***夢のあと vol.15 〜類つく〜***



 
 放課後になり、学園を後にしたつくし。

 門を出たところで、目の前に見たことがあるような高級車が止まった。

 「よお」
 顔を出したのは、総二郎だった。
「あれ、どうしたの?」
「今日、これからちょっと付き合えねえ?実は―――」
 そう言いかけた時だった。

 「牧野先生!」
 後ろから響く元気な声につくしは振り向き、総二郎もそちらを見た。
「村上くん―――」
 優介が門の手前でつくしに笑顔を向けていた。
「先生、浮気してると彼氏にちくっちゃいますよ」
 にやりと笑う優介に。
 つくしは苦笑した。
「浮気じゃないから。その『彼氏』の親友よ」
「知ってる。F4の1人でしょ?紹介してよ」
 そう言いながら優介が総二郎の前に立った。
 総二郎はちらりと優介を一瞥し、つくしをじろりと見た。
「なんだよ、こいつ」
「2年生の村上くん。―――こちらは西門さん。別に何だってこともないよ。村上くんのクラスの国語を、あたしが担当してるからって言うだけ」
 つくしの言葉に、優介が拗ねたような視線を送る。
「あ、冷てえなあ、先生。俺は先生を単なる教師として見たことなんて1度もないのに」
「ちょっと、村上くん」
 つくしは顔を顰めるが、優介はかまうことなく続けた。
「俺、そう簡単に諦めるつもりないから。高校生と思って、甘く見ない方がいいよ」
 にやりと笑みを浮かべる優介を、総二郎はその切れ長の鋭い目で睨みつけた。
「へえ、F4に立ち向かおうっての?いい度胸じゃん。言っとくけど、俺らを単なる金持ちのボンボンと思ったら大間違いだぜ」
 総二郎の言葉に、優介は軽く肩をすくめた。
「もちろん、わかってますよ。けど、俺のが若いし。まだ高校生だからあんたたちみたいに会社に縛られることもないし。それだけでも勝負になるんじゃないかなあ。少なくとも、学校にいる間は俺のが有利だよね」
 しばし睨みあう総二郎と優介。

 つくしは慌てて2人の間に立ちふさがった。
「ちょっと、やめてよ。村上くん、あたしは君と付き合うつもりも、彼と別れるつもりもないから。お願いだからそういう風に波風立てるのやめてよ」
 つくしの言葉に、優介は軽く両手を上げて見せた。
「こええなあ。ま、今日のところは退散するよ。でも、まだまだ諦めるつもりないから、覚えといて。じゃあね」
 そう言ってひらひらと手を振ると行ってしまう優介に。

 つくしは溜め息をつき―――

 そして、自分を見つめる総二郎の冷ややかな視線に気付いたのだった。


 「お前も懲りない奴だな」
 つくしを後部座席に乗せ、車を発進させると総二郎が言った。
「だから、あたしのせいじゃないってば。あんなの、ただあたしをからかって楽しんでるだけだよ」
「そうは見えなかったぜ。これは男の勘。あのガキ、本気でお前を類から取るつもりでいやがる」
 ちっと舌打ちする総二郎に、つくしは『そうかなあ』と、まるで緊迫感がない。

 相手は高校生。

 体は立派な大人かもしれないが、まだまだあどけなさも残るし、つくしにとっては『かわいい教え子』としかその目には映らなかった。
 その様子に、総二郎は溜め息をついた。
「まあ、お前の気持ちを疑うわけじゃねえけど・・・・・。けどあいつも体は立派な男だからな。油断してると痛い目に会いかねないってこと、忘れんなよ」
「は〜い。で、どこに行くの?」
「ああ、実はあきらの奴が帰国したんだ」
「美作さんが?」 「そ。で、あのバーで待ち合わせしてるから、お前も連れて行こうと思って迎えに行ったんだよ」  


 バーに着くと、あきらはすでにカウンターでグラスを傾けていた。
「牧野、久しぶりだな」
 にやりと微笑むあきらは、長く伸びた髪を後ろで一つにまとめ、革のジャケットにジーパンというラフな格好で2人を迎えた。
「なんか、ワイルドになったね、美作さん」
 つくしの言葉に、楽しげに笑うあきら。
「お前も、きれいになったじゃん。類と婚約したって?おめでとさん」
「ありがと。美作さんは?そういう話ないの?」
「俺が?今は仕事が忙しくてデートする暇もねえよ」
「よく言うぜ。噂は聞いてるぜ。世界を股にかけていろいろやってるらしいじゃねえか」
 総二郎の言葉に、あきらが苦笑する。
「お前は余計なこと言うなよ。日本で遊べなくなる」
 相変わらずの2人の会話に、つくしは懐かしげに眼を細めた。
「2人とも大人っぽくなったけど―――そういう会話は変わってないのね。タイムスリップしたみたい」
「お前に言われたかねえよ。相変わらずトラブルに首突っ込んでるんじゃねえの」
 あきらの言葉に、、つくしはちょっと目を見開き、総二郎がぷっと吹き出した。
「すげ、当たってるよ。こいつ、同僚のモトカレとようやく別れたと思ったら、今度は高校生に口説かれてんだぜ」
「高校生かよ!お前それ犯罪だぜ」
 あきらの言葉に、つくしは顔をしかめた。
「やめてよ、あたしはそんな気ないんだから。向こうだって、単に面白がってるだけですぐに飽きちゃうよ」

 そう言うつくしに。

 あきらと総二郎は顔を見合わせ、意味深な視線をつくしに向けたのだった・・・・・。





  

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