***夢のあと vol.27 〜類つく〜***



 
 「あの司と滋が婚約とはね」

 土曜日、類の部屋で。

 なぜか総二郎と3人でくつろぎながらTVを見ていた。

 司と滋の婚約発表の記者会見。
 ちらりと昔の、つくしとのことを聞こうとした記者もいたが、司と、その隣に控えていた司の母親に睨まれ、それ以降は一切その話題は出ず。
 カメラのフラッシュがたかれる中、司と滋は何度も見つめあい、和やかな記者会見となったのだ・・・・・。

 「まあ、これで司とのこともはっきりしたし―――お前らも心置きなく結婚できるんじゃねえ?」
 総二郎の言葉に、類とつくしは顔を見合わせた。
「そうだね。俺はつくしさえいいって言えばいつでもいいんだけど」
「え?あたし?」
「婚約はしてくれたけど―――結婚っていうとその話から逃げようとするからさ」
 類の言葉に、つくしはそうだったっけと首を傾げる。
 確かに、結婚はまだ急がなくてもいいかなとは思っていたけれど―――。
「時期だけでも、決めちゃえば。婚約期間が長過ぎると返って婚期が遅れることもあるらしいから」
 との総二郎の言葉に、確かにそうなのかも―――と考え始めるつくし。
 そんなつくしを見て、類はちょっと嬉しそうに微笑んだ。
「よかった」
 類の言葉に、目を瞬かせるつくし。
「何が?」
「結婚する気がないわけじゃないんだ」
「あ、当たり前でしょ。あたしだっていつかはって―――」
「じゃ、来年3月」
「―――は?」
「なんだよ、もう決めてんのか」
 総二郎の言葉に、類がにやりと笑う。
「総二郎もさっき言ってたけど―――待ってると長くなりそうだからさ、勝手に決めてきた」
「な―――じゃああたしの意見って、最初から必要ないんじゃない」
「そんなことないよ。牧野が嫌だって言うなら無理にとは言わない。でも―――嫌とは言わないでしょ?」
 そう笑顔で言われて。

 つくしはその頬を染めながらも、ちょっと口を尖らせ拗ねたような表情を見せた。
「―――言うわけ、ないじゃない。嫌だなんて―――」
 そのまま見つめあう2人に。

 総二郎がふーっと溜め息をつくと、立ち上がった。
「俺、帰るわ。このままだと存在忘れられそうだし。式の日取りが決まったら教えてくれよ―――」
 と言ったところで、類の携帯が着信を告げた。

 「―――はい―――うん―――」
 電話に出た類の表情が、徐々に曇っていくのを見て総二郎は出ていこうとしていた足を止めた。
「―――断れないの?―――でも、俺は―――」
 眉間にしわを寄せ、困ったように溜め息をつく。
 仕事の話なのか、難しい顔で考え込む類。
 つくしと総二郎はちらりと顔を見合わせた。
 類が、そんな表情をすることは珍しい。
 余程難しい問題なのか―――

 「―――わかった。後でこっちから連絡するって言っておいて―――。うん、じゃあ」
 電話を終えた類の表情もやはり曇ったままで。
「おい、どうしたんだよ。何かトラブルか?」
 総二郎の言葉に、軽く首を振る。
「いや―――ごめん、ちょっとこれから出なくちゃならなくて―――」
「仕事?」
「うん、まあ―――」
 つくしの問いにも、なんだか歯切れが悪い。
 明らかにいつもの類ではないのだ。
 それが気にはなったが―――

 「―――わかった。牧野、俺の車で送ってくから乗れよ」
「え、でも―――」
「ほら、行くぞ」
 そう言って総二郎がつくしの腕をグイと引っ張る。
 いつもだったらそこで文句を言うはずの類だが、この時はそれを気にする余裕もなく。
「ごめん、後で連絡する」
 そんな類を見て。
 つくしは仕方なく立ち上がると、総二郎とともに家を出たのだった・・・・・。


 「ありゃあ、よっぽどのことだぜ」
 車を運転しながらそう言う総二郎に、つくしも頷いた。
「なんだろう。やっぱり仕事で何か―――」
「いや、あれは違うな」
 妙に確信めいた総二郎の言葉に、つくしは眉を顰める。
「どういうこと?」
「仕事って感じじゃなかったってこと。あれは―――」
 そこまで言って言葉を止めると、つくしをミラー越しにちらりと見る。
「な、何?」
「いや―――。あんまり心配すんな。あいつのことだ、きっとうまくやんだろ」
 なんだか総二郎まで歯切れが悪い。
 つくしは首を傾げ―――
 家に帰ってからもなんだかすっきりしない気分で過ごすことになり。

 そして翌日の日曜日にも、結局類から連絡が来ることはなかったのだった―――。





  

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