「美作さん!」
マンションへ帰ると、そこにはなぜか類と2人カクテルを飲みながら寛いでいる美作さんが。
「落ち着け、牧野」
「ひどいよ!あの状況で置いてっちゃうなんて!」
食ってかかるあたしに、苦笑を浮かべながら両手を上げ、なだめようとする美作さん。
「あの場合は仕方ねえだろ。総二郎のやつ、完全に頭にきてたからな。俺もまだ死にたかねえよ」
「で、なんであきらはここに居んの?」
不思議そうに聞く類に。
「そりゃ、あの後のことも気になったし。一応フォローしてやろうと思ってさ。総二郎は?」
「―――実家に行くって。遅くなるって言ってた」
あたしの言葉に、顔を見合わせる2人。
「ふーん・・・・・?あいつ、何か考えてんな」
口に手を当て、美作さんが呟く。
「考えてるって、何を?」
「さあな。そりゃあ判らねえけど・・・・・お前とのことだろうな」
言われて、あたしも考える。
別れ際の西門さんは、あたしの方を見ようとしなかった。
あたしの態度を、ただ怒ってるんだと思ってたけど―――
そうじゃないのかな。
何かを、考えてる・・・・・?
「大体あんた達ってずるいのよ!」
「おい、牧野飲み過ぎ」
持っていたグラスを美作さんに奪われそうになり、あたしはそれを避け、残っていたカクテルをグイっと飲み干す。
「―――それ何杯目?」
呆れたように言う類をじろりと睨み。
「いいじゃん!あたしはお酒飲んじゃいけないの?」
「んなこと言ってねえだろ、ほらもうグラス寄越せよ」
横からまたグラスを取り上げようとする美作さん。
「今の、もう一回作ってよ」
「はあ?まだ飲むのかよ」
「ぜんっぜん足りない!ほら早く!」
「わかったよ。ったく、酔っぱらいが。類、そいつに吐かれないように気をつけろよ」
「あい」
「失礼ね!類にそんなことしないっつーの」
むっとして言うあたしを見て、類は楽しそうにくすくす笑う。
「何笑ってんの〜。類も飲んでる?」
「飲んでるよ。牧野は面白いよね」
「なーにが―?」
「酒が入ってても素面でも、結局思ってることが顔に出ちゃうだろ。総二郎のこと、後悔してるんだろ」
「後悔って―――」
「同棲したこと―――じゃなくて、俺も一緒に住むのを認めたこと。やっぱり、2人だけで住めばよかったって思ってるんじゃない?」
「思ってな〜いも〜ん、そんなこと。類がいてくれた方が安心だも〜ん」
アルコールが回ってきて、ゆらゆらと体が揺れてる感じがした。
隣に座っていた類の腕にギュッとしがみつく。
類の繊細な手が、あたしの髪をなでる。
ちょっと冷たいその感触が気持ちよくて、目を閉じる。
「―――牧野、俺のこと男だって認識してないでしょ」
呆れたような言い方に、くすくすと笑いが漏れる。
「認識してるよ〜。類大好き〜」
「・・・・・それ、総二郎に聞かれたら俺、ここから追い出されるよ、確実に」
「だ〜いじょ〜ぶ。西門さんだって類が大好きだし〜」
「それとは違うでしょ」
「違わないよ〜。西門さんと類は親友でしょ〜?あたしだって―――類のことそう思ってるも〜ん・・・・・ね、おんなじ〜〜〜」
「・・・・・親友、ね・・・・・」
「そ、親友〜〜〜だから、類大好き〜〜〜美作さんも好き〜〜〜」
「―――じゃ、総二郎は?」
「西門さんは〜、西門さんはね〜・・・・・」
「ん?」
だんだん、意識が遠のいてく気がする。
ゆらゆらと、気持ちよくて。
瞼が開かなくなる―――
「牧野?総二郎のことは?どう思ってる?」
類の声が、やさしく響く―――
「―――大好き、だよ。すごく―――すごくね―――愛してる―――」
夢の中で、あたしの体はふわふわと浮いているようだった。
やわらかい真綿に包まれて。
あったかくて、気持ちよくて。
ずっと包まれていたくなる。
額に、頬に、柔らかいものが触れる感じ。
それが何かを確かめたくて。
手探りでそれを引き寄せて。
ぎゅっと抱きしめる。
耳元に、温かい息がかかる。
くすぐったくて身を捩ると、遠くの方から聞こえてくる声―――
「寝ぼけながら、人のこと煽るんじゃねえよ―――」
戸惑ったような、照れたような―――
大好きな、彼の声―――
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