夜になり、みんなでいつも集まるバーへと向かう。
先に来ていた美作さんが手を振ってあたしたちに合図した。
「道明寺は?」
あたしの言葉に、美作さんが肩をすくめる。
「まだ。取引先との会合にちょっと手間取ってるらしい。もうすぐ終わるとは言ってたけど・・・・・」
「そっか。忙しそうだね」
そんなときにあたしたちと飲んだりしてて大丈夫なんだろうかと心配になるけれど。
「普段、仕事の相手とばっかり会ってるだろうからな。たまには友達同士で飲みたいって思うんじゃねえの」
美作さんの言葉に、それもそうかと納得する。
「で、どうするの?司が来るまで待つ?」
類の言葉に、美作さんが首を振った。
「いや、先に飲んでろって。何時になるかわかんねえし。適当に飲んでようぜ」
そうして4人で飲み始め―――
1時間経つころには大分盛り上がってきていた。
「司のやつおせえなー。本当に来れるのかよ」
西門さんが呆れたように言う。
「どうかな。今日来れなかったら、どうなるの?明日には行っちゃうんでしょ?」
「ああ、朝一って言ってたし、そうしたらまた当分会えなくなんだろうな」
「そっか・・・・・久しぶりに会えたのにね」
その言葉に、西門さんがじろりとあたしを睨む。
「―――お前、もしかして寂しいの?」
「そりゃ―――西門さんは寂しくないの?親友でしょ?」
「俺はな。けどお前は違うだろ?司とは―――」
「変に勘ぐらないでよ。あたしだって友達として言ってるの」
ちょっとムッとしてそう言えば。
「おい、そこもめんなよ」
前の席に座っていた美作さんが、ずいっと乗り出してあたしたちを睨む。
「別に、もめてねえし」
「ふてくされんなって。牧野と司が付き合ってたのは事実だし、俺らとは違う絆があったってしょうがねえだろうが」
「ふてくされてねえ。―――てか、俺らとは違う絆ってなんだよ。何が違うっつーんだよ」
「つっかかんなって。そりゃ、単なる友達とモトカレとじゃ違うだろうが。そんでも司は滋との婚約が決まってるんだし、お前らだってうまくいってるんだから別に心配する必要ねえだろ」
その言葉に、西門さんはむっと顔をしかめたまま顔をそむけた。
それを見ていた類が、くすくすと笑う。
「総二郎と司は、似てるところあるから。強引なところとか。だから、心配なんじゃないの?」
その言葉に、西門さんはますます眉間の皺を深くする。
「失礼なこと言うな。あんな単細胞と似てるわけねえだろ」
「そう?」
「あーでもそう言えば似てるとこあるかも」
あたしが言うと、西門さんはいよいよむっとしたようにあたしを睨む。
「お前な―!」
「ほら、そうやってすぐ怒るところとか。道明寺の方が単純だけど、怒るタイミングっていうか、そう言うところが似てる気がする」
「だろ?」
「うん」
おかしくなって、類とくすくす笑い合うと、西門さんはまた額に青筋を浮かべる。
「いい加減にしろよ、お前ら。そうやって2人の空気を作るんじゃねえっつってんの」
「作ってないし。いちいち怒んないでよ。あたしちょっと―――」
そう言って席を立ちかけると、その手を西門さんが掴む。
「どこ行くんだよ?」
「―――ト・イ・レ!」
化粧室へ行き、自分の顔を鏡で見る。
「―――あ、結構赤い」
酔っているという自覚はあまりないんだけれど、こうして改めて見るとお酒を飲んでるということがすぐ分かるほどに赤くなっていて、びっくりする。
―――そう言えば、ちょっと足元もふわふわする感じがする。
そんなに弱くはない方だけど。
ちょっとピッチが速かったかも、と反省する。
もうすぐ道明寺も来るころだろうし、少し控えなきゃ。
そんなことを考えながら化粧室を出て。
「よお」
出たところで、目の前に突然現れた道明寺に、一瞬呆気に取られる。
「何ぼーっとしてんだよ。今日会ったばっかりなのにもう俺の顔忘れたのか?」
そう言って顔を覗きこまれ、はっと我に返る。
