***夢のあと vol.17 〜類つく〜***



 
 その日の帰り、つくしは携帯に何度か類からの着信があるのに気付いた。

 折り返しかけてみると、思いの外すぐに出てびっくりする。

 「どうしたの?」
『昨日、あきらが帰って来たんだって?』
「ああ、うん。3人で飲んだの。西門さんから聞いた?」
『うん。で―――変な話聞いたんだけど』
「変な話?」
『牧野が、高校生と浮気してるって』
 類の言葉に、つくしの顔が引きつる。
「そんなのウソだよ。浮気なんてしてない」
『でも、口説かれてるんでしょ?どういう奴?』
 その言葉に、つくしはそっと息を吐きだした。

 ―――もう、西門さんったら!

 いくらお目付け役って言ったって、そんなに何でもかんでも話さなくたっていいのに!

 そうは思っても、別に後ろめたいことはないのだから正直に話せばいいんだと、つくしは気を取り直した。
「普通の男の子だよ。F4とあたしの昔の話、いろいろ聞いてるみたいで、ちょっと興味持っただけだと思うよ。学校で、普通に話したりしてるだけ」
『―――牧野、油断してない?』
「え」
『高校生だって、男には違いないでしょ。ちゃんと警戒しないとだめだよ。言っとくけど―――牧野を手放すつもりはないからね。もし牧野に手を出したら―――高校生だって、手加減するつもりはないから』
 いたってまじめな声で言われ、つくしは青くなる。
「物騒なこと言わないでよ。大丈夫だってば。あたし、そこまで隙だらけじゃないもん」
『―――よく言う』
「類!」
『わかった。信じてあげる。―――また、連絡するから』
「うん。お仕事がんばってね」
『さんきゅ』

 携帯を閉じ、小さなため息をひとつ。

 まだ1週間も経ってないのに、類にたまらなく会いたくなってしまう。

 1年以上会えなくても平気だったのに―――

 ―――平気?

 ―――ううん、平気じゃなかった。

 会いたくて―――。
 ずっと会いたくて、類のことばかり考えていた。
 いま、会えなくても類が自分を想ってくれているのが伝わってきて。
 切ないけれど、心はポカポカと暖かかった。

 「すっげーラブラブ」
 突然すぐ後ろから声が聞こえ、つくしは弾かれたように振り向いた。
「村上くん」
「あ、今またあんたかって顔したろ。そう言うの、傷つくなあ」
 と、優介がわざと大げさにため息をつくのに、つくしは苦笑する。
「今の電話、彼氏でしょ?仕事中なのに電話してくるって、結構束縛されてんだね。そういうのうっとうしくないの?」
「向こうは今、仕事の時間じゃないから・・・・・。別に、束縛されてるなんて思ったことないよ」
「向こう?って、海外なの?彼氏」
「今フランス。1ヶ月くらいで帰ってくるけど―――」
 とつくしが言いかけると。
「マジで?やべえ、それすげえチャンスじゃん。ね、先生、じゃあ彼氏のいない間にデートしようよ!」
「あのね―――。村上くん、あたしの話聞いてる?」
 つくしの言葉に、優介はへへ、と笑った。
「だって俺、牧野先生のことマジで好きだし。ね、デートくらいいいじゃん。遊園地とかさ、行こうよ」
「だめ」
「うわ、即答。なんで?牧野先生、俺のこと嫌い?」
「あのね、好きとか嫌いとか、そういう問題じゃないでしょ?」
 呆れたように言いながら、すたすたと前を向いて歩くつくしに、村上も負けじとその横にくっついてくる。
「俺にとってはそういう問題だよ。好きな人がいたら、デートしたいって思うのは当然だろ?その相手が教師だろうが高校生だろうが、関係ないよ。重要なのはお互いの気持ちだろ?」
「―――確かにね。だから、何度も言ってるけどあたしは村上くんのことそういうふうには見れないから。あたしにとって、村上くんは一生徒よ。一生徒とデートなんてできません」

 足を止めずにピシャリと言い放ち、歩き続けるつくし。

 優介は足を止め、そんなつくしの後ろ姿をじっと見つめていたが―――

 「じゃ、俺が学校やめるって言ったら?」

 その言葉に、つくしはぴたりと足を止め、振り返った。 「ちょっと―――軽々しくそういうこと言うもんじゃないわ」
「俺は大真面目だよ。デートしてくれないなら、俺学校やめる」

 そう言い放った優介の目は確かに真剣で、冗談を言っているようには見えなかった。

 つくしはそんな優介の視線に戸惑い―――

 動くことができなくなってしまった―――





  

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