に好きなわけじゃない」
「―――好きじゃないわけじゃない。いい人だし、まじめだし・・・・・ちゃんと、大事にしてくれてる」
「じゃ、彼と結婚するつもり?」
「結婚て―――」
「真剣に付き合ってるなら、当然考えてるんじゃない?真面目な人ならなおさら。彼にプロポーズされたらどうするの?」
「どうするって―――」
「真剣に付き合ってるなら―――牧野だって、考えておかなくちゃいけないんじゃないの?」

 つくしは反論することもできず―――

 相変わらず自分を見つめる穏やかな瞳をじっと見返していた。

 「―――類って、そういう人だよね」
「俺が?どんな人?」
「人が答えにくいこと―――そうやってズバリ切り込んでくる。あたしがなんて答えるかも―――大体、わかってるんでしょ?」
「―――たぶん、牧野よりも牧野のことわかってるよ。ずっと、見てきたからね」
「1年以上離れてたのに?」
「それくらいで、中身まではなかなか変わらないものじゃない?―――答えにくいなら答えなくてもいいよ。昨日、ちゃんとその答えは聞いてるから」
「は?」
 目を丸くするつくしに、くすりと笑いながら。
「べろべろに酔っぱらってたけど、話してたのは本心でしょ?」
「あ、あたし、何を―――」
 さーっと青くなるつくし。

 そんなつくしを楽しそうに見つめながら。

 類は、その口を開いた。

 「―――花沢類が好きだって。ずっと―――忘れられなかったって―――」





  

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