***もっと酔わせて vol.27 〜総つく〜***



 
 「そう言えば、何でお母様に呼ばれてたの?」

 相変わらず不機嫌なままの西門さんに手をひかれ、西門さんの部屋のベッドに座らせれたあたし。

 むっと口をつぐむ彼の気を紛らわせようと、何とか話を振ってみる。

 そしてそれはまんまと成功したようで。

 西門さんは言われて思い出したように「ああ」と小さく呟いた。

 「お袋が―――お前を、親せきに紹介したいって」
 だけど言われたことはあたしには衝撃で。
 それこそ、祥一郎さんにキスされたのがどうのともめてる場合じゃなかった。
「ええ!?」
「俺の叔母―――親父の姉なんだけど、やたらと世話好きな人がいてさ。俺が大学入ったあたりからよく見合い話を持ち込んできてたんだ」
「見合い―――西門さんの?」
「ああ。で、いつもそれを俺が断ってたんだけど―――今回、俺が家にいなかったからお袋がその叔母に、俺には恋人がいるって話をしたらしいんだ」
 そう言って、西門さんはちょっと顔を顰めた。
「そうしたら、叔母がそういうことならちゃんと紹介しろって言ってきたらしくて。まだ結婚が決まったわけじゃないって言っても婚約くらいはしておいた方がいいって譲らなくて・・・・・勝手に親せき連中に声かけて、うちに集まる日取りまで決めてきたって」
「あ、集まるって―――」
「ざっと20人くらいだと思うけど、うちでお茶会を開いて、その席で婚約発表しろって勝手に決めて―――婚約しないなら叔母の用意した見合い相手を連れてくるって話にまでなって、おふくろも仕方なく承諾したって言うんだよな」
「そ、そんな―――どうすんの?」
 青くなったあたしに、西門さんは肩をすくめて見せ。
「仕方ねえだろ?とりあえずお前を連れてって紹介するしかない」
「―――マジ?」
「マジ。結婚はまだ先とは思ってたけど、俺がお前以外の女と一緒になるなんてありえないし。だったら婚約くらいしておいたっていいって、俺も考え直したんだ。お前は油断するとすぐふらふらするし―――」
「ふ、ふらふらって!」
 思わず声を上げると、じろりとあたしを睨む西門さん。
「してないとは言わせねえからな。兄貴や類にキスまでされやがって。いくら気の長い俺でも許せることと許せねえことがある」
「―――どこが気が長いのよ」
「うるせーな。とにかく、俺以外の男に隙を見せんな!お前に隙があるから、兄貴も類もそこにつけ込むんだよ!」
 その言い方に、ちょっとムッとしたあたしだったけど。
 ここでけんかなんかしてる場合じゃないってことくらいは、いくらあたしでも理解できるから。
「―――わかったわよ。で―――いつ、その親戚が集まるの?」
「今度の日曜」
「うわ、あと1週間?」
「そういうことだ。明日から特訓だからな」
「特訓?」
「俺の親せき連中はいろいろうるさいやつが多い。最低限の作法と、茶道の常識くらいは覚えておかないと何言われるかわかったもんじゃねえからな」
「ゲ―――」
「とにかく、俺はお前を連中に婚約者として認めさせるってお袋にも言っちまったし、おふくろも叔母にお前のことを言った手前意地になってるとこもある。こうなったら、奴らがぐうの音も出ないほど完ぺきにお前を仕込んでやる」
 そう言ってにやりと笑った西門さんの目はギラギラと闘志をみなぎらせていて―――
「あの―――こ、怖いんですけど」
「お前も、覚悟しとけよ?浮気してるひまなんかねえからな」
「―――まだ言ってるの、そんなこと」
 と、思わず溜息をついたのだった―――。


 「うひょ〜、特訓か。厳しそうだなあ。茶道のことについちゃ総二郎も妥協ねえからな」
 翌日の大学で、あたしはカフェテリアでコーヒーを飲んでいた美作さんに掴まり、話をしていた。
「やめてよ、美作さんまでプレッシャーかけるの。もう今から胃が痛いんだから」
「今日もこれから?」
「うん。一応大学は必要な講義だけ出て、あとはパスしろって―――次の講義が終わったら、もう行かなくちゃ」
「へーえ。ま、総二郎がそこまでやる気出してんならどうにかしてくれんだろ。がんばれよ。マジ、あそこの親せき連中はこええから」
「だからやめてってば〜、逃げ出したくなっちゃう」
「―――言っとくけど、逃げようとしても無駄だからな」

 突然割って入ってきた声に、あたしはぎょっとして振り向いた。

 「よお、総二郎。なんか面白いことになってんな」
 美作さんの言葉に、西門さんが顔を顰める。
「余計なお世話だよ。あきら、お前も牧野に泣きつかれても匿ってやったりすんなよ?」
「ああ、大丈夫。すげえ面白そうだし」
「心配なのは類の野郎だよな。あいつ、わざと俺を困らせるようなことしやがるから」
「俺が、何?」
 と、そこへ当の類が姿を現す。
「よお、類。珍しいなまだ午前中なのにここに顔出すなんて」
 美作さんの言葉に、肩をすくめる類。
「暇だったから。―――婚約、するんだって?」
 そう言って、あたしを見て微笑む。
「そういうこと。だから、お前も余計なちょっかい出すなよ?ここが勝負どころなんだから」
 そう言って西門さんがじろりと睨むのにも、まるで気にしていない様子で。
「ん、わかった。牧野、がんばってね」
 と言ってにっこりと微笑む。

 今やその笑顔だけが、あたしにとって癒しの存在かも―――

 そう思ってまた、溜息をついてしまうあたし。

 だけどここで逃げ出すわけにはいかない。

 あたしだって、真剣なんだから。

 いまさら、西門さんが別の人とお見合いして結婚なんて、冗談じゃないっつーの―――。

 こうなったら、とことんやるしかない。

 そのうるさがたの親戚連中がぐうの音も出ないほど、完璧に―――!!

 なんて気合を入れたのはいいけれど。

 1週間にわたる鬼のような特訓がどんなものかなんて、この時のあたしは想像もしてなかった―――





  

お気に召しましたらクリックしていってくださいね♪