-soujirou-
高等部の非常階段。
ここが、牧野と類がよく会ってる場所だ。
それは牧野と司が付き合ってる頃から変わらない。
あの2人の関係を、いまさらとやかく言うつもりはないけれど。
彼氏としちゃあ、面白くはない。
「あれ、総二郎」
「西門さん?どうしたの?」
「―――おれがここに来ちゃいけないか?牧野が、類とどっかに消えたって言うから」
「消えたって・・・・」
「ここは、俺と牧野にとって癒しの場所だから」
「そこに俺はいちゃいけないわけ?」
類の目に、挑戦的な光が見えた。
こいつの気持ちはわかってはいたけれど。
でも、こんなに挑戦的な態度をとる奴だったか?
「ちょっと、2人とも・・・・・ていうか、西門さんは何か用事だったんじゃないの?」
「用事がなくちゃ会いに来ちゃいけないか?俺はお前の彼氏だろうが」
その言葉に、牧野の頬が微かに染まる。
「そ、それは―――」
「けど酔った勢いってやつでしょ?」
すかさず割って入る類に、やっぱり他意を感じる。
「類、何が言いたい?」
「総二郎が酔った勢いで言った言葉なんて、信用できるのかなって思ったんだけど」
にやりと笑う類。
その言葉にカチンときて、思わず類を睨みつける。
「てめえ・・・・・言っていいことと悪いことがあるぜ」
「なら、今までのも全部本気だった?さんざん女を口説いてるのを見て来たけど」
言われて、ぐっと詰まるが・・・・・
「―――昔のことだろ?」
「そう?でも総二郎ってそんなイメージだし。牧野だってそう簡単に総二郎の言葉信じられないんじゃない?」
牧野を見ると、類の言葉に困ったように目を泳がせている。
「―――おれの言葉が信じられないわけ?」
「だって―――酔った勢いっていうのは本当じゃない。そんなの、たくさんの人に言ってるでしょ?」
「だからって、お前に冗談でそんなこと言うと思ってるのかよ」
「そんなの、酔ってるんだからわからないじゃない!」
「酔ってねえよ!」
思わず叫んだ言葉に、牧野が目を見開く。
「だって―――」
「酒でも入んなかったら―――お前に告白なんか、できなかった」
「意外と臆病だからね」
「類、うるさい」
じろりと睨むと、ひょいと肩をすくめる類。
「マジで―――俺は、お前が好きだから。だから―――俺のこと、信じてくれ」
ただ信じてほしくて。
それだけを思って牧野を見つめた。
その瞬間、牧野の瞳からは大粒の涙がこぼれた・・・・・。
-tsukushi-
「やきもち妬いたの?」
あたしの言葉に、西門さんの頬が微かに染まった。
「悪いか。だいたい、お前が類と消えたりするから―――」
「別に、消えてないし。あの場所に類といるのなんて、いつものことだよ」
「それが気に入らねえ。どうにかなんねえのかよ」
「そう言われても・・・・・。あの場所は、あたしと類にとって特別なんだよ」
非常階段で2人でいたあたしと類。
あたしにとっては当たり前の日常なんだけどな。
「―――じゃ、その代わりに俺にも特典くれよ」
「特典?」
「そ。例えば―――」
そう言って、西門さんは何かを思いついたようににやりと笑った。
その笑みに、あたしの背中を嫌な汗が伝う。
「え―と、あたしこの後用事が―――」
さりげなく目をそらし、そのまま離れようとしたあたしの腕を、西門さんの手が掴む。
「この俺から、逃げられると思ってる?つくしちゃん」
「てか、なんで特典?」
「お前が類とあの場所で会うことを許すから」
「べ、別に西門さんの許しは―――」
いらないと思うんだけど?
「俺がそれを我慢する代わりに、お前から特典をもらう」
「―――で、その特典って?」
「一緒に暮らそう」
「―――――はあ!?」
西門さんの言葉に。
文字通り、あたしは固まってしまったのだった・・・・・。
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