いかにも総二郎が好みそうな、ムーディーでおしゃれなバーだった。
類はつくしの手を握ったままカウンターの席に着くと、つくしの分もカクテルをオーダーした。
「牧野と2人で飲むのは初めてだね」
そう言ってにっこりと微笑む類に、つくしの胸がどきんと音を立てる。
「そ、そうだっけ・・・・・。それにしても、どうして急に帰って来たの?仕事で?」
しばらくは、仕事の拠点はフランスになる。
フランスへ発つとき、確かそう言っていた。
と、類はちらりとつくしを見てからふっと笑った。
「―――フランスでの修行は終わり」
「修行?だったの?」
「もう、当分は日本が拠点になるよ。出張でたまに海外に行くことはあるだろうけど、帰ってくるのはここになる」
「そうなんだ」
「―――もっと早く、帰ってきたかったな」
そっと囁くような声。
だけどつくしにだけはしっかりと届く、甘く切ない声―――
「―――なんで、彼と付き合ってんの」
「なんでって―――」
「付き合おうって言われて、断る理由がなかった?」
その言葉に、思わずぎょっとして類を見上げるつくし。
「あたり?そんな感じに見えた。特に好きでもないのに、何となく付き合ってるみたいな」
「な―――勝手に想像しないでよ、あたしは別に―――」
「違うの?」
「―――――」
何も言えなくなるつくしの手を、両手で包みこみその指先にキスを落とす。
突然の行為に驚き、固まるつくし。
類の瞳が、つくしを真正面から見つめた。
「司と別れたって聞いて―――すぐにでも飛んできたかった。心配で―――だけどどうしても帰ってこれなかった。それで、時々総二郎に牧野の様子聞いてた」
「な、なんであたしに直接聞かなかったの?」
「だから、携帯変えてただろ?」
「あ―――」
「教師になって、英徳に就職したって聞いて、少しは安心してたんだけど・・・・・まさか、あんな男と付き合うなんてね」
「あんなって―――東野先生は別に、悪い人じゃないよ」
「そう。別にどうでもいいんだ、相手のことは。ただ―――牧野が、好きでもない男と付き合うなんて、らしくないって思って」
つくしを見る類の瞳が、厳しくなった気がした。
特に断る理由がなかったからというのは本当だけれど。
でも・・・・・・
「そんなに―――辛かった?どうして―――俺を頼ってくれなかった?」
「―――だって、花沢類はいなかったじゃない。フランスになんて、いけるわけないし」
「だからって、あいつと?」
「だって、仕方ないじゃない!」
突然大きな声を出したつくしに、類は目を見開いた。
つくしの大きな瞳から、涙がこぼれおちた。
「―――道明寺と別れたこと、後悔なんてしてない。でも―――その後、どうしていいかわからなかった。1人になって―――心にぽっかり、穴が開いたみたいで―――1人は―――嫌だった」
「牧野―――」
「誰かに、傍にいてほしかった―――。ただ、それだけだった―――」
F4という存在が、どれだけ自分の中で大きかったかということを思い知らされた。
4人が自分から遠ざかり、1人になった時。
どうしたらいいかわからなかった。
でもそこで、F4を―――花沢類を頼っちゃいけないと思った。
1人で、生きていかなくちゃ。
でもやっぱりさびしくて。
心の隙間を埋めたくて―――
目の前に現れた東野先生に、縋ってしまった―――。
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