***X'mas Panic!! vol.6***



-soujirou-
 「牧野、そこ違う」
「え、どこ?あ・・・・・」
「さっきと同じとこ。ほら、本のここ、よく見てみ」
「うん・・・・・・あ、わかった・・・・・こうだ」
「そうそれで・・・・・あー、ちがう、こっち」
 あきらの部屋で、あきらが牧野に編み物を教えている様子をじっと見ている俺。
 後ろからときどき手を添えながら、顔がくっつくんじゃないかというくらいの至近距離で仲良く編み物なんかしてる2人を見てると、なんだか自分が邪魔者のような気がしてくる・・・・・。

 ―――こいつら、毎日こんなことしてるのか・・・・。類が見たら青筋立てて怒りそうだぞ。

 「なあ、なんか食いもんねえの。腹減ったんだけど」
 と声をかけると、あきらがこちらを見もせずに
「勝手に食えよ。キッチンにいきゃあ何かあんだろ。冷蔵庫にお袋の作ったケーキもある」
 と答える。
 ケーキ、と聞いて牧野がピクリと反応する。
「あー、お前はここまで終わってから、ハーブティー入れてやっからもう少しやれ」
 牧野の心中を察したあきらが牧野が何か言う前に言うと、牧野が恥ずかしそうにちょっと頬を染め『別に』とか何とか、口の中でぶつぶつ言っている。
 そんな様子も、はたから見れば仲のいい恋人同士のようだった。
 なんだか馬鹿らしくならなくもなかったが、なんとなくいい雰囲気のこの2人を、このまま2人きりにするわけにはいかない様な気がした。

 30分ほどたったころ、あきらが時計を見て立ち上がった。
「じゃ、俺お茶入れてくるわ。ちょっと待っててくれ」
「うん、ありがと」
 牧野が笑って答える。手は休むことなく動いていた。
「・・・・・クリスマスまでに終わりそうなのか?」
 あきらが行ってしまってから聞くと、牧野は視線は編み物に向けたまま、頷いた。
「何とかね。美作さんがいなかったらきっと挫折してたな。男の人なのにこんなことが得意ってすごいよね。教え方もうまいし」
「・・・・・・あいつは、昔からこういうの好きだったから。にしてもお前ら、まるっきり恋人同士みたいだったぞ」
 と言ってやれば、牧野は顔を真っ赤にして照れ始めるから、余計に腹が立つ。
「な、何言ってんの」
「お前、赤くなりすぎ。類にちくるぞ、牧野が浮気してるって」
「げ、や、やめてよ!そんなんじゃないってば。た、たださ、あんなにきれいな顔間近に見ちゃうと、こっちが照れちゃうっていうか・・・・美作さんの顔まともに見れなくって困るのよ。その分こっちに集中できるから、いいんだけどさ」
 牧野の言葉に・・・・・こいつら、まじでやばいんじゃねえの?って気がしてくる。
 なんだかあきらに先越された感が沸きあがってきて、焦りにも似た感情が俺の中にくすぶり始める。
「司は、どうしてる?」
 話題を変えると、牧野は漸くちらりと俺のほうを見た。
「別に・・・・本当にほとんど帰ってこないから。昨日も、あたしたちが寝た後帰ってきたみたいだけど、朝起きた時にはもう出かけた後だったし。ほとんど顔合わせてないよ」
「ふーん・・・。いつまでいるつもりなんだ?」
「さあ・・・・・。その取り引きが、うまく行くまでじゃない?あたしには良くわからないけど。道明寺が必死に仕事してる姿って、なんだか違和感感じちゃって」
「なんだそりゃ。司が聞いたら怒るぞ」
「だってさ・・・・あたしが知ってる道明寺は馬鹿で乱暴で単純でわがままで・・・・・でも素直で真っ直ぐなところもあって。よく言えば純粋。悪く言えばいつまでも子供みたいな、そんな道明寺だもん」
 牧野の言葉に、思わず乾いた笑いが漏れる。
「はは・・・・・確かにな」
「新聞やTVで見る道明寺は、別人みたいで・・・・やっぱり別世界の人間だって思っちゃうんだよね」
 牧野は一瞬手を止め、遠くを見つめるような目をした。
 司と一緒にいたときのことを思い出してるんだろうか。
 少し切なさの滲んだその表情は、最近ではあまり見なくなった顔だった・・・・・。
「牧野・・・・・」
 俺の声に、牧野ははっとした表情になる。
「あ、ご、ごめん。なんか、やっぱり近くにいるといろいろ思い出しちゃって。なんだかすごく昔のことみたいな気もするし、つい昨日のことみたいな気もして・・・・・」
「・・・・・まだ、未練があったりするのか?」
「まさか」
 即答する牧野に、ほっとする。
「そうじゃないの。あれもあたしにとってはいい経験になったから・・・・辛いことが多かったけど、後悔はしてないよ。それに、あの頃があったから、あたしは今きっとこうしてみんなといられるんだと思うし。そういう意味で言ったら、魔女にも感謝してるかな」
 そう言って牧野は明るく笑った。
 その屈託のないいつもの笑顔に、俺の心も満たされていく。
 やっぱり好きだ・・・・・。
 そんな思いを、再確認する。

