「あの、すいません」
昨日と全く同じシチュエーション。
つくしは、くるりと振り返った。
そこに立っていたのも、やっぱり昨日と同じ女の子で―――
「えーと・・・・・さやか、さん?」
つくしの言葉に、さやかはぺこりと頭を下げた。
「昨日は、すいませんでした」
「別に、そんなの―――で、今日は―――岳三くんに会いに来たの?」
「いえ、その―――」
もじもじと胸の前で手を握り合わせ、視線を泳がせるさやかに、つくしは首を傾げた。
「その―――牧野さんに―――相談が」
「あたしに?」
「はい―――あ、あの、もしお忙しいなら別に―――」
「あ、大丈夫だけど。じゃ、中に入ろうか」
そう言ってつくしは、さやかを西門邸に招き入れたのだった・・・・・。
「自信が、ないんです」
さやかの言葉に、つくしは目を瞬かせた。
とりあえずつくしの部屋へ通し、リラックスしてもらおうと自分で紅茶をいれ、さやかをもてなしてみた。
そしてようやく緊張がほぐれだした頃―――
そう言って、さやかは視線を落としたのだ。
「自信がないっていうのは―――岳三くんに対して?」
つくしの言葉に、こくんと頷くさやか。
「同じ大学で、同じ学部で―――あたし、最初は大嫌いだったんです。いつもたくさんの女の子と一緒で、外でもいつも違う女の子連れて。なんて人だろうって思ってて・・・・・でもある日、デパートで見かけた時―――彼、迷子になった小さな女の子と一緒で。デートの最中だったらしいんですけど、女の子に泣きつかれてしまって―――でも、うんざりしたような顔しながらも、彼、ちゃんとその女の子の面倒見てあげてて。一緒にいた彼女の方が嫌がって帰っちゃったんです。その光景をあたしずっと見てて・・・・・彼のこと、誤解してたなって思ったんです。上辺だけ見て判断してたんだって」
さやかの話を、つくしは黙って聞いていた。
「それで、その女の子がデパートの迷子係に行っても彼から離れなくて、仕方なくそこに彼も残ってるの見て、あたし黙ってられなくて―――その女の子のお母さんを、一緒に探したんです。それで無事に見つかって―――その時の彼が、すごい嬉しそうで、その笑顔が忘れられなくて―――。でも、彼にはきれいな彼女がたくさんいて。あたしなんて、とても太刀打ちできないって―――」
「でも、岳三くんはあなたのこと―――」
つくしの言葉に、さやかは戸惑いながらも頷いた。
「好きだって、言ってくれました。嬉しくて―――でも、信じられなくて・・・・・彼の誕生日に一緒に過ごすことができて、すごく幸せだったのに、あたし、彼のこと疑ってしまって―――それで、喧嘩してしまったんです」
「そうだったの」
「この間―――彼と牧野さんが、2人で彼の家へ入って行くのを見て―――すごくショックで。だけど、どうしても諦めきれなくて、それで・・・・・」
―――そっか。だからあたしに―――
「彼に―――聞きました。牧野さんは、お兄さんの親友の婚約者だって。それで、その時またあらためて告白されたんです。あたしのことが好きだって。将来のことも、ちゃんと考えてるって」
「よかったじゃない。それなら何も―――」
「だけど、不安なんです!」
さやかの顔がくしゃりと歪み、その瞳には涙がにじんでいた。
「あたしなんて、本当に普通の家庭の、普通の女で、何の取り柄もないのに―――彼の隣にいてもいいんだろうかって。お茶の世界のことだって全然わからない。興味もないし、それなのに―――」
意外とはっきり言う子だな、とつくしは思い。
「大丈夫だと思うよ」
そう言ってにっこりと微笑むつくしを、さやかは戸惑って見つめた。
「岳三くんは、本気であなたのことを思ってると思うし―――。あなたも彼が好きなら、なんの問題もないんじゃない?」
「でも―――」
「あなたはあなたの思った通りにすればいいと思う。岳三くんもそれを望んでるし―――。あのね、あたしだって一般家庭の人間だよ?それこそ、英徳に行けるような経済状態じゃなかった。西門さんとこもそうだけど、あの学校に通う人たちとは違う世界の人間だと思ってた。だけど、今は―――そういう壁を作ってたのはあたし自身だったって気付いたの。気付かせてくれたのは―――仲間たち。西門さんも、そう。岳三くんがあなたを好きだっていうのなら―――その気持ちを信じてあげるだけで、いいと思うけど」
その言葉に、さやかはつくしをじっと見つめていた―――
「で、結局彼女は納得したわけ?」
さやかが帰った後、ちょうどで先から帰って来た総二郎を玄関で迎える形になり、そのままつくしは総二郎の部屋へ。
総二郎の入れてくれたコーヒーを飲みながら、つくしは首を傾げた。
「さあ。でも、たぶん大丈夫じゃないかな。岳三くんの気持ちはちゃんと受け止めてるみたいだし。後はあの2人次第じゃない?」
「つーか、岳三次第だよな。あいつもフェミニストだから。彼女が好きなら、ちゃんと態度で示してやりゃあいいんだ」
総二郎のその言葉に、つくしが目を瞬かせる。
それを見て、総二郎の顔が引きつる。
「なんだよ、その顔」
「いや―――西門さんの口からそんな言葉聞くと思わなかったなって。好きな人でもできた?」
つくしの言葉に、思わずこける総二郎。
力が抜ける、とはこのことだと思った。
「―――おれこそ、お前の口からそれを言われるとは思わなかったよ」
溜め息とともに言えば、つくしは不思議そうに首を傾げる。
「そう?」
つくしの兄貴役に徹しようと決めている総二郎だけれど。
早く類の家の改修工事が終わればいいのに、と願わずにはいられなかった・・・・・。
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