***もっと酔わせて vol.18 〜総つく〜***



 
 道明寺が再び日本を発ち、あたしたちはいつもの日常を取り戻した。

 それにしても、これって同棲って言えるんだろうか?

 花沢類のマンションで、花沢類も一緒に住んで。

 そし

てほぼ毎日美作さんがやって来て泊っていくこともしょっちゅうで。

 「お前らいい加減にしろよ」
 西門さんが青筋を立てて怒っても、そんなの気にも留めない2人。
「だってここ、俺のマンションだし」
「うまい酒持ってきてやってんじゃん。1人で飲むよりお前らと飲んだ方が楽しいし」  

 たとえば。

 あたしと西門さんが結婚したとして、やっぱり今と大して変わらない生活を送ることになるんじゃないだろうかと、そんな余計な心配までしてしまうほど―――。

 「けど、あの家で気まずい思いをするよりも俺らがいた方が牧野も安心なんじゃない?」
 類の言葉に、あたしと西門さんは顔を見合わせた。
「気まずいって―――」
「どういう意味だよ?」
「そのままの意味。総二郎のとこは格式高いから、牧野がその生活に慣れるには時間がかかるんじゃないかと思って」
 その言葉に、あたしはちょっと不安になってきた。

 ―――確かに・・・・・

 西門さんのお母さんの顔を思い出すと、それは否定できなかった。

 あたしとは、別の世界の人・・・・・
 本当だったら、付き合うこと自体あり得ないような人なのかもしれない。
 でも・・・・・

 「おい牧野、何黙ってんだよ。そんなことで怖気づいてんじゃねえだろうな」
 西門さんの声にハッとする。
「そんなこと、最初からわかってたことだ。俺も自分の家のことは否定しない。だけど―――俺は俺に出来る精一杯の方法で牧野を守ってみせる」
「西門さん―――」
「今更―――てかこの先も、お前を離すつもりはねえから。だからお前も、ちゃんと俺についてこいよ」
 強気な―――それでいてちょっと甘えるようなその視線に、あたしは少しほっとして、肩をすくめた。
「そんなこと、あたしだってわかってる。西門さんのお母さんはちょっと怖いけど―――」
「おい」
「でも、ああいう家の人だったら仕方ないのかなって思う部分もあるし。あたしが人のいいなりになるような人間じゃないから喧嘩することもあるかもしれないけど、大丈夫。高校生のときみたいな無茶はしないつもりだし、それなりに丸くなったつもりだから」
「―――それで丸くなったのか」
「何よ」
「いや」

 あたしたちのやり取りを見て、類がくすくすと楽しそうに笑う。
 それを見て―――
「でも―――確かに、あの家にもし入った時、類が傍にいてくれたら安心かも」
「おい!」
「だって―――」
 恋愛感情とかなしにしても、やっぱり花沢類がいてくれると思っただけですごく安心できるのだ。
 この人の持つ、独特な空気が好き。
 いつでもあたしを守ってくれるその笑顔が好き。
 類は、あたしの一部だから―――。
「牧野がそう思うなら、俺はそばにいるよ。一緒に暮らすことはできなくても、牧野が会いたいと思った時には必ず行くから」
「類・・・・・」
「―――で、お前はいつまでこの部屋にいるわけ」
 西門さんの顔が引きつっているのにはわけがあって。

 ここは西門さんの部屋で、時間はもう夜中の12時を回ってる。

 部屋の中央に置かれたソファーにあたしと西門さんが並んで座り、向かい側のシングルソファーに類が座っていた。

 夕食の後、ここにお酒を持ち込んで3人で話し込んでいたのだけれど。
「んー?面倒くさいから、このままここで寝ようかと思って」
 にっこりと、悪びれもせずそう言う類は、絶対わざと西門さんを困らせようとしてるんだと思うけど―――。
「ふざけんなよ、早く自分の部屋行けって」
「なんだよ、ケチ。牧野を1人占めしたいからって」
「あたりまえだろ、牧野と付き合ってんのは俺だぞ」 
「たまには俺にも貸してよ、牧野」
「類、てめえ・・・・・」
「あたしはものじゃないんだけど」
「お前も、そういう問題じゃねえだろ」
「そう?」

 類の乗りに、便乗してしまった感もあって。

 気づけば西門さんの額に、ぴくぴくと震える青筋が―――

 「早く出てけ―――!」

 ついに爆発した西門さんから逃げるように、類は部屋から出て行ったのだった。
「お休み牧野。明日、寝坊しないようにね」
 という言葉と、魅惑の笑みを残して―――


 「たく―――」
 ようやく落ち着いた西門さんが、再びソファーに身を沈めながらため息をついた。
「からかって遊んでるだけだよ。類、すごい楽しそうだもん」
「わかってるよ。だからむかつくんだ。昔はあんな風に楽しそうに笑うことだってなかったのに―――まったくお前は偉大だよ」
「何拗ねてんの」
「褒めてんだろ。けど、そこまでにしとけよ。お前の一部でもなんでも、それ以上お前に接近されると困る」

 それでも、あたしと類の関係をちゃんと認めてくれてるんだと思うと、嬉しくて。

 あたしは西門さんの肩に頭を乗せた。

 西門さんの腕があたしの肩を抱き、自然に唇を重ねる。

 2人を包む空気が、甘くなりかけた時―――

 机の上に置いてあった西門さんの携帯が、着信を告げた。
「―――んだよ、こんな時間に―――」

 どうせあきらだとか何とか言いながら、携帯を取りに行って。

 それを見た瞬間、西門さんの動きが止まった。

 「―――?どうしたの?」
 あたしの問いかけにもしばらく黙ったままで。

 あたしはソファーから立ちあがると、西門さんのそばへ行った。
「西門さん?」
「―――兄貴だ」
「え?」
「メール・・・・・兄貴からだ。俺に会いたいって―――」

 戸惑ったような、怒ったようなその表情は、今まであたしが見たことのないものだった・・・・・。





  

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