***もっと酔わせて vol.14 〜総つく〜***



 
 -tsukushi-

 道明寺と別れるとき、何も悩まなかったわけじゃないけれど。

 そうなるんじゃないかっていう予感みたいなものはあった。

 もう、夢中で恋してたあの頃には戻れないって。

 『やり直そう』

 そんな道明寺の言葉に。

 あたしは、首を縦に振ることができなかった―――。


 「このマンションの存在はもう知られてるだろうね」
 類の言葉に、西門さんも頷いた。
「だろうな。そのくらいは簡単に調べられるだろ。隠してるわけでもねえし。別に、司に会いたくないわけでもねえ。久しぶりだし、ただ会いに来るって言うんならこっちだって嬉しいけどな」
 その言葉に、美作さんも頷く。
「だな。目的がわかんねえとこが不気味だ。牧野と別れてからっつーものほとんど連絡寄越してなかったからな、あいつ」

 道明寺が帰ってくる。

 幼馴染として久しぶりに会えるのはうれしいのに、それを素直に喜べない。

 そんな複雑な気持ちが手に取るようだった。

 道明寺からは、あのメール以降何もないようだった。
 こっちからメールしてみても返事は来ないようで。
「忙しいんだろ」
 そう美作さんは言っていたけれど。  

 何となく不気味にも感じる沈黙が続き、誰もがその存在を気にしながらも口には出さなくなっていた。

 そしてその日。

 朝から西門さんはあたしのそばを離れようとしなくて。
「そんなにいつもくっついてなくても平気だよ」
 呆れて言うあたしの言葉にも、
「あいつのことだからな。隙を狙ってお前のことかっさらって行きかねない」
 なんて言うから、あたしもぎょっとする。
「まさか!そこまでしないでしょ?そのつもりなら最初からメールなんて送ってこないって」
「だといいけどな。とにかく、今日はずっとお前にくっついてるからそのつもりで諦めてろ」
「もう・・・・・」

 もはやもう何も言う気にはなれず。

 あたしは身支度を終えるとようやく起きだしてきた類をそのまま残し、マンションを出た。
「類って、あれで単位足りてるのかな。午前中に大学出てること、ほとんどない気がする」
 あたしの言葉に、西門さんが軽く笑った。
「大丈夫だよ、あいつは。大学のことより、将来のが心配だろ、花沢の」
「言えてる」
 そうして話しながら、大学に向かう。

 そして。

 その時は、あっけなくやってきたのだ。

 「よお、久しぶりだな」
 大学のカフェテリアで、美作さんと一緒にコーヒーを飲みながら寛いでいたその男は。

 まぎれもなく、道明寺司その人だった・・・・・。


 「来るっつっただろうが」
 道明寺の言葉に、あたしと西門さんは顔を見合わせた。
「そりゃ・・・・・でも、帰国するってことしか言ってなかったし、いつ、どこにって―――」
「ああ、そういや言ってなかったな。忙しかったんだよ、お前らのメールにも気づいてたけど、返事する暇もなくってよ。直接来ちまった方が早いと思ったんだよ」

 なんてことのない、道明寺の言葉。

 さんざん心配していたのに、この肩透かしはなんだろうと、西門さんも微妙な表情をしていた。

 「―――何となく、来づらかったのかもしれねえな」
 道明寺の口から飛び出した、らしくない言葉にあたしたちは一様に驚きを隠せなかった。
 ちなみに、あとから来た類も同じテーブルに着き、コーヒーを飲んでいるところだった。
「なんだよ、んな顔するなよ。俺だってそのくらいの神経は持ち合わせてる。別れた女にまた簡単に会いに来るほどテレパシーなくねえんだよ」
「―――デリカシーだろ」
 美作さんの訂正に、微かに頬を染め。
「と、とにかく、せっかくこうして幼馴染の俺が会いに来てやったんだから、少しは歓迎しろっつーんだよっ」
 そして相変わらずな俺様ぶりに。

 ぷっと、類が噴き出した。
「そういうとこ、相変わらずだね。変わってなくて嬉しいけど・・・・・。いつまでいられるの?」
「今日いっぱいはいられる。明日の朝一番で香港に発つんだ」
「じゃあ、どっか行くか?ここじゃ落ち着かねえだろ」
 と、美作さん。

 確かに、さっきから学生が遠巻きに眺めていて、こうして話していても落ち着かない。

 道明寺はその学生たちをぎろりとひと睨みして。

 さーっと散って行った学生たちを見て肩をすくめると、あたしを見た。

 「―――どっか行く前に、ちょっと牧野と話しさせてくれねえか」
 その言葉に。
 あたしと西門さんは顔を見合わせた。
「心配しなくても、今更牧野をかっさらったりしねえよ。少し、話がしたいだけだ」
 にやりと笑ってそう言う道明寺の表情は、以前の道明寺と何も変わりなくて。

 西門さんはひょいと肩をすくめると、あたしの肩をちょっと押した。
「―――わかった。俺らは外にいるから―――話が終わったら来いよ」
 その言葉に、類と美作さんも席を立つ。

 そうして3人が行ってしまうと、あたしは少し戸惑いながらも道明寺の向かい側の席に座った。

 「―――久しぶり」
 なんて言っていいかわからない。
 道明寺は、あたしの顔を見てふっと微笑んだ。
「そんなに警戒すんな。取って食いやしねえよ」
「―――あんたの場合、本当に取って食われそうだから」
「お前に言われたかねえよ」
「何よそれ」
 2人して睨みあい―――

 一瞬の後、同時に噴き出す。

 「―――悪かったな、あのときは」

 道明寺の言葉に。

 あたしは1年前のことを思い出していた―――。





  

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