「結婚しよ」
唐突な類の言葉に、つくしは目を瞬かせた。
「はい?」
「何その間抜けな返事」
類がむっと顔をしかめる。
「だ、だって急に―――」
「急じゃないでしょ。婚約してるんだし」
「でも」
「やっぱりこれ以上牧野を1人にしておけない。俺がいない間に―――高校生に迫られたり、総二郎と2人でこんなことしてるし」
帰る前に改めて類と2人、掛井の家を訪れていた。
柴犬の仔犬を抱き上げ、じっと見つめあったりしている様子はなんだか不思議だった。
「こんなことって・・・・・犬を見に来てただけだよ」
きょとんとしているつくしをちらりと睨み。
「そのブリーダーだって、結構いい男だったし?言っとくけど、1人でここに来ちゃだめだよ?」
「こ、来ないけど―――西門さんにも1人では来るなって言われたし。でも別に―――」
「それも気に入らない」
ぷいっと顔をそらし、類は再び仔犬を見つめた。
「なんで総二郎が牧野にそれを言うわけ」
「え・・・・・っと、それは・・・・・類に気を使ったんじゃない?」
何とか考えて言葉を続けるつくしに、類は溜め息をつく。
類にしてみれば、高校生やブリーダーの存在はたいした問題じゃなかった。
もちろんつくしに近づく人間はどんな奴だろうと気に入らないのだが。
それでも、つくしのことは信じていたし、他の誰にも渡すつもりなどない。
だが、総二郎の存在はつくしにとっても特別だ。
同じF4として、類にとってもライバルになったらやりにくいことこの上ない相手だと思っていた。
総二郎の、つくしに対する気持ちは今のところ友達以上恋人未満といったところだと思っている。
その気持ちが、これ以上『恋』に傾いて行かないよう願いたいものだが―――。
「ね、名前決めようよ」
つくしが、類から仔犬を受け取り、自分の胸に抱いて言った。
「類が帰ってきたら、2人で決めようって思ってたの」
「―――なんか、考えてる名前とかあるの?」
「ううん。男の子だから、かっこいい名前にしてあげようかなーとは思ってるけど」
「じゃあ、ゆっくり決めればいいよ。今日はもう、帰らない?」
類の言葉に、つくしははっとして仔犬を下ろす。
「あ、ごめん。疲れてるよね?帰国したばっかりで―――じゃ、帰ろうか」
掛井の家を後にした2人は、しっかりと手を繋ぎもう暗くなってきた道を歩いていた。
「車じゃないの?」
「駐車場がちょっと離れたとこにしかなくて。もうすぐ着くよ」
「そっか。でも、こうして歩くのもいいよね。ほら、星が見える」
つくしが空を見上げる。
つられて、類も空を見上げる。
「ホントだ。なんか―――日本の空だね」
「―――お帰り、類」
「ただいま」
ふと見つめあい、唇を重ねる。
離れがたい気持ちは、つくしだって同じ。
どんなに会いたかったか。
すぐに結婚、とはいかなくてもやはりいつも一緒にいたいという気持ちはいつだって持っているのだから・・・・・。
「このまま連れて帰りたいな。離れたくない―――」
つくしを抱きしめ、その耳元で切なげに囁く。
つくしの体がピクリと震えた。
「―――でも、明日は仕事だし」
「うちから通えば」
「でも―――」
「今日は、一緒にいたいんだ。結婚のことは置いといてもいいから―――うちに、来て」
熱っぽくつくしを見つめる類の瞳。
そんな風に言われてしまえば、つくしに抗うことなんてできなくて。
つくしはそのまま類の胸に身を預け―――
こくりと頷いたのだった・・・・・。
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