-tsukushi-
「あのときは―――あたしも、限界だったし」
あたしの言葉に、道明寺は穏やかに笑った。
「だろうな。お互い、余裕がなかったって思うぜ。俺も必死だった。いろんなことに―――。あのとき、もしやり直してても・・・・・きっと元には戻れなかったんだろうなって、今は思うよ」
その言葉に、あたしはちょっと意外な思いで道明寺を見つめた。
『やり直そう』
『俺にはお前が必要だ』
あの令嬢との婚約破棄のあとそう言われて。
あたしはテレビ電話に映る道明寺を見つめながら、首を横に振った。
『戻れないよ。もう、あたしたちは別の道を進み始めてる』
そのあたしの言葉に、道明寺は悔しそうに顔を歪めた。
『なんでこんなことになっちまったんだ―――!』
その言葉にも、あたしは答えることはできなかった。
誰のせいでもない。
きっと、いつかこうなる運命だったと、そう思うしかなかった。
そして今、あたしは西門さんと付き合ってる。
それもまた、運命なのか・・・・・。
「総二郎とは、うまくいってるのか」
道明寺の言葉に、あたしは小さく頷いた。
「ん・・・・・。いろいろ、まだあると思うけど・・・・・でも、あたしは雑草だからね。大丈夫」
「そうか・・・・・。ならよかった」
道明寺が、あたしを見つめる。
その瞳には、以前のような熱さはなかったけれど、代わりに穏やかで、包み込むような暖かさがあるような気がした。
「道明寺―――何か、言いたいことがあるんじゃないの?」
あたしの言葉に、道明寺が一瞬目を見開く。
「―――何だよ、俺はただお前にあの時のことを謝ろうと―――」
「だけじゃ、ないでしょ?他にも何か―――あるんじゃないの?」
その言葉に軽くため息をつき、その大きな掌で口元をおさえる。
その顔は微かに赤くて。
何となく―――ピンと来るものがあった。
「―――お前に、一番に報告したかったんだ」
「・・・・・何を?」
「今・・・・・俺は、滋と付き合ってる」
その言葉に、あたしは思わずガタンと椅子を鳴らし、その場に立ちあがった。
その音にぎょっとする道明寺。
「おい―――」
「ホント!?」
「―――ああ」
今度は真っ赤になって視線をそらす。
「来月には―――婚約発表することになってる」
その表情からもわかる。
2人がとてもうまくいってるってことが。
嬉しくて。
今までのことが走馬灯のように頭に思い浮かんでは消えて行った。
―――滋さん!
「―――よかった」
思わず、涙腺が緩む。
滋さんの思いは知ってる。
ずっと道明寺のことを思いながらも、あたしを応援してくれてた優しい人。
―――よかった。本当に良かった。
心から、そう思うことができた。
「泣くなよ」
相変わらず照れたような赤い顔であたしを見る道明寺。
「だって、うれしくて・・・・・。本当に良かった。おめでとう・・・・・」
「・・・・・あいつも喜ぶよ。ずっと、お前のこと気にしてたから」
ふっと優しく微笑む道明寺。
どこか落ち着いたように感じられたのは、滋さんのせいだったんだ・・・・・。
「おい、どうした!?」
バタバタと、西門さんが走ってやってくる。
あたしの涙を見て、道明寺を睨みつける。
「司てめえ!牧野に何した!?」
いまにも殴りかかりそうな勢いに、道明寺もぎょっとして身を引く。
「何もしてねえよ!」
「だって―――」
「やめてよ西門さん、道明寺のせいじゃないんだから」
慌てて西門さんの腕を引っ張ると、戸惑ったような、すねたような瞳があたしを見る。
「―――どういうことだよ?」
「それはあとで話すから―――。それより、この後どうするの?」
あたしの言葉に、あとからやってきた美作さんが片手をあげる。
「昼飯、食いに行こうぜ。店予約しといたから」
さすが。
というわけで、あたしたち5人は、大学を出たのだった・・・・・。
|