マンションの部屋を出て、祥一郎さんと一緒に外へ出る。
マンションの目の前にある駐車場に、祥一郎さんは車を停めていた。
「―――あの家も、総二郎までいなくなったんじゃさびしいだろうな」
ふと、祥一郎さんが独り言のように呟いた。
「戻られる気は、ないんですか?」
あたしが聞くと、祥一郎さんはちょっとあたしを見て微笑んだ。
「うん。あの家に戻る気はないよ。でも―――たまには、顔を出して見ようかな」
「喜びます、きっと」
「どうかな―――けど、いつまでも意地はってるような年でもないしね」
そう言って、くすりと笑った祥一郎さんは、何か吹っ切れたような、さっぱりとした顔をしていた。
車のドアを開け、そのまま乗り込もうとして―――
ふと振り向き、あたしを見た。
「―――君と総二郎の式には出るつもりでいるから、その時はよろしく」
ふいにそんなことを言われて、あたしは顔がカーッと熱くなるのを感じた。
そんなあたしを見て、祥一郎さんが噴き出す。
「やっぱり可愛いな、君は」
「だ、だから、からかわないでください!」
「からかってないよ。本当に―――もうすぐ君みたいな妹ができると思うと、嬉しいよ。―――義兄妹っていうのも、悪くないな」
そんな未来に思いを馳せるように楽しそうに微笑む祥一郎さん。
あたしはちょっと照れ臭かったけれど。
―――祥一郎さんみたいなお兄さん、いたら素敵だよね。
なんて、考えてしまっていた。
「―――また、遊びに来てください」
あたしの言葉に、祥一郎さんはちょっと目を瞬かせた。
「いいの?総二郎は嫌がるんじゃない?」
「そんなことないです。言ったでしょ?西門さんは、祥一郎さんのことが大好きなんですから。きっと、喜びます」
その言葉に、祥一郎さんは嬉しそうに笑った。
「じゃあ、そうさせてもらうよ。―――ありがとう」
「いえ、どういたしまして」
手を差し出されて。
反射的に、あたしも手を差し出し、握手をする。
そしてその手を離そうとした瞬間。
なぜか逆にグイっと引き寄せられてしまった。
何が起こったのか理解する前に。
祥一郎さんの唇が、あたしの頬に触れた・・・・・。
「またね」
離れる間際、耳元に甘い声を残して―――。
呆然としている間に、祥一郎さんは車に乗り込み、走り去ってしまっていた。
そして―――
「この浮気者」
その言葉にぎくりとして振り向くと。
そこには、不機嫌に顔を顰めた西門さんが―――。
「い、いつからそこに!?」
「今、来たんだよ。何やってんだよ、お前」
「な、何って―――祥一郎さんの見送りに」
「へーえ、見送りに来て、キスされて、真っ赤になってたんだ?付き合いはじめの恋人同士じゃねえか、それ」
「そ、そんなこと―――!」
「で、お前も何黙って見てんだよ!」
西門さんがそう言ってじろりと睨んだ先には。
なぜか、類が電柱の陰に立っていた。
「類?なんでここに―――」
「だって、牧野がのこのこ着いてくから。浚われたりしないように、見張りに来た」
「なんで黙ってキスまでさせてんだよ」
「別に、キスくらいならいいでしょ?俺もいつもしてるし」
類の言葉に、西門さんが目をむく。
もちろんあたしも。
「はあ!?いつもしてる?キスをか!?」
「ちょ、ちょっと類!変なこと言わないでよ!」
「おい牧野!どういうことだよ!?」
「だから、違うってば!」
「照れることないのに」
「類!!」
完全に面白がってる。
あたしも慌ててるけれど、西門さんはもっと―――
たぶん、類にしてみれば西門さんがこんな風に慌てるのが面白くて仕方ないんだろうなとは思うけれど。
冷静に、分析してる場合じゃない!
「ちょっと、誤解されるようなこと言わないでよ!」
詰め寄るあたしなんかお構いなしに。
「そう言えば、兄貴が持ってきたワイン、うまそうだったね。あれ、開けようか」
「おい!話そらすな!お前は大体―――」
西門さんが類のシャツの襟首をグイと引っ張ると―――
「あ、伸びちゃうじゃん、やめてよ」
そう言って振り向き―――
何を思ったのか、突然あたしの方へ向くと、そのままあたしの頬にチュッとキスをしてきたのだ。
「!!―――類!てめえ!!」
固まってるあたしと、顔を真っ赤にして怒っている西門さんに背を向けた類は、ゲラゲラと笑いながら先を歩いて行ったのだった・・・・・。
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