-tsukushi-
「意味がわかんねえ」
じろりとあたしを睨む西門さんの目に。
思わず逃げたくなるあたし。
3人で一緒に住もうと類に持ちかけられて。
そんなややこしいことになるくらいだったら、いっそ同棲という話を無しにしよう、と西門さんに提案したのだけれど。
「だ、だから、同棲っていう話をこの際なしにすれば―――」
「いやだね」
「だって、大学で毎日会えるんだし―――」
「足りない」
「え―――」
「俺は、それじゃ足りないって言ってんの。お前は、それでいいわけ?」
「あ、あたしは―――」
「俺はいつでもお前と一緒にいたいと思うのに、お前は違うの?」
「ち―――違わない、よ」
その言葉に、満足そうに微笑む西門さん。
その笑顔はまるで少年のようで。
やっぱり好きだな、なんて改めて思ってしまうほど。
「じゃあ、一緒にいよう」
優しい声でそう言われてしまえば。
もう、頷くしかないじゃない―――。
「で、結局3人で一緒に住むんか」
美作さんの言葉に、あたしは頷いた。
「部屋数は十分にあるの。西門さんは実家の方でやらなきゃいけないこともあるし、あたしもバイトがあるし―――類は寝てるだけだって言ってるけど、3人の生活時間帯がばらばらだから、同棲って言うより同居生活になるかなって思ってるんだけど」
「同居ねえ・・・・・お前、そんな甘いこと言ってて大丈夫なの」
「何よ、それ」
「類の気持ちだってわかってるだろうが」
「類は―――あたしの気持ち、ちゃんとわかってくれてるから」
「お前らと一緒に住みたいって言いだしたのは類だろ?それを忘れんなよ」
美作さんに念を押され、あたしはもちろんと頷いたけれど。
でも、本当にはわかってなかったのかもしれない。
3人で同居することの大変さなんて―――
「姉ちゃん、すごいとこに住むんだね」
引っ越しを手伝ってくれている進が、そのマンションを見上げて言った。
超のつく高級マンション。
自分とは無縁だと思っていたそこに、あたしは今日から西門さんと、類と一緒に暮らす。
「言わないでよ。なるべく考えないようにしてるんだから―――」
進の隣で、溜め息をつくあたし。
その横を、引っ越し業者の人がどんどん荷物を運んでいく。
あたしのではなく、類のだ。
あたしの荷物なんて業者を使うほどのこともなかったので、類にも手伝ってもらって車で運んでしまえば1回で済んでしまうのだから。
「新しい家具なら、揃ってるから」
と類に言われたとおり、あたしに与えられた部屋には一通りの家具が揃っていて、これまであたしが使っていた壊れかけた家具なんて、持ってくる必要が全くなかった。
必要だったのは洋服と、参考書など大学で使うものくらい。
逆に、他の2人の荷物はなんであんなに多いのか、首を傾げるばかりだった。
美作さんも手伝いに来てくれ、一通りの荷物を運びいれそれぞれの引っ越しが終わったのはもう日もとっぷりと暮れたころだった。
「まだごちゃごちゃしてるし、外で飯食おうぜ」
その西門さんに促され、あたしたちはすぐ近くのファミレスへ入った。
「ま、今日のところは牧野に合わせるよ。ファミレスなんて、滅多入んねえけど」
美作さんの言葉にちょっとムッとするけれど。
悪気があるわけじゃないのはわかってる。
こういう人たちなのだ。
「でも、広過ぎて当分落ち着かないよ。あのあたしの部屋に、家族全員で住めそうだもの」
あたしの言葉に、西門さんが顔を顰めた。
「おい、それだけはやめろよな。類だけでもう十分だっつーの」
その言葉に、美作さんがくすくす笑う。
「まあでも、問題ねえだろ?類なんていてもほとんど寝てるんだから、2人の邪魔にはならねえし」
「ま、そういうことだ。楽しみだな、牧野」
にやりと笑う西門さんに。
なんだか嫌な予感がして―――
やっぱり、3人で同居なんてしなきゃ良かったかも―――
と思ったのは、口には出せないけれど―――
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