-tsukushi-
「るーい、もう起きないと、遅刻するよ」
引越しの翌日。
大学に行くために起きたあたしは、『起きれないから起こして』と言っていた類の部屋に入り、ベッドでぐっすり眠っている類に声をかけた。
「ねえってば、今日は朝から行かなきゃいけないんだって言ってたじゃん。早く起きて」
いつも遅刻気味の類だけれど、今日は用事があるんだって。
そう言っていたからあたしは何とか起きてもらおうと声をかける。
それでもなかなか起きない類を前に、どうしようかと悩み―――
「類ってば!いい加減起きないとあたし先に行っちゃうよ?」
そう言って布団をひきはがしその肩に手を伸ばそうとして―――
逆に、布団の中から伸びて来た腕にグイと腕を掴まれ、そのまま引きずりこまれてしまう。
「きゃあっ!?」
あっという間に類の腕に抱きこまれ―――
目の前に、いたずらっぽい笑みを浮かべた類の顔。
「類!起きてたのね?」
「ん、おはよ」
チュッと額にキスをされ。
あたしは慌てて類から離れようとするけれど―――
「逃げちゃだめ」
そう言って、しっかりと腰を引き寄せられてしまう。
「ちょっと、類!ふざけないで」
「せっかく一緒に住んでるんだから、こういうのも楽しませてよ」
「そんなこと言って、西門さんに見られたら―――」
「―――そりゃあ、おおごとになりそうだよなあ、つくしちゃん」
聞こえてきた声に、あたしはぴたりと動きを止めて―――
恐る恐る振り向いたあたしの目に飛び込んできたのは―――
額に青筋を浮かべ、絶対零度の瞳であたしたちを見下ろす西門さんの姿だった―――
-soujirou-
嫌な予感はしたんだ。
朝が弱い類に頼まれ、類を起こすことを約束していた牧野。
類の部屋は俺の部屋のすぐ隣だし。
それほど薄い壁でもないが、牧野が部屋を出て、類の部屋に入って行ったのは扉の音でわかった。
もちろん話し声までは聞こえなかったが、やっぱり心配で―――
自分の部屋を出て、そっと隣の部屋の扉を開けてみれば―――
「ちょっと、類!ふざけないで」
牧野の慌てる声が聞こえてくる。
「せっかく一緒に住んでるんだから、こういうのも楽しませてよ」
くすくすと笑いながら、類の楽しそうな声。
「そんなこと言って、西門さんに見られたら―――」
まるで恋人の浮気現場に踏みこんだ気分だ。
現れた俺に青い顔で振り向く牧野と、俺が来たことにとっくに気付いていたんだろう、余裕の笑みを浮かべる類と。
俺は勢いに任せ牧野の腕を引っ張りそのまま部屋を出ると、俺の部屋へと牧野を連れて行った。
「何してんだよ!?」
俺の怒鳴り声に、牧野は一瞬顔を顰める。
「怒鳴らないでよ。仕方ないじゃない、類がなかなか起きてくれないから―――
「ガキじゃねえんだから、ほっときゃあいいんだよ!そんなに大事な用があるなら自分で起きられるっつーの!」
「だって―――」
「あんなの、お前を部屋に入れるための口実に決まってるだろうが!」
俺の言葉に、牧野は眉をひそめ―――
「そんなこと、わかんないじゃん。類が寝起き悪いのはほんとだし―――。起こしてって言われれば、起こしに行くしかないでしょ」
「とにかく!これからは類の部屋行く前に俺んとこに来い!」
「なんで?」
きょとんと首を傾げる牧野。
大きなくりっとした目を瞬かせるその表情は可愛いけれど。
今はそんなこと言ってる場合じゃなくて。
「お前を1人で類の部屋に行かせないため!いいか、今度からは俺が類を起こすから、類を起こす前に俺を起こせ!」
そう言ってびしっと牧野の顔に指を突き立てる俺に。
牧野は不本意そうに顔を顰め。
「めんどくさ・・・・・」
と言ったけれど。
その言葉に眉をピクリとつりあげる俺の顔を見ると一歩後ずさり。
「あ、嘘。ちゃんと起こすよ、大丈夫。―――あ、あたし、朝食作るね」
と言って、そそくさと部屋を出て行ったのだった―――。
「おはよ」
牧野と入れ違いに部屋に入ってきたのは、類だ。
「てめ、ぬけぬけと―――。いいか、今度あんなことしたらぶん殴るからな」
その言葉に、類が苦笑する。
「怖いね。なんか司に似て来たんじゃない?総二郎」
「うるせーよ。お前がそうさせてるんだろうが」
「そう?でも、牧野で遊ぶのは俺の趣味だし。唯一の楽しみなんだから奪ってほしくないなあ」
「知るか。とにかく、あいつにあんまりさわんじゃねえよ!」
はいはいと軽く手を振りながら部屋を出て行く類に。
これからはゆっくり寝ていられないと、溜め息をついたのだった・・・・・。
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