―――花沢類に会いたかったよ。ずっと―――
―――でも、会えばきっと甘えてしまうから―――
―――弱いあたしを、見られたくなかった―――
―――ずっと―――会いたかったよ―――
途中からはよく覚えてない。
泣きじゃくってしまったあたしを落ち着かせようと、花沢類に勧められたカクテルを飲んだ。
思いのほかおいしくて、飲みすぎてしまったかもしれない。
ガンガンと痛む頭を抑えつつ、起き上がる。
「った・・・・・きもちわる・・・・・」
ふらふらとベッドから出て、部屋を見渡して―――ようやく気付く。
「―――ここ、どこ・・・・・?」
自分の部屋じゃないことはすぐに分かった。
こんな広くてきれいな部屋、自分の部屋のわけない。
そして殺風景なほどもののないこの部屋は―――
「おはよ。気分どう?」
そう言って入ってきたのは、花沢類だった―――
「だいぶべろべろに酔っぱらってたからね。うちに連れてきた。覚えてないでしょ?」
「―――全然。ほんっとごめん。迷惑かけて―――」
つくしの言葉に、類は優しく笑った。
「俺は楽しかったよ。あんなにべろべろに酔っぱらう奴、初めて見たかも」
「意地悪な言い方」
むっと口を尖らせるつくしに、類はますますおかしそうに笑った。
「牧野が変わってなくて嬉しいよ。綺麗になったと思ったけど―――中身が昔のまんまだ」
「化粧がうまいってこと?」
「ばか。そうじゃないよ」
類が笑うのをやめ、つくしを見つめる。
突然見つめられて、つくしの胸が高鳴る。
「な、なによ」
「―――変わってないのは中身。やっぱり牧野は牧野だ。昔の―――俺が好きだった牧野だ」
まっすぐに見つめる、ビー玉のような瞳。
変わっていないのは花沢類の方。
そう言おうとしても声にならない。
類の繊細な手が、つくしの頬に触れた。
ピクリと震えるつくし。
「花沢類、あたしは―――」
「俺、まだあきらめてないよ」
「―――え?」
にっこりと、無邪気な笑み。
昔と変わらないその笑みで、類は続けた。
「俺の気持ちは、少しも変わってない。昔のまま―――まだ、牧野が好きだよ」
つくしの目が、驚きに見開かれる。
「―――ちょっと―――待って。あたし、付き合ってる人が―――」
「知ってる。でも、本当に好きなわけじゃない」
「―――好きじゃないわけじゃない。いい人だし、まじめだし・・・・・ちゃんと、大事にしてくれてる」
「じゃ、彼と結婚するつもり?」
「結婚て―――」
「真剣に付き合ってるなら、当然考えてるんじゃない?真面目な人ならなおさら。彼にプロポーズされたらどうするの?」
「どうするって―――」
「真剣に付き合ってるなら―――牧野だって、考えておかなくちゃいけないんじゃないの?」
つくしは反論することもできず―――
相変わらず自分を見つめる穏やかな瞳をじっと見返していた。
「―――類って、そういう人だよね」
「俺が?どんな人?」
「人が答えにくいこと―――そうやってズバリ切り込んでくる。あたしがなんて答えるかも―――大体、わかってるんでしょ?」
「―――たぶん、牧野よりも牧野のことわかってるよ。ずっと、見てきたからね」
「1年以上離れてたのに?」
「それくらいで、中身まではなかなか変わらないものじゃない?―――答えにくいなら答えなくてもいいよ。昨日、ちゃんとその答えは聞いてるから」
「は?」
目を丸くするつくしに、くすりと笑いながら。
「べろべろに酔っぱらってたけど、話してたのは本心でしょ?」
「あ、あたし、何を―――」
さーっと青くなるつくし。
そんなつくしを楽しそうに見つめながら。
類は、その口を開いた。
「―――花沢類が好きだって。ずっと―――忘れられなかったって―――」
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