***夢のあと vol.13 〜類つく〜***



 
 連れて行かれたのはホテルの一室。

 部屋の中には数人の制服を着た女性が待機していた。

 「着替えとメイク、頼んであるから。俺はロビーで待ってる」
 そう言うと、つくしが止める間もなく類は部屋を出て行ってしまったのだった・・・・・。

 「どうぞ、お召し替えを」
 そう言っていかにも上質そうなオフホワイトのワンピースを差し出され。

 もう、ここまで来ては仕方ないとつくしはそれを受け取ったのだった。


 1時間後、ロビーに現れたつくしを見て、類は少し驚き、嬉しそうに微笑んだ。

 「おかしくない?」
 はずかしそうに頬を赤らめるつくしの肩を抱く類。
「全然。すごくきれいだよ。やっぱりそのワンピースにしてよかった」
「類が選んでくれたの?」
「うん」

 品のいい花柄のレースを全面にあしらったオフホワイトのワンピースに、パールのネックレス。
 イヤリングやブレスレットもそろいのパールで品よくまとめ、長くのびた髪は緩くウェーブをつけ、パールのバレッタでアクセントをつけている。
 メイクはナチュラルメイクで目元をほんのりピンクのシャドウが華やかにしていた。

 「このホテルのスイートに泊ってる。今日はもうオフのはずだから」
 エレベーターに乗り込みそう話す類に、つくしは緊張を隠せなかった。
「ねえ、何話せばいいの?あたしのこと、話してあるの?」
「大体のことはね。俺の―――大切な人だって、言ってある」
 その言葉に、つくしの頬が染まる。
「大丈夫。俺に任せて・・・・・牧野は、俺の傍にいてくれればいいから」
 そう言って、安心させるようにつくしの手をぎゅっと握る類。
 その類の優しい視線に、ほんの少しだがホッとして、つくしは笑顔を見せたのだった。


 「まあ、こんにちは。お待ちしてましたのよ」
 部屋に入ると、類の母親―――佐和子が笑顔でつくしを迎えてくれた。
 緊張した面持ちで深く頭を下げるつくしを、嬉しそうに見つめる。
「あの、はじめまして、牧野つくしです」
「存じてますわ。とてもかわいらしい方で嬉しいわ。どうぞ、向こうに主人が」
 そう言って先に立って歩く佐和子の後を、つくしはホッと息をついてついて行った。
 類はそんなつくしの手をずっと握っていた。

 案内された部屋のソファーでくつろいでいたスマートな、かつ威厳の感じられる男性がつくしが入って行くと立ち上がり、類とつくしの姿を交互に見た。
「あなた、牧野つくしさんよ。牧野さん、主人の花沢亮です。類とはあまり似ていないでしょ」
 その言葉に、亮はちらりと佐和子に視線を向ける。
「余計なことは言うな。―――牧野さん、お話は類から聞いてます。どうぞよろしく」
「こ、こちらこそ、よろしくお願いいたします」
 先に頭を下げられ、慌てて深々と頭を下げるつくし。
 そんなつくしを見て、亮がふっと微笑んだ。

 その笑顔が、類のそれにそっくりで、つくしは思わずどきっとして亮を見つめた。

 
 「―――類から話を聞いたときは、正直驚きました。自慢にはならないが―――仕事で海外に行っていることの多い私たちは、あまり類と会話することもなかったものでね。久しぶりに帰って来ても、ろくに目も合わせないような・・・・・そんな関係で。たぶん、そうさせてしまったのは私自身だと、反省はしていたんですが、どうにも類がこの年になるまでどう接していいかわからなかった、というのが本音なんです」
 言いずらそうに、少し目を伏せながらそう話す亮。
 その仕草や話し方、声までがやはり類にそっくりだと、つくしは緊張しながらも亮をじっと見つめていた。
「その類が―――いきなり今日ここへやって来て、紹介したい人がいるから会ってほしいと行ってきてね。しばらくろくに話したこともなかったのに、私たちの目を見て、そうはっきりと言った類を見て―――余程大切な人なんだろうと、私たちは思ったんだ。今まで親としてろくなこともしてやれなかったことを考えると―――類が選んだ人なら、私たちはたとえそれがどんな人物でも受け入れようと、話していたんだよ」
「でも、心配いらなったわね」
 そう言って佐和子が微笑んだ。
「こんなにかわいらしくて―――それでいてしっかりしてらっしゃるお嬢さんだわ。背筋がピンと伸びて―――今時の若い方には珍しいんじゃないかしら」
「そ、そんなことは―――」
 あまりに褒められて、つくしは落ち着かなくなる。
 そんなつくしを見て、類がくすりと笑う。
「牧野は、今英徳の高等部で国語の教師をしてるんだ」
「まあ、素晴らしいわね」
「俺は、牧野が続けたいならずっとその仕事を続けてほしいと思ってます。そして、その傍で牧野を支えていきたい」
 そう言うと、類は父親の目をまっすぐに見つめた。
「牧野との結婚を―――そして、ずっと日本にいることを、認めてほしいと思ってます」
 そうはっきりと言い切った類を、つくしは驚いて見つめ―――

 亮が、ゆっくりと口を開いた。

 「きっと―――ここで私が何を言っても無駄だろうな。そんな目をしてる。いつの間にそんな大人の男になったのか・・・・・」
 亮の言葉に、佐和子も頷く。
「ええ、本当に―――。家に閉じこもってばかりいたひ弱な男の子はもうどこにもいないのね。立派になって―――嬉しいわ」
「牧野さん」
 突然名前を呼ばれ、つくしはドキッとして背筋を伸ばした。
「は、はい」
「私たちからのお願いを、聞いてくれますか」
「お願い、ですか・・・・・?」
「そうです。私たちは親として、あまり良い親ではなかったと思ってます。類とあなたには―――わたしたちと同じ過ちを犯してほしくない。類とあなたとで―――どうか幸せな家庭を築いてほしい。類を、お願いできますか?」
「類には、あなたのような女性が必要なの。どうか、類とずっと一緒にいてやってくれないかしら」
 2人の言葉に、つくしはすぐには口を開くことができず―――
 その瞳には、涙が溢れていた。

 「牧野・・・・・」
 類の手が、優しくつくしの背をなでる。
「とても、もったいないです。私は、どこにでもいるただの教師で―――そんな風にお願いされるような人間じゃありません」
「牧野さん、それは―――」
「聞いてください。私は―――今までいろんな失敗を繰り返してきました。でも、そのどれもあたしには必要な経験だったと、今は思ってます。そして、それを教えてくれたのは、類さんです。類さんがいてくれたから、今の私があるんです。ずっと―――傍にいてほしいのは私の方です。私にとって類さんは自分の一部で・・・・・ずっと、離れられない存在だと、思ってます」

 その言葉に、類の両親はホッとしたように微笑み、お互いを見つめ、頷きあったのだった・・・・・。





  

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