「で、あいつとデートする気なわけ?つくしちゃんは」
じろりとつくしを睨む総二郎。
2人は、いつものバーでカウンターに並んで座っていた。
優介のことを相談したくて、つくしが総二郎を呼び出したのだ。
つくしは溜め息をつき、うんざりしたように言った。
「そんな気ないから困ってるんじゃない」
「いやなら行かなきゃいいだろ?」
「そういうわけにもいかないの。あたしだって教師なんだから、学校やめるって言ってる生徒のこと、放っておけないよ」
つくしの言葉に、総二郎もイライラとため息をついた。
「面倒くせえなあ。なんだってこの俺がそんなガキのわがままに付き合わなきゃならねえんだよ」
「だって、こんなこと頼めるの西門さんくらいしか―――美作さんはすぐに日本発つって話だったし」
「で?俺は何をすればいいわけ?」
「―――その、デートに着いて来てほしいの」
つくしの言葉に、総二郎は再び溜め息をつく。
「俺が着いてって、そいつは納得するわけ?」
「わかんないけど、でも、2人きりでっていうのはあたしもできないもん。ね、お願い。ちゃんとお礼はするから」
「お礼?」
つくしの言葉に、総二郎の目の色が変わった。
「何してくれる?」
「えーと・・・・・お、奢るよ、ご飯とか・・・」
「飯ィ?この俺を満足させられるようなもの、ごちそうできるわけ?」
「う・・・・・そ、それは無理かもだけど、教師なんて安月給なんだから、その辺は大目に見てよ。友達でしょ?」
「こういうときばっかり友達なんじゃねえの」
「そんなことないってば!」
「どうだかな〜。同じ日本にいたってのに、1年以上何の連絡もよこさねえような薄情な友達だしな〜」
深々と溜め息をつかれるのに、つくしも言葉が出てこない。
確かにその通りなんだけども。
司とのこともあり、F4とは関わらないようにしていたから・・・・・。
つくしの様子をちらりと横目で見て、総二郎はふっとその顔に笑みを浮かべた。
「俺の条件飲むなら、付き合ってやってもいいけど」
その言葉に、つくしがパッと顔を上げる。
「ホント?条件て?」
「飲むのか飲まないのか。それを先に聞かせろよ」
「だって―――」
「俺の協力がないと、困るんじゃねえの?」
にやりと、確信的な笑みにつくしはぐっと詰まったが―――
「―――わかった。その代わり、ちゃんと約束守ってよね」
つくしの言葉に、総二郎はその笑みを深くした。
「その言葉、そっくりお前に返してやるよ。俺は義理堅い男だから、約束は守る」
その言葉に、つくしは反論したくもなったが、ここはぐっと我慢することにしたのだった―――。
「―――2人きりじゃないの?」
翌日の昼休み、非常階段でつくしを待っていた優介に、つくしは総二郎のことを話した。
「2人きりでなんて、無理に決まってるでしょ?この条件が飲めないならあたしは行かない。学校辞めるなりなんなり、好きにすれば」
つくしの突き放した言い方に優介はチェッと舌打ちし、肩をすくめた。
「わかったよ。じゃ、それでいいけど―――ちゃんと来てよ。もし来なかったら―――」
「わかってるってば。約束は守るわよ」
つくしの言葉に優介は、無邪気ににっこりと笑った。
「じゃ、今度の日曜日、楽しみにしてるから」
優介が非常階段から姿を消すと、つくしは大きなため息をついた。
優介のことは、嫌いじゃない。
たぶん本当につくしのことを想ってくれているし、とてもいい子なのだと思う。
だけど、つくしはその思いに応えてやることができない。
それが、苦しかった。
結局、自分がやっていることは優介を傷つけることになってしまうと思うと、胸が痛むのだった・・・・・。
携帯のバイブが震え、つくしははっと我に返った。
類からの着信。
つくしは一瞬躊躇ってから、それを耳に当てた。
「―――はい」
『デートするって?』
類の言葉に、つくしは目を見開いた。
「なんで―――西門さんが?」
『あとでばれたとき、変に勘繰られたくないからって言われた。―――つくし』
突然名前で呼ばれて、ドキッとする。
「な、何?」
『わかってると思うけど―――その高校生とも、総二郎とも―――何かあったら許さないからね』
「何も、ないよ」
『わかってるけど―――安心できない。早く帰りたいな』
電話の向こうから聞こえる類のため息に、つくしも切なくなる。
「じゃあ、早く帰ってきて。待ってるから―――」
『―――ん。牧野がそう言ってくれてるうちに、帰るよ』
会えないことに、慣れることなんてなくて。
「早く会いたい」
言葉にしてしまえば、感情が溢れ出すのを止めることはできなかった・・・・・。
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