-tsukushi-
「はは、早速やらかしたのか、類のやつ」
大学で美作さんに会って。
あたしは今朝の出来事を話した。
「笑い事じゃないよ、もう、その後も西門さんは不機嫌だし―――」
「大目に見とけよ。それだってきっと、類にしたら牧野のためにやってるのかもしれねえし」
その言葉に、あたしは首をかしげる。
「あたしのため?どうして?」
「あいつの今までの女性遍歴考えたら、今までに相手にした女たちが押し掛けてくることだって考えられる。お前、心配したりしなかったか?お前の知らない間に総二郎が女連れ込んだりしないかって」
美作さんの言葉に、あたしはちょっとぎくりとした。
「そ、そんなこと―――普通、同棲中のマンションに連れ込んだりは―――」
「お前の留守中にそんなこともあるかもって思わなかったか?例えばバイト中なんかにさ」
そう言われてしまうと、何も言えなくなる。
確かに、心の奥底でそんな風に思ってたのかもしれない。
西門さんの今までのことを考えると、どうしてもあたしが彼女だということに安心できなくて。
でも、信じたい気持ちも本当で―――。
「だから、そういう不安を類は感じ取ってたんじゃねえのかってこと。類がいるって思えば総二郎も下手に留守出来ねえし、女連れ込むこともねえだろうが」
「そんなこと―――考えてたのかな」
「だと俺は思うけどね。ま、お前のそばにいたいって気持ちも本当だとは思うぜ。あの類にとって、お前に関わるってことが唯一あいつが生きがいに感じてることだって俺は思うし。総二郎には気の毒かもしれねえけど―――お前だって、類がそばにいることで安心できることがあるだろ?」
「そりゃあ・・・・・」
ずっと、類は特別だと思ってる。
恋愛感情とは別のところで、いつも自分の一部のように思っている類のこと。
そばにいると思うだけで、なぜか安心できるのは本当のことで―――。
「そのうち総二郎も慣れるだろ。幼馴染なだけに、お互いのこと解りすぎててイライラする部分もあるんだ。お前はあんまり心配しないでゆったり構えてろよ。本気で困った時には俺が何とかしてやる」
そう言って微笑む美作さんは、とっても頼りがいがあるように見えて、あたしは安心することができた。
「ありがと。―――なんか、美作さんにも一緒に住んでほしいかも」
その言葉に美作さんは一瞬目を瞬かせ―――
ちらりとあたしの後ろに視線を流し。
口を押さえて1つ、咳ばらいをした。
「―――ま、それが実現することはねえと思うけどな」
と、言う美作さんの言葉のすぐ後に。
「当たり前だ。これ以上頭痛の種が増えてたまるか」
という声が、あたしのすぐ後ろで聞こえて。
恐る恐る振り向けば、そこに立っていたのは予想通りというか、やっぱり不機嫌に顔を顰めた西門さんで―――
「つくしちゃん、ちょ〜っと顔かしてくんねえ?」
そう言う西門さんは笑顔を浮かべてはいたけれど。
その背中には黒いオーラを背負っていて。
思わず逃げたくなって立ち上がり、美作さんの腕をつかむ。
「や、あの、あたし今美作さんと―――」
「あきらと、何?」
さらに険しくなる西門さんの黒い笑顔。
「あー、俺用事思いだしたから、もう行くわ。じゃあな牧野」
「ええ?ちょっと美作さん!」
ひらひらと手を振りながら行ってしまう美作さんをあたしは呆気にとられて見送り―――
―――本気で困った時には俺が何とかしてやるって言ったのに!!
「つくしちゃん」
その低い感情を抑えた声に、ぎくりとする。
「―――ちょっと出ようか?」
「おれと、一緒に暮らしたくなかった?」
大学のそばの喫茶店で2人、向かい合わせに座る。
「そんなこと―――」
「類や―――あきらがいたほうが安心できる?俺と2人きりにはなりたくない?」
西門さんの沈んだ声に、あたしは慌てて首を振った。
「そんなこと、ないよ。そうじゃなくて―――」
「わかってるよ。類がお前にとって特別だってことも、俺の過去を不安に思ってるってことも。けど、俺はお前が好きだしお前と2人でいたいと思ってる。だからお前にも同じように思ってほしいと思うのは、俺のわがままか?」
真剣な、西門さんの瞳。
いつでもあたしの心を捕えて離さない瞳。
あたしだって同じ気持ちだと伝えたいのに、なぜだかそれをうまく言葉にすることができなくて。
「―――おれ、今日は実家に呼ばれてるから、帰りは遅くなる」
ふと目をそらし、西門さんが言った。
「あ―――そうなんだ」
「何時になるか分からないから、飯待ってなくていいよ」
そう言うと、西門さんは席を立ちあがった。
「じゃ、俺もう行くわ」
「あ―――うん」
最後は、目を合わせようともしなかった。
なんでこうなっちゃうんだろう。
素直になれないあたし。
それが、西門さんを不安にさせてるんだってわかってるのに。
あたしだって西門さんのことをすごく好きなのに。
どうして、それを素直に言葉にすることができないんだろう・・・・・
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