***X'mas Panic!! vol.7***



 -tsukushi-
 「お、帰ったか」
 あたしと類が帰ると、リビングでコーヒーを飲む道明寺がいた。
「どうしたの?今日は」
 あたしが聞くと、道明寺はうーんと伸びをすると頭をぼりぼりとかきながら口を開いた。
「いや、ちょっと予定変更。今日は名古屋の予定だったんだけど・・・・先方が急用で香港に行っちまって。追っかけていこうかとも思ったんだけど、明日には戻るって言うし。それなら無理に動かずに明日出直そうってことになった」
「じゃあ、明日はまた早いの?」
「ああ。帰りはいつになるかわかんねえなあ」
「大変だね」
「ま、しょうがねえな。おめえら、もう飯食ったの?」
 道明寺があたしたちを見て言う。
「いや、これからだよ」
 と、類が答える。
「じゃ、一緒に食おうぜ。しかしここに来て、一緒に飯食うのも初めてだな」
「そうだね。道明寺、忙しいから・・・・ご飯、ちゃんと食べてるの?」
 つい心配になって聞くと、道明寺は嬉しそうにあたしを見て微笑んだ。
 その笑顔に、一瞬胸が高鳴る。
 昔の、道明寺と同じ笑顔だった・・・・・。
「食ってるよ。健康管理も仕事のうちだからな。その辺は周りが気ィ使ってくれてる。おれ自身は一旦仕事始めちまうと時間忘れちまうから」

 そのとき、部屋の扉が開き、家政婦の雪乃さんが顔を出した。
「失礼いたします。お食事の支度出来ましたけど・・・・こちらへ運びましょうか?」
「ああ、じゃあそうして」
 類がそう答えると、雪乃さんが「かしこまりました」と頭を下げて下がる。

 しばらくすると、3人分の食事が運ばれてきた。
 あたしと類が並んで座り、その向い側に道明寺が座る。
 道明寺がこの家に来てもう2週間も経つというのに、3人で食事をするのは今日が初めてだった。
「類の両親は、今どこら辺にいるんだ?」
 道明寺が食事をしながら類に聞く。
「たぶん、今頃はイタリアかな。先月はフランスにいるって言ってたけど・・・」
「相変わらず忙しそうだな。・・・・お前は、どうなんだ?」
「え?」
 類が少し首を傾げて道明寺を見る。
「大学卒業したら、花沢を継ぐんだろ?そうしたら、お前も海外に行かされることになるんじゃねえのか?」
 その言葉に、あたしの胸がどきんとなった。
「・・・・・かもね」
「何だよ、気のねえ言い方して。わかってるんだろうが。もちろん牧野も連れて行くんだろ?お前のことだから」
 そう道明寺が言うと、類は一度箸を止め、あたしのことを見た。
「・・・・うん。そうなったら、そうするつもりだよ。俺は、牧野と離れるつもりはないから」
 そう言って、優しく微笑む類。
 あたしはほっとして、類を見つめた。
「・・・・なんだよ、客の前で堂々と見つめ合ってんじゃねえよ」
 道明寺の呆れたような声に、あたしははっとして前を向いた。
「な、何言ってんのよ、お客さんはそんなにずうずうしくないっての」
 顔が熱くなるのを感じ、照れくさくて食事に集中する振りをする。
「ったく、ゆでだこみてえに赤くなりやがって・・・。そんな風に見せつけられるなら、ホテルにとまっときゃあ良かったぜ」
「・・・・・なんでそうしなかったの?」
 類が、道明寺をじっと見つめて言った。
「あん?」
「だからさ、ほとんど仕事でいないんだったら、ホテルに泊まっても同じだったでしょ?何でわざわざここに来たの?ホテルでも、あきらの家でも総二郎の家でもなく、俺と牧野がいるここへ来たのは、何で?」
「・・・・・・・・・・・・」
 類の言葉に、道明寺は食べるのを中断すると、じっと類のことを見つめた。
 2人の間に緊張感が走り・・・・あたしの胸が、またどきどきと鳴り始めた。
「・・・・別に、深い意味はねえよ。お前のとこは親もいねえし、いつ帰って来ても気ィ使う必要がないと思っただけだ」
 ふいと類から視線を外し、道明寺がそう言った。
 そしてまた、食事を再開する。
 そんな道明寺を類はしばらくじっと見ていたけど・・・・
 横であたしが類のことをじっと見ているのに気づくと、あたしに向かってちょっと笑って見せ、それから自分もまた食事を再開したのだった・・・・・。

 なんだったんだろう?今の・・・・。
 類は、道明寺がここに泊まるのを不思議に思ってたんだ・・・・・。 
 
 なんとなく微妙な雰囲気のまま、食事を終えた。

 「司、風呂は?」
 類が道明寺に聞く。
「ああ、お前らが帰ってくる前に入った」
「そう。じゃ、牧野・・・・」
「あ、あたしは後でいい。今お腹苦しくって」
 そう言ってお腹をさすって見せると、類はくすっと笑った頷いた。
「じゃ、俺先に入るよ」
「うん」
 類が行ってしまうと、なんとなく沈黙。

