***夢のあと vol.37 〜類つく〜***



 
 つくしの気持ちではなく、自分自身の気持ちを確かめるため。

 そうして総二郎は自分とつくしの関係を再認識させることができた。

 自分の中でのつくしの存在。

 それをはっきりさせないことには、この胸の中のもやもや感はなくならないと思ったから。

 類にはちょっと睨まれてしまったけれど・・・・・。

 だけど、2人にとってもっと厄介な問題が持ち上がることになる。

 それが、総二郎の弟、岳三の存在だった・・・・・。



 「おはよう、牧野さん」
 朝、つくしが2人で西門邸の庭を散歩していると、岳三が反対側からやって来た。
「あ、おはよう、岳三くん。早いのね」
「牧野さんこそ。類さんは、まだ寝てる?」
「うん。あたしは目が覚めちゃって・・・・・。ここの庭は気持ちいいね。すごく手入れが行き届いてて」
「ま、一応茶道の家元の家だしね」
 肩をすくめて言う岳三に、つくしはちょっと笑った。
「他人事みたいに言うんだ。岳三くんだって、ちゃんとやってるんでしょ?」
「まあね。小さいころからたたきこまれてるよ。でも、家を継ぐのは兄貴だし、俺は気軽なもんだよ」
「そうなの?あたしにはよくわからないけど―――。お茶の世界って、神秘だよね」
 つくしの言葉に、吹き出す岳三。
「神秘って。牧野さん、面白いこと言うね」
「え―、だって、本当にそう思うもの。まだまだ、あたしなんて何もわかってない素人だけど、それでもあの茶室に入ると何となく厳かな気持ちになるの」
「その神聖な茶室を、ラブホ代わりにしてたやつもいるけどね」
 くすくすと笑いながら岳三が言うのに、つくしの頬が微かに染まる。
「それ、お兄さんのこと?それとも岳三くん?」
「ん―、両方?最近は俺のが多いか。兄貴、遊ばなくなったからなあ。牧野さんのせいでしょ?」
「あたし?」
 つくしが目を丸くする。
「あれ、気付いてないんだ。兄貴もかわいそうに」
 くすりと笑って岳三がそう言った時。
「岳三、余計なこと言うな」
 そう言って姿を現したのは、総二郎だった。

 じろりと、鋭い視線が岳三を睨みつける。
「こわっ。そんなに睨みつけなくたって、牧野さんに手ぇ出したりしねえよ」
「当たり前だ。類の婚約者だぞ」
「わかってるって。じゃ、牧野さん、またね」
 そう言って笑うと、岳三は悠々と歩き屋敷の方へと戻って行った・・・・・。

 その後ろ姿を見送り、総二郎がつくしに向き直る。
「岳三には気をつけろって言ったろ?」
 その言葉に、つくしは目を瞬かせる。
「どうしたの?そんな怖い顔して―――。普通にしゃべってただけだよ?」
 つくしの言葉に、溜め息をつく総二郎。
「あのな、あいつは俺より危険なんだよ。なんでそうなったんだか―――人のものほど欲しくなる傾向があるんだ。今まであいつが付き合って来た女の半分ぐらいが、もともと俺の彼女だった女だよ。まあ俺も本気で付き合ってたわけじゃねえから、とられたって別にどうってことなかったけど。お前の場合は、放っておくわけにはいかねえ。わかるだろ?類と無事結婚したいんだったら、少し自分でも気をつけろ」
 真剣な総二郎の言葉に、つくしは戸惑いながらも素直に頷いたのだった・・・・・。


 「岳三の事?そりゃあ、総二郎の弟だからね。昔から知ってるけど―――。岳三がどうかした?」
 部屋に戻り、つくしはようやく目を覚ました類と話していた。
「西門さんと、仲悪いのかなって。さっきもなんだか気まずい雰囲気だったし―――」
「さっき?岳三と総二郎に会ったの?」
 じろりと類がつくしを見る。
「あ、お庭散歩してたらね。そりゃ、西門さんちだもん。会うでしょ」
「―――で、気まずかったって?」
「なんとなくね。西門さんに、岳三には気をつけろって言われちゃった。そんなに危険人物なの?」
「さあ。俺も詳しいことは知らない。―――けど、総二郎がそう言うならそうなんじゃない?牧野は、とにかく気をつけて」
「は〜い」

 類にも釘を刺され、つくしは頷いたが。

 本当に危険があるなんて、思ってはいなかった。

 言っても、総二郎の弟なのだから。

 そう思っていた。

 そういうところが甘いんだと、類や総二郎には言われてしまうんだろうと思いながら・・・・・。


 その日、つくしは仕事を終えると必要な文房具などを買いに学校の傍の文房具店へ寄っていた。
 少し回り道しながら、ゆっくりと帰路を歩いていた時だった。
 途中、通り抜けようと入った公園で見知った顔を見つけた。

 ―――岳三くん?

 公園に生い茂る木々の間、若い女性―――岳三よりは年上に見えた―――と、口論しているようだった。

 気にはなったが、さすがにそこに入って行くほどつくしも馬鹿ではないので。

 そのまま通り過ぎようとした時だった。

 “パンッ“という乾いた音が響いてきたかと思うと、その女性がつくしの方へと走って来たのだ。
「うわっ」
「あ、ごめんなさい―――」
 危うくぶつかりそうになり、女性は一言そう言って、公園の外へとかけて行ってしまったのだった・・・・・。

 「牧野さん?」
 呆然とその女性を後ろ姿を見送っていると、岳三がつくしに気づいてやって来た。
「あ―――」
「驚いた。そういや英徳の先生だったよね。今帰り?」
「あ、うん。文房具屋さんに寄ってて・・・・・」
「そっか―――。今の、見てた?まずいとこ見られちゃったな」
 そう言って頭をかく岳三に。
「あー、心配しなくても西門さんには言わないから」
 と言うと、岳三の方が目を瞬かせた。
「ああ、大丈夫だよ。兄貴に言ったって。いつものことだって思うだけだから」
「いっつものこと―――なの?」
「―――まあね。我ながら、褒められた話じゃないけど」
 そう言って照れくさそうに笑う岳三は。

 やっぱり総二郎に似てるな、と思うつくしだった―――。





  

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