「頭いた・・・・・飲みすぎたなあ」
学校への道を歩きながら、つくしがぼやく。
夕べあきらや総二郎とバーで飲んで。
懐かしい話に花が咲き、気づけば日付も変わり、足元もおぼつかないほどに飲んでいて。
どうやって帰ったのかも覚えていないというありさまだった・・・・・。
くらくらするほどの朝日に頭を押さえながら歩くつくしのバッグの中で、携帯電話がメールの着信を告げた。
表示された名前は総二郎。
『酔っ払い先生、大丈夫か?昨日言ったこと覚えてないだろうから念押しとくけど、高校生だからってなめてかかるなよ。あのガキに気を許すな。また連絡する』
メールの内容に、ちょっと息をつく。
何で総二郎がそこまで優介のことを気にするのか、つくしには疑問だった。
他の生徒よりも目立つ子ではあるけれど、つくしにとっては他の生徒たち同様、普通の高校生にしか見えないしましてや男として意識したことなど一度もない。
―――ま、いいか。とにかく仕事しなきゃ・・・・・
そう気を取り直し携帯を閉じると、つくしは背筋を伸ばし、歩き出したのだった・・・・・。
「牧野先生、昨日飲み過ぎた?」
学校の廊下で、後ろから顔を覗き込んで来たのは当の優介だった。
「あの人とずっと一緒だったの?マジで浮気してんじゃねえの?」
「やめてよ。飲んだのは3人で。て言うか、彼らと浮気なんてありえないから」
夕べ、さんざん聞かされた2人の恋愛遍歴(?)を思い出し、うんざりする。
「3人?もしかしてそれもF4の人?すげえなぁ牧野先生は」
「どこが?あたしは普通の人だよ。F4だってちょっと特殊なだけで人間には変わりないし。特別な目で見過ぎじゃない?」
その言葉に、優介はちょっと笑った。
「―――おれ、牧野先生のそういうとこ好きだな」
急に小声で囁かれるように言われ、つくしはドキッとして目を見開いた。
「な、何言ってるの。あのね、あたしは君のことそういう風には見てないから。まだここを辞めるつもりもないから、変なこと言うのやめてよね」
「きっついなー。心配しなくっても、牧野先生やめさせるようなことはしませんって。ただ―――俺って結構あきらめ悪いから。これからも楽しみにしててよ」
そう言ってウィンクすると、優介は手を振って行ってしまったのだった。
その後ろ姿を見送り、溜め息をつくつくし。
それでもやっぱりつくしにとって、優介は可愛い教え子以外のなにものでもなかったのだが―――
昼食を終え、一息つこうといつもの非常階段へ行くと、そこにはすでに先客があり―――
「やっぱり来た」
そう言ってにっこりと笑ったのは優介だった。
「なんでここに―――」
「牧野先生がここに来るって知ってたから。みんな知ってるけど、わざわざ先生の邪魔しに来るやつは他にいないし、ここなら先生と2人きりになれると思ってさ」
「―――村上くん、あのね―――」
「ストップ」
つくしの言葉を、つくしの目の前に手をかざし遮る優介。
ちらりと優介の顔を見るつくしに、ニコリと微笑む。
「今、先生にその気がないのは知ってるよ。けど、俺が牧野先生を好きになるのは個人の自由ってやつでしょ?その自由まで取り上げる権利、ないと思うけどなあ」
「それは―――」
「それに学校にいる間は、『花沢類の婚約者』じゃなくて、『牧野先生』なわけだし。俺は牧野先生の生徒。だからせめて学校にいる間は俺が牧野先生の傍にいたっていいと思うんだけど」
言っていることは間違っていない気もするけど。
でも何となくずれているような。
そんな気がしてならなかった。
「―――俺ね、実は牧野先生のことすげえ前から知ってたんだ」
相変わらず楽しそうに笑いながらそう言う優介に、つくしは目を瞬かせた。
「え?」
「織部順平って、覚えてる?」
優介の口から出た名前に、忘れられない思い出がよみがえる。
「どうして―――順平君のこと―――」
驚きに目を見開くつくしを、優介はどこか楽しそうに見つめた。
「俺の兄貴が、大学で順平さんと友達だったんだよ」
「―――村上くんの、お兄さん?」
「そ。で、その順平さんがしょっちゅう俺の家に来ててさ。そこで、なんかの拍子にっ高校生の時の話になって―――F4と牧野つくしって人のことを聞いたんだよ」
―――順平君。確か、大学は英徳には行かなかったって聞いたな・・・・・・
いつだったか、桜子が言っていたことを思い出した。
「F4に対する気持ちは、なんていうか複雑みたいだったけど―――牧野先生に対する気持ちっていうのがさ、なんて言うか、女神みたいに思ってるみたいな感じ?忘れられない人って感じで話してたのがすげえ印象的で―――俺もいつか会ってみたいって思ってたんだ。その順平さんの影響もあって英徳に入って―――。2年になって、まさか牧野つくしが教師として英徳に来るなんて思わなくてびっくりした」
初めて聞く話に、つくしは何と言えばいいのかわからなかった。
順平とは、あの一件以来関わることもなくなってしまった。
あんなひどいことをされて、簡単に許すことはできなかったけれど・・・・・
こうして第三者から、元気であることを聞くと不思議とホッとしている自分がいた・・・・・・。
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