***夢のあと vol.40 〜類つく〜***



 
 「あの、すいません」

 仕事を終え、西門邸に入ろうとしたつくしは、誰かに声をかけられた。
 振り向くと、そこには見覚えのない大学生くらいの女の子が立っていた。
 色白でおとなしそうな、なかなかかわいらしい女の子だった。
「はい、何でしょう?」
 つくしが言うと、その女の子は手をもじもじとさせながら、上目遣いにつくしを見た。
「あの―――突然すみません、あなたは―――この家の方、ですか?」
「え―――」
 ちらりと西門邸を見る女の子。
「えーと、何と言ったらいいか―――ちょっと、居候させてもらってるんです。一時的に。あの、もし誰かに用なら呼んできますけど?」
 つくしの言葉に、女の子は微かに頬を染める。
「い、いえ、いいんです。別に用ってわけじゃ―――」
 そこまで言った時。
「牧野?何してるんだ、そんなとこで」
 そう言って出て来たのは、総二郎だった。
「あ、西門さん、あの―――」
「あれ?君、どこかで―――」
 総二郎が、その女の子を見るなり首を傾げる。
「知りあい?」
「ていうか、見たことが―――あ、思い出した。先月―――岳三の誕生日に、あいつと一緒にいた子でしょ」
 にっこりと微笑む総二郎。
 女の子の頬は見る間に赤くなり―――
「岳三くんの彼女?」
「か、彼女じゃ、ないです、あたしは、その―――」
 しどろもどろになる女の子。
 かなりテンパっているようだ。
 総二郎とつくしは顔を見合わせ―――
「よかったら、中で待つ?もうすぐあいつも帰ってくると思うけど」
「あ、いえ、あたしは―――」

 「さやか?」

 少し離れた所から聞こえてきた声に、女の子の体がびくりと震える。
「お前、何して―――」
「ご、ごめんなさい!失礼します!」
 そう言うと、女の子は突然ぴょこんと頭を下げ、岳三の方を振り返りもせずに猛ダッシュで走り出した。
「おい!さやか!」
 その後を追って走り出す岳三。

 しばしその光景に呆気にとられていた2人だが―――
「―――あの子、たぶん岳三の本命」
 総二郎の言葉に、つくしは驚いてその顔を見上げた。
「え、そうなの?」
「ん―――。俺が言うのもなんだけど、あいつは昔からかなり遊んでたけど、付き合う女のタイプってのがだいたい俺と一緒で―――モデル系で、頭空っぽな感じの女。つきあってても後腐れのないタイプばっかり。けどどれも本気じゃないのは見ててもわかる。だけど、先月あいつの誕生日に、偶然街であの子と歩いてるの見かけて―――。すぐにぴんときたよ。今までとは全く違うタイプで、あいつの表情も違ってたし。だけどそれ以来見ないし、相変わらず不特定多数の彼女と遊んでるっぽかったから―――振られたのかって思ってた」
「へえ・・・・・彼女が・・・・・」

 ―――そういえば、ちょっと更さんに似た感じかも―――?

 「お前は、彼女と何話してたの?」
「え?ああ―――あたしに、この家の人ですかって。だから、一時的に居候してるんだって言ったんだけど―――まずかったかな」
「いや―――大丈夫だろ。まあ、もしかしたらちょっと誤解してたのかもしれねえけど。大した問題にはならねえと思うぜ?」
「そう?ならいいけど―――」  そう言って、つくしはいらりと2人が消えていった方向に目をやり―――

 総二郎が中に入っていくのに気付き、慌ててその後を追ったのだった・・・・・。


 「岳三の彼女?」
 その日の夜、仕事から帰ってきた類に、つくしは今日のことを話した。
「うん。西門さんが、その子が本命じゃないかって。かわいい子だったよ」
「ふーん」
 そう言って、気のない様子でベッドにごろりと横になる類。
 つくしは類の傍に行き、ベッドに腰掛けた。
「疲れてる?」
 そう言うつくしの腰に、類の手が伸びる。
「少しね。いつもと変わらないよ。牧野は?変わりない?」
 腰の辺りに類の息がかかり、くすぐったくて身を捩る。
「か―――変わり、ないよ。ねえ、類、明日も仕事だし―――」
「そうだね」
「あの、そろそろ寝ないと―――」
「寝れない」
「あの―――」

 その瞬間、グイっと腕を引っ張られてつくしの体はベッドに仰向けにされる。

 「寝る前に、確かめないと、安心できない」
 にっこりと微笑む類の笑顔に、つくしの笑顔はひきつる。
「た、確かめるって、何を―――」
「今日も、無事だったかどうか」

 そうして、つくしが口を開く前に熱い口付けが落ちてきて―――

 そのまま朝まで、つくしがベッドから出られなかったことは言うまでもない―――。





  

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