***夢のあと vol.23 〜類つく〜***



 
 それから1週間後、つくしは再び総二郎と掛井宅を訪れていた。

 「うわあ、またちょっと大きくなった!尻尾振ってる!」
 そう言って仔犬を抱きしめるつくしを見て、総二郎が苦笑する。
「お前、すっかりはまってんじゃん」
「だって、この1週間、仕事中もこの子のことが気になって気になって―――」
「もしかしてもう名前決めてるとか?」
「う〜ん、考えてはいるよ。西門さんは?名前決めた?」
「俺はまだ。ゆっくり考えようと思って」
「あたしも―――できれば、類と一緒に決めたくって」
 そう言って頬を染めるつくしを見て、総二郎が目を細めた。
 そしてそんな2人のやり取りを見て、掛井が微笑む。
「兄妹みたいだな。総二郎君、男兄弟だからそういう妹が欲しかったとか?」
 掛井の言葉に、総二郎はゲッという顔をする。
「妹なら、もっとおとなしくてかわいい子の方がいいよ。こいつは世話がかかり過ぎ。早く嫁に行ってほしいわ」
 その言葉に、つくしが頬を染めながらもむっと顔をしかめる。
「何よ、言われなくったって行くもん」
「嫁に行ったらいったで寂しいんじゃないの?」
 くすくすと笑う掛井。
 つくしと総二郎は顔を見合わせ・・・・・
 お互い、苦笑したのだった・・・・・。

 「確かに、寂しくなるだろうなあ、お前が嫁に行ったら」
 掛井の飼っている柴犬を散歩させるため、つくしと2人、2頭ずつ手綱を引きながら遊歩道を歩いていた。
「ええ?でも別に今までと変わらないでしょ?」
「変わるよ。やっぱ人の奥さんとなれば気ィ使うだろ。こうやって2人で会ってたりしたら周りにも何言われるか」
「そうかなあ。でもそうしたらちょっと寂しいね。お互い、犬の散歩とかで会えたら楽しいかも」
「ああ、いいな。けど―――絶対類がくっついてくるんだろうなあ」
 と、総二郎は遠くを見つめるように空を見上げた。

 近い将来、こうして犬を散歩させている自分と、つくし。そしてつくしの傍にはきっと類がいる。

 そんな未来予想図を楽しみにしながらも、やっぱり少し寂しい気持ちがあるのを、認めざるを得ない総二郎だった・・・・・。

 「類から連絡あるのか?そろそろ帰ってくるころじゃねえの?」
 総二郎の言葉に、つくしは頷いた。
「うん。来週くらいには、帰れそうって言ってたけど・・・・・。でも大丈夫かな。かなり強行軍で頑張っちゃってるみたいだから、体の方が心配。倒れたりしなきゃいいけど―――」

 「俺はそんなに軟じゃないよ」

 びっくりするくらい近くから聞こえてきた声に。

 2人はほぼ同時に弾かれたように振り向いた。

 そこには、不機嫌な表情で2人を見つめる類が、上着のポケットに手を突っ込んで立っていたのだった・・・・・。

 「類!どうして―――」
 つくしの声に、類はさらにむっとする。
「帰ってきちゃまずかった?ずいぶんいい感じだったみたいだけど」
「何言ってんのよ!いつ帰ってきたの?教えてくれれば空港まで迎えに行ったのに―――!」
 手綱を引いたまま、つくしは類に駆け寄る。
 その後を、総二郎がゆっくりとついて行く。
「驚かせようと思って・・・・・。牧野の家に行ったら、犬を見に行ったって言われて」
「よくわかったな、ここが」
「―――総二郎に聞いてたブリーダーの名前で住所調べて、今行って来たところ。2人で散歩に出たって言うから」
 言いながらも、類はじっとつくしを見つめていた。

 つくしは、言葉にならない思いで類を見つめていた。

 まだ1ヶ月も経っていない。

 本当は3ヶ月はかかると言われていたのだ。

 そのくらい、会えないことだって覚悟してた。

 その前は1年以上離れていたのだし。

 それでも、今こうして類が目の前に現れて。

 どれだけ自分が類に会いたかったかというのを思い知らされているようだった・・・・・。

 「―――牧野、そっちの2匹貸せよ」
 総二郎が、つくしの手から2頭の手綱を受け取った。
「先に行ってるから―――掛井さんには言っとく。じゃあな、類。連絡しろよ」
「ああ。―――総二郎」
 類の声に、総二郎が振り向く。
「―――サンキュ」
 その言葉に、総二郎はにやりとして。
「別に。俺がしたくてしてたことだし。これからも油断はするなよ?」
 そう言って4頭の犬を連れていく総二郎の後ろ姿を、類は複雑な思いで見つめていたのだった・・・・・。





  

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