 ―――なんか、何話していいかわからない・・・。

 どうしようかと思っていると、道明寺が急にくっと笑い出した。
「な・・・・・」
「お前、何緊張してんの」
「!だ、だって・・・・・」
「・・・・うまくいってるみたいだな、類と」
 ふいに、優しい笑顔を見せる。
「あ・・・・・・うん、まあ」
「良かった。どうなってるのか心配してたんだぜ、これでも。類はああいう性格だし、お前も意地っ張りだしな。おまけにあきらと総二郎が割り込んでるんじゃ・・・・」
「え・・・・・道明寺、知ってたの?あの2人が・・・・・」
 あたしは驚いて道明寺を見た。
「お前に惚れてるってことか?ああ、知ってたよ。ずっと前からな。あの2人から聞いたのは、お前らがN.Y.に来たときだけどな」
「あ・・・・・・」
 そうか・・・・。あの時、あたしだけが先に桜子達と合流して・・・・・あの後4人で、何を話してたんだろうと思ってたけど・・・・そういうことだったんだ・・・・・。
「たぶん、気付いてなかったのはお前だけだろ。その鈍さは国宝級だよな」
 クックッとおかしそうに笑う道明寺に、ちょっと頭に来る。
「な、何よ・・・・っていうか、何であんたがそんなにこっちのことに詳しいの」
「いろいろ、情報が入ってくんだよ。俺はあえて聞かないようにしてんだけどよ。いつまでもお前に未練があるみたいでみっともねえし。でもお前のことだから・・・・やっぱり気になるしな」
 そう言って、今度はあたしの顔をじっと見つめてくるから・・・・・・
 また、あたしの心臓は落ち着かなくなる。
「あ、あの、いつまでこっちにいるの?」
 心臓を落ち着かせようと、あたしは話題を変えてみた。
「さあ。今やってることが落ち着いたら・・・・かな。クリスマス前までにはどうにかしようと思ってるんだけどな。どうなるか・・・・・」
「クリスマス・・・・・向こうに帰るの?」
「ああ。向こうでもやらなきゃいけないことがたくさんある。何とか年内に片付けたいと思ってるんだ」
「そっか・・・・・。なんか大変そうだけど・・・・体、壊さないように気をつけてね」
「心配してくれんのか?」
 そう言って、にやりと笑う道明寺。
 その笑みに、思わずドキッとする。
「べ、別に!あんたに何かあったら周りの人たちが大変だろうと思って・・・・・」
「ああ、そうだな。だから、俺が倒れるわけにはいかねえ。言っただろ?体調管理も仕事のうちだ。その辺はちゃんと気をつけてるよ」
「あ・・・・・・そう・・・・・・」
 なんだか、妙な感じだ。
 目の前にいるのは、間違いなくあの道明寺のはずなのに。
 ふとした瞬間に、まるで別人と話しているかのような錯覚を起こしてしまう。
 目の前の道明寺は確かに現実で、手を伸ばせば触れることだって出来るはず。
 なのに・・・・・
 まるで、TVの画面を見ているような・・・・・手を伸ばしても届かないような、そんな気がしてしまうほど・・・・あたしは、道明寺を遠くに感じていた。

 それはきっと、道明寺が成長したということなんだろうけど・・・・
 あたしの知ってる道明寺がどこかに行ってしまったような気がして、なんとなく寂しい気持ちになってしまっていた・・・・・。
「・・・・・どうした?」
 ふいに、道明寺があたしを見て言った。
「え・・・・・」
「なんかお前、泣きそうな顔してるぜ」
「!な、なんでもないよ・・・・あんたが意外にしっかりしたこと言うから、ちょっとびっくりしただけ」
 あたしは慌てて横を向いて言った。
「意外って何だよ。俺はいつだってしっかりしてる。・・・・・と、電話だ」
 携帯電話の着信音が聞こえ、道明寺が胸ポケットからそれを取り出した。
「わりい。じゃ、俺部屋に行くわ。たぶんそのまま寝ちまうと思うから、俺のことは気にしないでくれ」
「あ、うん、わかった・・・・・」
 あたしの答えを全部聞く前に、道明寺は携帯電話に出ながらリビングを出て行ってしまった・・・・・。

 「ほんと、忙しいんだ」
 そう言ってあたしは、息をついた。
「あれ、司は・・・・」
 タオルで頭を拭きながら、類が部屋に入ってきた。
「あ、なんか電話かかってきて、部屋に戻ったよ。そのまま寝ちゃうから、気にしないでいいって・・・・・」
「ふうん・・・・・」
「あたしもお風呂入っちゃうね」
 そう言ってあたしが立ち上がると、類があたしの腕を掴まえ、そのまま抱き寄せた。
「ちょ・・・・・、類?」
 ガウン越しに感じる、湯上りの火照った体にどきんとする。
「・・・・・・司に、ちょっとどきどきしてたでしょ?」
「な、何言って・・・・・」
「少し、顔が赤かった・・・・・。俺のいない間、何話してたの?」
「え・・・・こっちにいつまでいるのかとか、そんなこと・・・・」
「・・・・・何も、されてない?」
「あ、当たり前・・・!」
 驚いて顔を上げると、真剣な目をした類と目が合い、ドキッとする。
「・・・・・・類?」
「牧野のこと、疑ってるんじゃないよ。ただ・・・・・心配なだけ」
 そう言うと、類はあたしの頬に手を添え、優しいキスをした。
「・・・・・よそ見、しないでね」
 薄茶のビー玉のような瞳に、間近で見つめられる。
「しない・・・・よ。出来ない・・・・・・」
 その瞳に捕まってしまったら・・・・もう他なんて、目に入らない・・・・・。

 そしてあたしたちは、どちらからともなくまたキスをした。
 優しくて、甘い・・・・・
 そんなキスを何度も繰り返し、次第にあたしは、何にも考えられなくなっていった・・・・・。





  

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