***夢のあと vol.22 〜類つく〜***



 
 「うあ、ちっちゃ!かわいい!」

 犬舎に案内してもらったつくしは、そこにいた柴犬の赤ちゃんに感動していた。

 「この子たちがちょうど今生後1カ月。これからワクチン打って、問題なければ3ヶ月以降から引き渡しできるんだ」
「へえ。すっごいかわいい。西門さんはどの子もらうの?」
「俺はこの子。毛色が渋いだろ」
 そう言って総二郎が抱き上げたのは、確かに他の子たちと比べるとちょっと毛色が濃い男の子。
「兄弟でも、こんな風に色が微妙に違うことってあるんですね」
 つくしが聞くと、掛井が微笑んで頷いた。
「そうだね。みんな同じように見えても、それぞれ性格も違うし、よく見ると微妙に違うところがあるんだ。だから、生まれたころから見てると仔犬を間違えることはないんだよ」
「へえ・・・・・」
 仔犬を代わる代わる抱き上げながらじっと見つめているつくしを、掛井は楽しそうに見つめていた。
「その、今抱き上げた子―――その子だけ、まだ新しいオーナーが見つかってないんだけど、牧野さんどう?」
「え、あたし?」
「うん。もし飼う気があるなら譲るけど」
「え、でも―――」
「類に言って、買ってもらえば。お前が飼うってことはゆくゆくは類も一緒に飼うってことだろ」
 総二郎の言葉に、つくしの頬がポッと染まる。
「で、でも、あたし今アパート暮らしだし。ペットは飼えないところだから、無理だよ」
「そうか、残念だな。すごく可愛がってくれそうだと思ったんだけど」

 確かに見ているとかわいくて、このまま連れて帰りたい気分にもなってしまうのだが―――

 「未練ありって顔」
 総二郎がくすりと笑った。
「類に相談してみれば。類のとこなら面倒見る人間もいっぱいいるし、安心だろ?」
「―――じゃ、聞いてみようかな」


 「彼が帰ってきたら、一緒に見に来るといいよ。引き渡しは3ヶ月以降だけど、僕がいるときならいつでも会わせてあげるから」
 にっこりと微笑む掛井に、つくしもホッとして頷いた。
「はい、ありがとうございました。楽しかったです」
「類がいない間は俺が付き合ってやるから、そんときは連絡しろよ」
「うん」
 つくしと総二郎のやり取りを見ていた掛井が、ちょっと目を見開いた。
「ふーん、総二郎君のそういう顔、初めて見たな」
「そういう顔?」
 総二郎の言葉に、掛井がふっと笑って、
「すごく、大事なものを見るような顔、してるよ」 
 と言ったのだった・・・・・。


 「気にすんな」
 つくしを送る車の中で、総二郎が言った。
「心配しなくても、『大事』っていうのはあくまでも友達として、だから」
 その言葉に、つくしはちょっと頬を染めながらも頷いた。
「わかってるよ。女としては、見てないって言うんでしょ」
「そういうこと。世話の焼ける妹みたいなもんでさ。お前見てると放っておけないんだよ。類みたいに、誰にも渡したくないみたいな独占欲はねえけど、ずっと変わらない関係で、困った時には頼ってもらえるような存在でいたいとは思ってる」
 ミラー越しに、総二郎の優しい視線がつくしを見つめた。

 今までからかわれてばかりだったのが、急に優しくなったりするからつくしもどう反応していいかわからなかったが・・・・・。
「お前、急に緊張した顔すんなよ。こっちまで照れるだろうが」
「あ、ご、ごめ―――」
「俺の役目は、お前と類を見守ることだと思ってるから、今まで通り付き合ってくれればいいんだよ。類がたま〜に嫉妬する程度に、な」
 そう言ってにやりとする総二郎に。
 つくしも思わず吹き出した。
「了解。頼りにしてるよ」


 そうして家に戻ったつくしは、さっそく類に電話をかけた。
「―――もう仕事してるかな」
 向こうは朝の9時ごろ。
 日本だったら始業の時間だけれど―――

 数回コールした後電話がつながり、一瞬の間の後、類の声が聞こえてきた。
『―――牧野?どうかした?』
「あの、ごめん、仕事中だった?」
『いや、移動の車の中だから平気。こんな時間に珍しいね』
「えっと・・・・・実は相談したいことがあって」
『相談?何?』
「えっと―――類、犬好き?」
『犬?』
「うん、柴犬なんだけど―――」
『・・・・・ひょっとして飼いたいの?』
 そう言われ。

 つくしは、今日のことを類に話したのだった。

 『総二郎の紹介、ね。で、その柴犬が欲しいの?』
「う・・・・・欲しいっていうか、かわいいなって思って・・・・・でもうちアパートだし、ペットは飼えないからって言ったら、西門さんが類に相談してみればって・・・・・」
『別に俺はいいけど・・・・・。じゃ、そっちに帰ったら一緒に見に行こうか』
「ホント?ありがとう!」
『いや―――それで、牧野』
「え?」
『犬に会いたいのはわかるけど―――、あんまり総二郎に気を許さないでね』
「―――は〜い」

 ―――その微妙な間に。

 早く日本に帰らなくてはと、改めて思う類だった・・・・・。





  

お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