***夢のあと vol.20 〜類つく〜***



 
 「なんか、俺が入っていけない感じですよね」

 水上アトラクションに優介と並んでいるときだった。
 濡れるのは嫌だと総二郎は外で待っていた。
 優介の呟きに、つくしは首を傾げた。
「なんのこと?」
「―――先生と、西門さんのことですよ。まるきり、俺が入っていくような隙がない」
「西門さんと?あたしが?」
「ていうより―――F4と先生の間かな。同じ時を歩んできた者同士の絆みたいな・・・・・なんかすげえ強い絆で繋がれてる感じがした。俺なんかじゃ―――太刀打ちできないくらい」
 肩を落とす優介をじっと見つめ、つくしは優介の頭を軽く撫でた。
「それはね、あたしたちはお互いにお互いを大切な仲間だと思ってるから。村上くんにだって、そういう友達がいるでしょ?」
「俺は―――」
「明るくて、優しくてみんなの人気者、でしょ?」
「そんなの―――みんな、俺の上辺見てるだけだよ。俺んち、あそこの生徒たちに比べたらワンランク落ちるからさ。どうにかそれを人柄でカバーしてやろうと思って頑張ってるだけ」
「それ、上辺じゃないでしょ?それが村上くんのいいところじゃない。あたしなんかワンランクどころか、一般家庭と比べたってかなりレベル低いから、あの学校の生徒たちに合わせるのは大変だった。てか、結局合わせなかったけど。あたしね、村上くんてすごいなって思ってた。そういう努力するところとか、あたしはできなかったことをしてるなって思ってたの」
 にっこりと笑うつくしを、優介は切なげに見つめた。
「俺―――きっと、先生ならわかってくれると思ってた。きっと―――明るくて優しいいいやつなだけじゃないってこと。だから―――先生と一緒にいたかったんだ」
「ありがとう、あたしのことそんな風に思ってくれて。でも―――きっと、村上くんが思ってるよりもずっと、周りの人たちは村上くんのことわかってくれてるよ。たまには、弱音見せたって大丈夫。それでも友達でいてくれる人たちはきっと、ずっと友達でいてくれるはずだから・・・・・。仲間を、大事にして」
 つくしの言葉に優介は嬉しそうに笑い―――
 そして、素早くその額に触れるだけのキスを落とした。

 突然のことに、固まるつくし。

 そんなつくしを見て、優介がぷっと吹き出した。

 「先生、かわいい。そういうとこ見ると、もっと好きになっちゃいそうだけど―――やめとくよ。これ以上深入りしたら、本当に俺の命取られちゃいそうだから」
「もう―――」
 優介をじろりと睨み―――
 でも、その無邪気な笑顔に本気で腹を立てることもできず。

 ―――あたしって、結局甘いのかな・・・・・

 そんなことを思って、小さなため息をついたのだった―――。


 「―――で、一件落着?」
 夜になって優介と別れたつくしは、総二郎に家まで送ってもらっていた。
「うん、とりあえずね。西門さん、ありがとう。付き合ってくれて」
「どういたしまして。で―――俺との約束、覚えてるよな?」
 にやりと怪しげな笑みを浮かべる総二郎。
 つくしは思わず総二郎から離れながら。
「お、覚えてるよ・・・・・。何をすればいいの?」
「そうだな―――ぶっちゃけ、あんまし考えてなかったんだけど」
「はあ?」
「ただで協力すんのはしゃくだから、ああ言っただけ」
 総二郎の言葉に、つくしは顔をひきつらせた。
「しゃくって・・・・・」
「買い物にでも、付き合ってもらうかな。来週の日曜当たり、暇?」
 そう言ってにやりと笑う総二郎に、つくしはちょっとため息をついた。
「まあ、ね。そんなことでいいんならいくらでも付き合うけど・・・・・。いいの?」
「なんだよ、不満ならホテルでも行くか?」
 総二郎の言葉に、つくしの顔がカーッと赤くなる。
「結構です!もう、なんだっていつもそういうこと言うの。人が真面目に―――」
「まあまあ。お前といるとどうしてもからかいたくなるんだよな。昔からの習性ってやつ?相変わらず期待通りの反応してくれるし。最近仕事忙しかったから、息抜きになって楽しいんだよ」
 そう言って無邪気に笑う総二郎は昔の高校生のころの面影を残していて。
 つくしも苦笑して肩をすくめた。
「もう・・・・・」
「また来週、会おうぜ。メールするから、忘れんなよ」
「そっちこそ、デートの予定とか間違って入れないようにね」
「O.K!」
 笑いあいながら、総二郎と別れる。

 恋愛対象ではないから、気持ちは楽だった。

 肩肘張れずに付き合える男友達というのはいいものだな、なんて暢気に考えていたつくし。

 それがまたひと波乱起こすことなど考えもせずにいたのだった・・・・・。





  

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