「いいじゃねえか、会えば。ったく、泣きそうな顔で飛び込んでくるからまた痴話げんかでもしたんかと思ったら」
そう言って呆れたように溜息をつく美作さん。
「だって!いきなりそんなこと―――」
「けど、当然考えられることなんじゃないの?同棲するってなった時点で、総二郎のことだからそれくらいのことは考えてたでしょ」
横にいた類が静かにそう言うのに、あたしはぎくりとする。
「それくらいのことって―――」
「結婚のこと」
その言葉に、一瞬眩暈がした。
「でも―――まだ大学生だし―――」
「おれらの世界では、学生時代から婚約してたりなんていうのはざらだ。特に総二郎のとこは―――たぶん見合いの話なんかはうんざりするほど来てるはずだ」
美作さんの言葉に、どきんとする。
「お見合い―――?」
「ああ。もちろんあのおふくろさんが逐一チェックして、候補者を容赦なく切り捨ててると思うけどな」
ごくりと、唾を飲み込む。
いつか西門さんの家で見た、冷たく厳しそうに見えた西門さんのお母さん。
雰囲気が、道明寺の母親と似ていて、思わず緊張してしまったのを思い出す。
あの頃のことを思い出して―――
気づけば拳をぎゅっと握りしめていた。
「―――あたし、自信ない」
呟いた言葉に、美作さんと類は顔を見合わせた。
「―――今日は、総二郎は?」
「日曜日にお茶会があるから、その打ち合わせだって・・・・・」
「お茶会?ふーん、じゃ、そこでお前を紹介しようってことか」
美作さんの言葉に、ぎくりとして―――
いよいよあたしは焦り始めた。
「ねえ、どうしよう、あたし全然自信ないんだけど。2人とも、一緒に来てよ」
「馬鹿言うなよ」
「いくら牧野の頼みでも、それは無理でしょ。大丈夫だよ、総二郎がついてるんだから」
類の、天使のような微笑みが、この時ばかりは恨めしく思えた・・・・・。
西門さんが好き。
それはもちろん本心だけれども。
でも彼の背景の、お茶の世界のことだとか、家族のことだとか。
話に聞くことはあっても、それは自分とはまったく違う世界の出来事であって。
その中に自分が入って暮らすことがあるなんて、想像したこともなかったのに―――
「そんな重く考える必要ねえんだって」
その日の夜、マンションに帰ってきた西門さんの部屋で。
あたしは自分の中の戸惑いを話していた。
素直に、正直に。
西門さんが、あたしのことを真剣に思ってくれていることを感じていたから。
変な誤解をして、離れ離れになるのは嫌だった・・・・・。
「そう言われたって、やっぱり考えるよ。あたしは、お茶の世界のこと何も知らないんだから」
そう言うあたしの手をとり、西門さんはベッドに座りその隣にあたしを引き寄せた。
「―――それは、俺とのことを真剣に考えてくれてるってことだろ?」
「―――うん」
「なら、それでいい。それだけでいいよ。あとの面倒くさいことは全部おれに任せていいから」
「でも―――」
「おれが、お前と一緒にいたいと思ってるんだ。何を言われたって、そこだけは譲らない。だから、お前も同じ気持ちでいてくれるなら―――あとは俺に任せときゃあいいから」
「すごい説得力あるんだけど―――。でも、本当にそれでいいの?あたし、何もしなくて―――」
「とりあえずは、な。お前とお袋をそういう形で会わせるのは初めてだし、正直言って俺もどうなるか想像つかねえとこあるから。けど、会わせる前からいろいろ心配ばっかりしてたってしょうがねえだろ?要は、俺たちの気持ちがぶれなきゃいいんだよ。そうすりゃあ―――何とかなる」
にやりと笑う西門さんに。
―――知らなかった。
―――西門さんって、案外ポジティブな人だったんだ―――
だから。
あたしは、何があってもこの人についていこうって、その時決心した―――。
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