***もっと酔わせて vol.16 〜総つく〜***



 
 -tsukushi-

 「最初は、酔った勢いだったって聞いて心配したぜ」

 そう言って道明寺があたしと西門さんを交互に見た。
「誰に聞いたんだよ、そんなこと」
 西門さんが言えば、道明寺は肩をすくめて言った。
「あきらに決まってるだろ」
 その言葉に、美作さんもにやりと笑う。
「一応、司には報告しとかねえとな」
「んだよ・・・・・酔った勢いまで言わなくてもいいだろ」
「事実だろ?けどちゃんとフォローはしといたぜ」
「どんなふうに?」
 なんとなく、心配になってあたしが聞くと、なぜか美作さんは目をそらす。
「ちょっと、美作さん―――」
「あの映像、メールで送ったんだよ」
 そう言って、にっこりと笑ったのは類だ。
「あの映像って―――」
 まさか―――
「もちろん、牧野が酔って俺に総二郎のことを愛してるって―――」

 ガタン!!

 思わず音を立てて立ち上がってしまい、レストランの中にいた客たちにじろりと睨まれてしまい慌てて再び座る。

 「なんで―――!!」
 あたしが睨みつけても、類と美作さんは平然としていて。
「今のお前たちの状況伝えるのに、ちょうどいいだろ?」
「牧野の正直な気持ちが、ちゃんと伝わるしね」
「だ、だからって―――」
「ああ、それから」
 あたしの言葉を、美作さんの声が遮る。
「あんときの映像も、撮っといた」
「あんときって―――」
 いやな予感がした。
「翌日の、お前と総二郎の会話。『愛してるって、言ってくれ―――』ってやつ」
 その言葉に、今度は西門さんがガタンと席を立ち、周りの冷たい視線に気づき、また慌てて席に着く。
「あきら、てめえ―――!」
「おかげで2人の本心がちゃんと司に伝わっただろうが。感謝しろよ」
 しれっと、余裕の表情でそう言う美作さんに。

 あたしと西門さんは何も言えず、ただ恨めしく視線を送るしかなかった・・・・・。

 「―――ずっと、気にはしてた。お前がどうしてるのかって。けど、きっと類とくっつくんだと思ってたんだがな。まさか総二郎が相手だとは―――。さすがに知った時は驚いたぜ」
 道明寺の言葉に、あたしは思わず赤くなる。
「―――おれと牧野の繋がりは、恋愛感情とは別物だから。もっと―――神聖なものだよ」
 と、類が言いだすのに西門さんがじろりと睨む。
「なんだよ、神聖なものって」
「誰にも踏み込めないってこと。恋人じゃないから、牧野が誰と付き合っても別れても、関係ない。俺は牧野とずっと一緒だよ」
 そう言ってにっこりと微笑む類。
 穏やかな瞳に見つめられて、その独特の空気に包まれる。
「―――おれの目の前で2人だけの空気作ってんじゃねえよ」
 西門さんが血管をぴくぴくさせながらあたしたちを睨む。
「誰と付き合っても別れてもって―――勝手なこと言ってんじゃねえぞ。俺たちは別れねえよ」
「例えばの話だよ。でも、そう言っといたら司も安心でしょ。いつでも俺が傍にいるって」
 類の言葉に、道明寺が半ば呆れたように肩をすくめた。
「まあな。俺はそうだけど―――総二郎、同情するぜ」
「うるせー。お前に言われるとなんかむかつく」
 西門さんがふんとそっぽを向いて。

 その光景を、美作さんがくすくす笑いながら楽しそうに眺めてる。

 きっと西門さんだってわかってる。

 美作さんも類も、本当にあたしたちのことを心配してくれてたんだって。

 茶化してはいるけれど、美作さんがいてくれなかったら、道明寺とだってこんな風に穏やかに話せていなかったかもしれないって、思うから。

 たぶん類も。

 こないだ美作さんが言ってたことも本当かもしれないって思った。

 類がいつでもそばにいると思ったら、西門さんも浮気なんかできないって―――そんなことを考えてくれているのかもしれないって、思った。

 「で、今夜なんだけど、みんなで飲みに行こうぜ」
 道明寺の言葉に、あたしが答える。
「どこに?」
「お前らがいつも飲んでるとこでいいよ。考えてみたら、牧野と一緒に酒飲んだことなんかねえからな。今夜は牧野が酔っ払うとこが見てみてえ」
 にやりと笑ってあたしを見るから、なんだか恥ずかしくなる。
「やめてよ、別にいつも酔っ払うほど飲んでるわけじゃないんだから」
「俺がそんなに飲ませねえよ」
 そう言って西門さんが料理を口に運ぶ。
「牧野が酔っ払ったら、即効連れて帰る」
 なぜかむっと顔をしかめてる西門さん。
 それを見て、類がくすくす笑ってる。

 ―――あ、もしかして―――

 ふと、思い当たるのは先日の光景。

 酔っ払って、類にくっついてたこと、怒ってたから―――

 「ふ〜ん。お前がそんなに束縛する男だってのは知らなかったぜ。牧野、類にしといた方がよかったんじゃねえの」
 道明寺の言葉に、西門さんの眉がピクリとつりあがる。
「ま、そう言うなって。大体牧野って昔っからMっ気あるからな。司といい総二郎といい・・・・・」
「おい、なんでそこで俺が出てくんだよ」
「普通の女じゃお前に太刀打ちできねえだろうが」
 美作さんと道明寺の掛け合いに、西門さんが諦めたような溜息をつき。

 類は、そんな光景を見ながらあたしをちらりと見て微笑んだ。

 くすぐったいくらいの気持ちが伝わってきて、嬉しくなる。

 きっと、これから何があっても大丈夫だよって、言われてるみたいだった・・・・・。





  

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