***夢のあと vol.10 〜類つく〜***



 
 翌日、つくしが登校すると、学園はいつもとは様子が違っていた。

 校舎の前の掲示板に、群がる生徒たち。

 つくしが何事かと近づくと―――

 「あ!牧野先生!」
 1人の生徒が気付くと、全員がつくしの方を振り返ったので、つくしの方が驚いて後ずさる。
「お、おはよう。何事?」
「先生、これ誰?彼氏?」
「え?」
「俺知ってるぜ!これ、花沢類さんでしょ?F4の1人だ!」
 男子生徒が言いながら、掲示板を指でさす。
 つくしはその掲示板に張り出されたものを見て、愕然とする。

 そこには、大きくA4判にまで引き延ばされた写真が張り出されていたのだ。

 写っているのは、つくしと花沢類。

 夜の街で、人目もはばからずキスをする2人。

 それは、昨日のつくしと類の姿だった・・・・・


 「牧野先生がどなたと付き合おうが、それは個人の自由ですからね、それに口を出すつもりはありませんが―――しかし、あんな写真が生徒の目に触れるのは、やはり教育上よろしくないでしょう」

 園長室に呼び出されたつくしは、学園長に苦虫を噛み潰したような顔で小言を言われ、うなだれるしかなかった。
「申し訳ありません。まさか、あんなとこを撮られていたなんて・・・・・」

 写真を撮ったのは、おそらく東野だろう、と思った。

 どうやってつくしの居場所を知ったのかは分からないが、東野以外にはあんなことをする理由が思い当たらなかった。

 「学園中、あの写真のことでもちきりですよ。どうしたもんですかねえ。これでは生徒たちに示しがつかない」
「―――私から、生徒に説明を」
「何を説明するんだね?花沢氏と結婚するとでも?」
「それは―――」
「とにかく、今日のところは牧野先生に授業をしていただくわけにはいかないでしょう」
「そんな」
「この騒ぎが収まるまで、自宅待機をしていただきます。その後の処置については、追って連絡しますので―――。これから残った教師たちで、これ以上騒ぎが広がらないよう生徒たちを指導しなければいけませんから、とりあえずお帰りください」

 丁寧だが、有無を言わせないような学園長の厳しい表情に。

 つくしは、黙って従うしかなかった・・・・・。


 「牧野先生」
 園長室を出たつくしの前に現れたのは、東野だった。
「―――東野先生」
「帰られるんですか?」
「ええ」
 つくしはそのまま東野の横を通り過ぎようとしたが・・・・・
「少し、お話しできませんか?非常階段で・・・・・」
 その言葉に、ぴたりと足を止める。
「―――でも、東野先生は授業が」
「1,2時間目はないんですよ。特別授業に変更されましてね。担任持ってるわけじゃないんで、そうなると暇なんですよね」
 にっこりと、いつもと変わらない笑顔を見せる東野。
 だが、つくしにはその笑顔もいつもと同じようには見えなかった・・・・・。


 「大変なことになりましたね」
 非常階段に出ると、東野がそう切り出した。
「―――東野先生、あれは―――」
「花沢類って、とんでもない人間なんですね」
「え?」
 東野の思ってもない言葉に、つくしは目を見開いた。
「あなたを連れだして、無理やり迫った上にあんな写真を―――。きっと、あなたをものにするためにわざとあんな写真を撮らせて教師を辞めさせようとしてるんですよ。とんでもない奴だ」
「―――花沢類じゃ、ありません」
「そうやってかばいたい気持ちはわかりますが、僕、朝見ちゃったんですよ。スーツを着た男が、朝掲示板にあの写真を張り出すのを。その男は、その後待っていたリムジンに乗り込んで去って行きました。あれは―――」
「違います。花沢類は、そんなことしない。あれは―――東野先生、あなたがやったことじゃないんですか?」
 つくしは、東野を睨みつけた。
 東野は、今までとは違う冷たい笑みを浮かべていた。
「ひどいな。僕を疑うんですか?僕は、あなたのことが好きなんですよ。それなのに、あなたをはめるようなことするわけが―――」
「―――もし、やったのがあなたじゃなくても、そんなことどうでもいいんです」
 つくしの言葉に、東野の顔色がさっと変わった。
「あたしは、花沢類のことを信じてる。花沢類が、決してそんなことする人間じゃないってこと、あたしは知ってるから。東野先生、あなたには申し訳ないことをしたと思ってますけど―――でも、もうあなたとはお付き合いできません」
 そうきっぱりと言い切ったつくしを、東野は真っ蒼な顔で見つめていた。
 その体は小刻みに震え、ぎゅっと握られたこぶしは、白く色を変えていた・・・・・。
「僕は―――あなたと別れるつもりはない」
「あなたにそのつもりはなくても、あたしはもう、お付き合いできないと言ってるんです。本当に申し訳ないんですけど―――」
「―――そんなに、花沢類がいいんですか」
 低い、くぐもった様な声。
 まるで独り言のようなその呟きは、よく聞き取れなくてつくしは東野の顔を見た。
「F4なんて―――単なる親の脛かじり連中じゃないか」
 東野の目が、ぎょろりとつくしを睨んだ。
 突然様子の変わった東野に、つくしは思わず後ずさった。
「こんなに君を想っているのに―――君は、あんな男と!」
 突然つくしに詰め寄り、その手をがしっと掴む東野。

 異常に血走ったその目に、つくしはぞっとして、すぐには身動きすることができなかった―――。





  

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