「あ―――あんたが突然現れるからびっくりしたんでしょうが!いつ来たの?」
「今、だよ。悪かったな、遅くなって」
「そんなこといいけど―――仕事は、大丈夫なの?」
「ああ、もうすんだよ。意外と手間取っちまった。すぐ終わると思ってたんだがな。こういうところがまだまだだってばばあにも言われてるんだよ」
「はは・・・・・」
あの魔女のことを思い出すと、いまだに身震いがしてしまうのはどうしようもなかった。
「まあ仕事のことはいいんだよ、せっかく久しぶりに会えたのに、そんなつまんねえ話はしたくねえ」
そう言って道明寺は肩をすくめた。
「滋が―――ずっとお前のこと気にしてて」
「滋さんが―――」
「俺のことは好きだけど、お前のことの方がもっと好きなんだって、あいつどうどうと言いやがって」
おもしろくなさそうにそう言って顔を顰める道明寺が、なんだかすごく意外で。
すごく、新鮮で。
あたしは、思わず噴き出した。
「おい、なんだよ―――」
「だって―――良かったと思って。あんた、すごく滋さんのことが好きなんだ」
その言葉に、道明寺の顔がパーッと赤くなる。
「う―――うるせえよ!お前が言うな!」
「あはは、超真っ赤。なんかかわいいよ」
「お前―――っ!」
照れ隠しのようにあたしの首にがっと腕を回す道明寺。
でも全然苦しくない。
それもまたおかしくて。
「あっはは、あんた優しくなったねー」
「お前なー、酔っ払ってんだろ?」
真っ赤になって照れる道明寺。
酔ってる?
そうかもしれない。
でもなんだか嬉しくって。
笑いがこみあげてきちゃうんだもん。
「おい、トイレの前で何いちゃついてんだよ」
怒気を含んだ低い声に、はっとして道明寺から離れる。
そこにいたのは、もちろん西門さん。
「おい、総二郎、これくらいで怒んなよ」
「なかなかトイレから戻ってこねえから心配して来てみれば―――いい加減離れろっつーんだよっ!」
そう言ってあたしと道明寺の体を引き剥がすように間に入る西門さん。
道明寺は両手を上げると、さっさとあたしから離れた。
「少し話してただけだって。じゃ、俺先に行ってるからな」
苦笑しながら行ってしまう道明寺の後姿を見送って。
「―――お前も、学習しねえ奴だな」
むっとした顔であたしを見下ろす西門さん。
「て―――本当にただ話してただけだよ」
「そんな風には見えなかったぜ。密着して―――バカップルがいちゃついてるようにしか見えねえ」
「バカップルって―――その片方はあんたの彼女なんですけど?」
「ああ、残念なことにな」
「なによ残念って」
「そのまんまの意味だよ」
「―――あっそ!わかったわよ、もうあたし帰る!」
これこそ、酔った勢いというやつだ。
無性に腹が立って、あたしは西門さんから離れると、そのまま歩いていこうとして―――
「待てよ!」
西門さんの手首を掴まれ―――
そのまま、抱きしめられた。
「ちょっと―――」
「少しは、俺の気持ちもわかれよ」
「え―――」
「司は、お前のモトカレだろ?気にならねえわけねえじゃん。今は友達だって言われたって―――気になるもんは気になる、しょうがねえだろ」
「何―――開き直ってんの」
「―――酒のせいだ、勘弁しろ」
その偉そうな言い方に、思わず噴き出す。
見上げれば、ちょっとバツが悪そうにあたしを見下ろす西門さん。
「―――許してあげてもいいよ」
そう言って笑うあたしを困ったように見つめて。
「―――だから、お前に酒飲ませたくなかったんだ」
「なんで?」
首を傾げるあたしを、今度はふわりと抱きしめて。
「―――今すぐ、抱きたくなるから」
「―――馬鹿」
しばらくここがどこかということも忘れて抱き合っていて―――
お店の客が、トイレに行けずに困っていたということを知ったのは、店を出てからのことだった―――。
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