「あ、先生幸せそうな顔してる」
廊下で、突然かけられた声にドキッとして振り返る。
そこにいたのは予想通りちょっとおもしろくなさそうな顔をした優介だった。
「婚約者、帰って来たんだ」
「―――まあね。村上くん、そういう話、ここでは―――」
つくしが声をひそめると、優介は肩をすくめた。
「先生と婚約者の話なら学園中の奴らが知ってるよ。なんてったってあのF4が相手なんだから。別にいいじゃん、やばいことしてるってわけでもなし」
「そうだけど―――、村上くん、なんか性格変わった?」
つくしの言葉に、優介がくすりと笑った。
「俺はもともとこういう奴。ずっとポーズ作ってただけ。―――こないだ牧野先生に言われて・・・・・なんか気が楽になったんだ。もう、『みんなの人気者』を演じなくてもいいんだなって。感謝、してるよ。失恋しちゃったけどね」
そう言って笑う優介に、つくしは微笑んで見せた。
「いい顔、してる。大丈夫。そのままの村上くんでも十分人気者になれると思うから」
もともと、演じる必要なんてない。
どこかすっきりした顔の優介を見て。
優介と関わってよかったのかもしれないと、つくしは思ったのだった・・・・・。
「―――満たされた顔してやがんなあ」
放課後、学校を後にしたつくしの目の前に現れたのは、いつもの車に乗った総二郎だった。
「お前、昨日家に帰ってねえだろ」
にやりと笑みを浮かべた総二郎に、つくしの顔が朱に染まる。
「な、何でそんなこと―――」
「そんな顔してりゃあ聞かなくてもわかる。―――ま、いいや。乗れよ」
「え―――どこに行くの?」
「空港。あきらの見送り」
「結局、美作さんが日本にいる間に1度しか会えなかったね」
空港であきらを前にして、つくしは寂しそうに言った。
「くそ忙しかったからなあ。類とも会えなかったし」
「あいつも帰って早々忙しいみたいだな。来たがってたけど―――」
総二郎はぐるりと空港を見渡した。
「しょうがねえよ。今度会った時には絶対飲みに行こうって言っといてくれ」
「了解。今度はいつごろ帰ってくるんだ?」
「さあな。1年後か2年後か―――。そんときゃ連絡するよ。お前も襲名の時には連絡寄越せよ。お祝い送るから」
にやりと笑うあきらに、総二郎は肩をすくめる。
「その話はやめろよ。胃がいてえ」
総二郎の言葉に、今度はつくしが驚いて目を見開く。
「え、西門さんでも胃が痛くなるなんてことあるの?」
その言葉にあきらが噴き出し、総二郎がうんざりしたようにつくしを見る。
「てめえ―――俺のことどういうふうに見てんだよ」
「ご、ごめん。あんまりにも態度がふてぶてしいもんだから」
つくしの言葉に、総二郎の額に青筋が浮かぶ。
「おい牧野。それ以上総二郎を怒らせると無事に帰してもらえねえぞ」
あきらがくすくすと笑いながら言う。
「お前も、元気でな。類との結婚式には必ず出席するから忘れずに知らせろよ」
「忘れるわけ、ないよ。美作さんこそ―――海外にいすぎて、日本のこと忘れないようにね」
「了解」
ふっと、優しい笑みを浮かべるあきらに。
―――ああ、やっぱり美作さんの笑顔は優しい。
いつも、みんなの気付かないところで努力してる人だった。
この人がいなければ、きっとF4は成り立たなかった・・・・・。
今でもきっと、陰ながら努力しているんだろう。
搭乗口へと消えていくあきらの後ろ姿を見つめ。
これからきっと彼に訪れるだろう幸運を、つくしも総二郎も願っていた―――。
「行っちゃった!?」
突然後ろから聞こえてきた声に、つくしと総二郎が驚いて振り向く。
「類!」
「ちょ、待て、―――あきら!!」
まさに、消える寸前だった。
総二郎の声に振り向いたあきらが、類の姿を目に入れ、驚きと、そして喜びの表情を浮かべた。
そして大きく手を振るあきらに、類も手を振り返す。
すぐにあきらは見えなくなってしまったけれど。
類は満足そうに微笑んでいた。
「よかった、ぎりぎり顔が見れて」
「びっくり―――すごい急いだんだね。汗びっしょりだよ」
珍しく類が汗をかいているのを見て、つくしは目を丸くした。
「うん。久々、走った。牧野が足滑らせて頭打った時以来かも」
その言葉に、つくしの顔が引きつる。
「うわ、懐かし」
「んなこともあったなあ。あんときの司にもマジ驚いたけど―――」
総二郎の言葉に、つくしの顔色がふと曇った。
「あ、わりい」
「ううん―――。それよりも今朝、メールが届いたの」
そう言ってつくしは、バッグから携帯電話を取り出した。
「メール?誰から?」
類の問いに、つくしは黙って携帯を操作すると、その画面を類に見せた。
「―――!司・・・・・」
「は?マジ!?」
総二郎も驚いてつくしの携帯を覗き込む。
そのメールは実に簡単な文章が綴られていた。
『来週、日本に帰る。
その時に、話がしたい
司』
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