「やあ、はじめまして」
驚いた。
思わずあたしは何も言えずにその人を見つめてしまった。
だって―――
「何呆けてんだよ、牧野」
西門さんの呆れたような言葉に、はっと我に帰る。
「あ、ご、ごめん、あんまり西門さんに似てるから―――」
その西門さんのお兄さん―――祥一郎さんはあたしの言葉にくすくす笑った。
そんな笑い方までそっくりで―――
西門さんより7歳年上の祥一郎さんは、いま28歳のはずだけれど。
西門さんの双子の兄弟と言われてもおかしくないくらい、若々しくて・・・・・すてきな人だった。
「急にメールなんか寄越すから、びっくりした。メアド、よくわかったな」
3人でテーブルを囲み、食事をしながら、西門さんが口を開いた。
「ああ、まあな。これでも、ずっとお前のことは気にしてたんだ。いつまで女遊び続けてんのかと思ったけど―――ようやく落ち着いたみたいだな」
ちらりとあたしを見るその視線に、いちいちドキドキしてしまうあたし。
緊張して、ナイフを落としそうになってしまう。
「―――兄貴、あんまり牧野見ないでやってくれる?えらい緊張してるみたいだから」
「ん?ああ、そうか―――。ごめんね、牧野さん。総二郎の彼女がどんなにすてきな人なんだろうって、俺も楽しみにしてたんだ。君みたいな人で安心したよ」
「え―――」
あたしは思わず手を止め、祥一郎さんの方を見た。
その瞬間、ばちっと目が会ってしまい、またドキドキと心臓が音を立てる。
「総二郎は意外と短気で―――それに寂しがりなところがあるからね。君みたいにしっかりしてて―――優しい女性が合ってると思ってたんだ」
「優しい―――あたしが?」
初対面の人に、そんなこと言われたことなかった。
「うん。君はとっても芯の通ったしっかりした女性に見えるし、それに―――優しい人だと思うよ」
にっこりと微笑み、あたしを見つめる祥一郎さん。
西門さんに似ていて、それでいて少し儚げにも見えるその瞳に見つめられ、あたしは目をそらすことができなくなってしまった―――。
コツンッ
突然額を小突かれ、あたしはその痛みに顔を顰めた。
「いたっ、何すんの、西門さん」
「―――ぼーっと見惚れてっからだよ」
「は?」
プイっと、顔をそむける西門さん。
それを見て、祥一郎さんが楽しそうに笑った。
「なんだ、ヤキモチか?心配しなくても、お前の彼女に手ぇ出したりしないよ」
「そ、そんなんじゃねえよ。―――それより、話したいことってなんだよ」
微かに頬の染まった西門さん。
きまり悪そうに祥一郎さんをじろりと睨んだ。
ところで。
このレストランの、このテーブルから大分離れた窓際の席に、花沢類と美作さんの姿があった。
あたしたちよりも後から来た2人は、今食前酒に手を伸ばしたところだった。
ちょうどあたしの位置からは類の顔がはっきりと確認できて―――
類もあたしに気付くと、にっこりと笑ってくれて。
その笑顔に、あたしはホッとしてちょっと落ち着くことができた・・・・・。
「ちょっと困ったことがあってね・・・・・お前と、それから牧野さんに―――折り入って頼みたいことがあるんだ」
その祥一郎さんの言葉に、あたしと西門さんは顔を見合わせた。
「俺が今、横浜で開業してることは知ってるだろ?」
「ああ」
「小さい病院だけど、結構患者さんも来るし、繁盛してるんだ」
―――きっと、女性患者が多いんだろうな。
「医療関係のこととかだったら、俺たちは何にも出来ねえぞ」
その言葉に、祥一郎さんはくすくすと笑った。
「わかってるよ。お前たちにそんなこと頼んだりしない。そうじゃなくて―――どっちかというと人間関係でちょっと困ってて―――」
「人間関係?なんだよ、婆さんの患者に結婚を迫られてるとか?」
「ん―・・・・ちょっと違うけど、近いかな」
「は?マジで?」
西門さんが驚いて身を乗り出す。
「ああ、いや、婆さん本人じゃないんだ」
そう言って祥一郎さんは手を振った。
「―――毎日のようにうちの病院に通ってくる婆さんがいてさ・・・・・すごくいい人なんだけど。その婆さんが、俺に見合い話を持ってくるんだ」
「へえ」
「毎回いろんな女の人の写真持ってきちゃあ、その女の人がいかに素晴らしいかって話を俺に聞かせるんだ。まあ、ボケ防止っていうか―――それがその人の唯一の楽しみだとしたら、それを取り上げるのも申し訳ない気がして、いつも断りはするけど、『ちょっと好みと違うみたいだから、今回は見送るよ』って言ってごまかしてたんだけど―――」
「―――そういうわけにいかなくなった?」
「ああ。この間持ってきた見合い写真っていうのが、その婆さんの孫で・・・・・これが最後の1人だっていうんだよ。何が何でも見合いして、曾孫の顔を見せてくれって―――」
困ったように苦笑する祥一郎さん。
西門さんは溜息をついて―――
「なるほど。けど、一度会ってやればいいんじゃねえの?婆さんの顔立ててさ。それから本人にやんわり断れば―――」
「俺もそう思ったんだけど―――その女性っていうのが問題で―――
「なんだよ?婆さんの孫なんだろ?」
「ああ。その、年齢が―――まだ16歳の高校生なんだよ」
「女子高生!?」
さすがに困ったと溜息をつく祥一郎さんを前に。
あたしたちも顔を見合わせ、言葉をなくしたのだった・・・・・。
|