自宅待機を命じられたつくしだったけれど。
なぜかその翌日には、学園長に呼ばれ学校へ行くことに―――。
「今日から通常通り勤務してください」
学園長の言葉に、つくしは目を瞬かせた。
「あの・・・・・どうして急に?」
「戻りたくないんですか?」
「いえ、そんなことは!」
「それなら問題はないでしょう。もうすぐ授業が始まりますよ、行ってください」
「―――はい。ありがとうございました」
淡々と事務的な口調で、自分とは目を合わせようとしない学園長。
それでも、勤務に戻れるというなら文句などあるわけもなく。
つくしは学園長に一礼すると、園長室を出ようとして―――
「―――東野先生ですが」
と言う学園長の声に、ぴたりと足をとめた。
「急に山形への転勤が決まりまして。昨日の内にすでに私物などは引き揚げてしまってます。おそらくもう会うこともないと思いますので」
―――転勤?東野先生が?
「―――それは、いつ決まったんですか?」
つくしの言葉に、学園長がちらりとつくしを見た。
「昨日の午後、理事長の方から連絡があったんですよ。私は、詳しいことは知りませんがね」
そうそっけなく言うと、再び机の上の書類に視線を落とす学園長。
つくしは、軽く一礼すると、園長室を出たのだった・・・・・。
「東野先生に、何したの!?」
放課後、車で迎えに来た類を見るなりつくしはそう言って詰め寄った。
「―――びっくりした。いきなり何を言うかと思えば・・・・・。あのさ、どうでもいいけどかなり注目集めてるみたいだから、とりあえず乗れば?」
今にも類に掴みかからんばかりの勢いのつくしに。
下校途中の生徒たちが興味深々とその光景に注目していた。
何せ『噂の2人』が目の前にいるのだから―――
生徒たちの視線にはっとし、つくしは類から離れた。
「どうぞ」
類に助手席のドアを開けられ、つくしは頬を赤らめながらもおとなしく乗り込んだのだった・・・・・。
「俺、何もしてないよ」
車の中でつくしに事情を聞いた類は、そう言った。
「だって―――こんななんでもない時期に急に転任だなんて、絶対おかしいと思ったのに」
つくしの言葉に、類はちょっと考え込んでいたが―――
「もしかしたら―――」
「え?」
「―――昨日、牧野が帰った後総二郎から電話があったんだ」
「西門さん?」
「ん。学園での騒ぎをどっかで聞いたらしくて。で、事情を話したんだけど―――」
「西門さんが、何かしたってこと?」
「いや―――。あの学園で、今でも力を持ってるのは―――司の家だよ」
類の言葉に、つくしは目を見開いた。
「―――道明寺が?まさか!」
「あり得ないことじゃない。司にとって―――別れたとは言っても、やっぱり牧野の存在は大きい。今回の話を聞いたら、それくらいのことは平気でやるよ。少なくとも―――俺が司の立場だったらきっと、同じことしてる」
そう言ってちらりと向けられた視線は真剣で。
つくしは、何も言うことができなかった・・・・・。
「と、ところで、どこに行くの?花沢類の家じゃないみたい」
さっきからずっと、見覚えのない道を車は走っていた。
「千葉」
「千葉?なんで?」
「両親が来てる」
「―――は!?」
思いもよらなかった類の言葉に、つくしは素っ頓狂な声を上げた。
「急にでかい声出さないでよ。運転ミスったら牧野のせい」
「ご、ごめ―――じゃなくて!どういうこと!?あたし聞いてないよ!」
「そりゃそうでしょ。俺も今言ったし」
しれっとそう言う類に、つくしは慌てまくる。
「ねえ、待ってよ、そんなの急に困るってば!あたしだいたいこんな服だし!」
教師らしいと言えばらしい、地味なグレーのスーツ。
髪だって長くのびた髪をひっつめてお団子にした状態で、化粧もほとんど素顔のような状態で、ファンデーションと口紅を乗せただけ、という感じだ。
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃないよ!花沢類の両親に会うのに、こんな格好―――!」
「―――ふーん・・・・・・。気にしてくれるんだ、そういうの」
嬉しそうに笑う類に、つくしは途端に恥ずかしくなって顔を背ける。
「そ、そりゃ・・・・・誰だって気にするでしょ、この場合」
「―――でも、本当に大丈夫だから」
類の言葉に、何かの含みを感じ、つくしは再び類の顔を見た。
「どういう意味?」
「行けば分かるよ」
そう言った類に。
これ以上何を聞いても無駄だと悟ったつくしは、小さく溜め息をつき、窓の外へ視線を移したのだった・・・・・。
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