***夢のあと vol.19 〜類つく〜***



 
 日曜日、つくしが待ち合わせ場所へ行くと、そこにはすでに優介が待っていた。

 「牧野先生、おはよ」
 にっこりと微笑む優介に、つくしはちょっと目を見開いた。
 制服を着ているときのイメージとは違う、黒い革のライダースジャケットにジーパンという格好。
 背が高く脚も長い優介にはぴったりのファッションで、いつもよりも大人っぽく見えた。
「びっくりした。ずいぶんいつもと違って見える」
 つくしの言葉に、優介は笑った。
「見直した?」
「ちょっとはね」
「ちょっとだけ〜?」
 拗ねたように口を尖らせる優介を見て、ぷっと吹き出すつくし。

 そこへ、こつんと頭を小突かれる。

 「たっ、な―――あ、西門さん」
 振り向くと、そこには不機嫌な顔をした総二郎が。
「何楽しそうにしてんだよ、お前は」
「だって―――」
「―――おはようございます」
 総二郎に向かって。ぺこりと頭を下げる優介。
 総二郎はちらりと優介の顔を見て。
「ああ」
 とだけ言って、視線をそらせた。
「えーと、じゃあ、行こうか」
 つくしがちょっと引きつった笑顔でそう言い、3人は歩き出したのだった・・・・・。

 
 奇妙な組み合わせだった。

 優介も総二郎も、つくしとしか口をきかず、目も合わせない。
 遊園地の乗り物は、つくしが2人と順番に乗り、1人になった方は乗り物に乗らず外で待っているという感じ。
 ランチにしようと入った遊園地内のレストランでも、2人は目を合わせようとはせず、その奇妙な空気に、つくしの方は落ち着かない。
「ゆ、遊園地なんて久しぶり。西門さんは?彼女と遊園地とか来たりするの?」
 その言葉に、総二郎は肩をすくめた。
「俺はそんなお子様と付き合わねえよ。高校生の頃、滋に無理やり付き合わされて以来だな」
「へえ、滋さんと来たことあるんだ」
 つくしの言葉に、総二郎の顔が引きつる。
「一応、お前と司のために頑張ったんだけどな。すっかり忘れられてるってやつ?」
「え?そうだっけ?ごめん」
 そのやり取りを聞いていた優介が、ぼそりと呟く。
「―――おれも、その頃の英徳にいたかったな」
 その言葉に、つくしが優介の方を見る。
「同じ高校生だったら―――先生も、俺のこと1人の男として見てただろ?そしたら、もしかしたら俺と牧野先生が付き合ってたかもしれない―――」
 そう言って、優介がつくしを見つめる。
 つくしはどう言ったらいいのか迷っていたが・・・・・
「くだらねえな」
 そう言ったのは、総二郎だった。
「ありもしねえこと、今ここで言ったって何の意味もねえだろうが。だいたい、例えお前の言うとおりお前があのころの英徳にいたとしたって、牧野はお前と付き合ったりしてねえよ」
 総二郎の言葉にむっとする優介。
「そんなこと、わからないじゃないですか」
「いや、わかるね。牧野はお前なんかの手に負える女じゃねえよ」
「ちょっと―――それどういう意味?」
「あのころの牧野は、毎日戦ってた。いろんなものと戦って―――そして勝ったんだ。お前みたいな強烈な女、2人といねえよ。普通の男じゃ、太刀打ちできっこねえ。あのころの司だからこそ―――あの絆が生まれたんだろ」
 総二郎の言葉につくしは言葉を飲み込み、そっと俯いた。

 高校生だった頃の自分と、F4。

 確かに、あのころはずっと戦ってた。

 つい昨日のことのようなのに、今はあのころのようなエネルギーはない気がした。

 現実だったはずなのに、どこか夢の中の出来事のような、そんな気がしてくるのだ。

 「―――じゃあ、どうして道明寺さんと先生は別れたんですか?それほど強い絆なら、どうして・・・・・」
 優介の言葉に、総二郎は肩をすくめた。
「どんなに強い絆だって、長いこと離れてりゃあいろいろあるだろ。けど、絆が完全に断ち切れたわけじゃねえ。司は―――今でも牧野のことを気にかけてるよ」
 その言葉に、つくしははっとした。
「東野先生の移動、あれもしかして―――」
「さあ、俺もそこまでは知らねえけど。でも、それが仕組まれたものだとすればそれをできるのは司ぐれえだろ」

 もしそうだとすれば。

 司は、つくしの周りで起きている出来事をすべて把握しているということにならないだろうか。

 類と付き合い始めたことも、司にはわかっているということなのではないだろうかと、つくしは考えてした・・・・・。

 「ひょっとして、その道明寺さんがこれから先生と彼氏の間を邪魔するかもしれないってこと?」
 優介の言葉に、総二郎はじろりと冷たい視線を向けた。
「あほか。あいつがそんなことするかよ」
「―――邪魔するのが目的なら、あたしが東野先生と付き合い始めた時に何かしてるはずだよ。そうじゃなくて―――」
「あいつは、牧野の幸せを願ってるだけだ。例え別れたって、司にとって牧野が大事な存在だってことには変わりねえ。その牧野が不幸になるのは嫌だと、そう思ってるだけだ。基本、馬鹿だからな。邪魔するんだったらもっと分かりやすく邪魔すんだろ、あいつは」
 その言葉に、つくしも思わず笑った。
「言えてる。あいつは、策略とか計算とか、やらないんじゃなくてできないんだもんね」

 昔のことを思い出したように笑いあうつくしと総二郎を、優介はどこか複雑な表情で見つめていた・・・・・。





  

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