***X'mas Panic!! vol.8***



 -akira-
 「しかしはえーなあ、もう12月だぜ。今年もあと1ヶ月だ」
 いつものように牧野と総二郎をリモに乗せ、俺の家へ向かう。
「ああ。牧野、あれ、間に合うのかよ?まだマフラーの方手ぇつけてねえだろ」
 総二郎が牧野に言うと、牧野はうっと困ったような顔をしてうつむいた。
「だ、大丈夫・・・・マフラーならあたしも作った事あるし・・・・・・後24日、あるもん!」
「ほんとかあ?最後はあきらに編んでもらったりすんじゃねえの?」
「や、やめてよ、そういうこと言うの!ちゃんと自分でやるってば!」
 牧野の慌てる様子がおかしくて思わず噴出すと、今度は頬をぷくっと膨らませて怒っている。
「もう、美作さん、笑わないでよ!」
「わりいわりい、俺は手伝ってやってもいいんだぜ?俺と牧野の共同作業のプレゼントなんてのもいいんじゃねえ?」
「ダメ!そんなこと類に言えないもん!」
 途端に青くなる牧野。
 本当にこいつといると退屈しない。
 俺と総二郎で大笑いしていると、突然車が急ブレーキで止まった。
「きゃっ」
 後ろに座っていた牧野が前のめりに倒れこんでくるのを、俺と総二郎が慌てて受け止める。
「―――っと、大丈夫か?」
 総二郎が牧野の顔を覗き込む。
「う、うん、ありがと」
「おい、なんだよ急に?」
 俺が運転手に言うと、
「あ、あの・・・・道明寺様が・・・・・」
 と、戸惑ったような声。
「は?道明寺?」
 不思議に思って窓を開けてみると、対抗車線上に道明寺のリモ。そしてその横に立っているのは、司だった。
「司?お前、何してんの?」
「よ、わりいな」
 にやりと笑う司。
「司?どうしたんだよ?」
 総二郎も司の姿を確認して言う。
 久しぶりに見る親友の姿。
 それは別にいつもと変わりなく見えたのだが・・・・・
「牧野、ちょっといいか?渡したいものがある」
「え、あたし?」
 言われた牧野はちょっと驚いて、それでも素直にドアを開けて車の外へ出る。
 一旦ドアが閉められ、俺たちは窓から牧野が司のほうへ歩いていくのを見ていた。
 司は牧野を連れ、車の後方へ行く。
 俺たちから2人の姿が見えなくなった、その瞬間。

「あっ」
 短い牧野の声と、ドスンという鈍い衝撃音。

 何事かと窓から外を見てみれば・・・・・
 そこには、崩れるように倒れこむ牧野が。
「おい!!」
 思わず叫んだ俺。
 総二郎も慌てて外を見る。
 司は牧野を肩に担ぐと、いつの間にか運転手によって開けられたドアからリモに乗り込んだ。
「司!?」
「牧野!!」
 運転手が素早くドアを閉め、運転席に乗り込み車を発進させる。
 
 あっという間の出来事だった。
 俺たちが呆然としている間に、司のリモは猛スピードでその場を後にしていったのだ・・・・・。
 「―――おい!!」
「あ、ああ、おい、今のリモ追いかけろ!!」
 俺は慌てて運転手に命令したが、
「無、無理です!ここではUターンできません!!」
 という言葉に、舌打ちする。
「くそっ、やられた!」
「―――類は?会社か?」
「ああ。おい、花沢物産へやってくれ、急いで!!」
「は、はい!!」
 車が発進する。
「類に連絡する」
 そう言って総二郎が携帯を取り出した。
「ああ。・・・・・くそ、司のやつ・・・・・何考えてんだ・・・・・」

 完全に油断していた。
 まさか司があんなことをするとは・・・・・
 牧野をどうするつもりなのか・・・・・


 俺たちは花沢物産につくと、類のいる部屋へと通された。
「どういうこと?牧野が拉致られたって」
 俺たちの顔を見るなり、類が険しい表情で言った。
「司だよ。俺の家へ向かう途中に現れて・・・・。追いかけようとしたんだけど、無理だった。なあ、司がどこにいるか調べらんねえか」
「・・・・・・・・」
「あいつがこっちに来た目的・・・その、道明寺の取引先の相手ってのは、どういうやつなんだ?」
 総二郎が聞くと、類は難しい顔で首を振った。
「良く知らない。この間俺が話したこと以外、司も話さなかったし。ただ、気難しいってことと、親日家で、日本によく来るってこと以外は・・・・・」
「その取り引きと、牧野が関係あるってのか?」
 と、俺が聞くと、総二郎は肩をすくめた。
「それはわかんねえけど。とにかく心当たりをしらみつぶしに調べていくしかねえだろ」
 その総二郎の言葉に、俺と類も頷く。
「類、お前その取引先がどこなのか調べてくれ。俺は道明寺の持ってる別荘とかを調べる。総二郎は・・・・」
「俺は、車出すよ。とにかく思いつくとこ全部、行ってみるしかねえ。何かわかったら携帯に知らせてくれ」
「ああ」
「O.K.じゃあな」
 俺たち3人はそこで別れると、司と牧野の行方を探す為、行動に移ったのだった・・・・・。


 -tsukushi-
 「ん・・・・・・・」
 あたしは、まどろみの中、ゆっくりと目を開いた。
 高い天井が見える。
 ここはどこだろう・・・・・・
 花沢の家でも、実家のぼろアパートでもない・・・・・・・
 ぼんやりと天井を見上げていると・・・・・
「気がついたか?」
 聞き覚えのある低く響く声に、思わずがばっと身を起こす。
「よお」
 そう言って、にやりと笑ったのは、なぜかパーティー用の黒いスーツを着込んだ道明寺だった・・・・・。






  

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