 ガチャリとドアが開き、ティーカップとケーキの乗ったトレーを持ってあきらが入ってきた。
「あ、ありがと、美作さん」
 そう言って牧野は編み途中の物をそこへ置くと、あきらの持ってるトレーからティーカップなどを取ってテーブルに並べた。
「ケーキ、おいしそう♪今日は何のケーキ?」
「紅茶のシフォンケーキだってさ。牧野がいつもおいしいって言ってくれるから、お袋も張り切って作ってるよ」
「毎日違うケーキ作ってんのか?」
「毎日ってこともないけど・・・牧野が来るときは、新しいケーキを作りたいんだとさ。いつも褒めてくれるから嬉しいんだって。うちは、俺が普段あんまり食べないし、妹たちは食べるけど、途中から遊ぶのに夢中になっちまうから」
「かわいいよね、妹さんたち」
 牧野が楽しそうに笑う。
「今日はいねえけど、家にいるときは一緒にティータイムにしてるんだよ。お袋も妹たちも牧野に会うの楽しみにしてるから」
「あたしも楽しいよ。編み物が終わったら、ママさんからケーキ作りを教えてもらう予定なの」
 牧野の言葉に、俺は口に持って行こうとしていたカップを持つ手をぴたりと止めた。
「ちょっと待てよ。じゃあ、この編み物が終わっても、まだここに来るつもり?」
「あのね、今みたいに週に4日とかじゃなくて、ママさんがいる日に合わせて週に1度くらい、来られればいいかなあと思ってるの。ね」
 最後のね。はあきらに向けて言った言葉。
 言われたあきらも微笑んで頷いたりしてる。
「・・・・・・なんか納得できねえ。それなら俺のとこにも来いよ」
 思わず言った言葉に、あきらは呆れ顔に、牧野も目をぱちくりさせている。
「行ってるじゃない、今も」
「それだけじゃなくて!あきらのとこに週2日通うなら、俺のとこも週2日。不公平だろうが、あきらばっかり」
「・・・・・ガキ」
「あきらうるさい」
「だって・・・・・・週に2日も行って、何するの」
 牧野の言葉に、俺はちょっと考え、すぐにあることを思いついてにやりと笑った。
「着付け」
「着付け?着物の?」
「当たり前だろ。それ以外何があるんだ。いいだろ?着物を着る機会だってこれからきっとあるし、着付けも出来た方が絶対これから役に立つぜ」
「そ、そうだけど・・・・それを週に1回?」
「そ。着物のこと、いろはから教えてやるよ。どう?」
「う、うん。やって見たい気もするけど・・・」
「ちょっと待てよ。それ、総二郎が教えんのか?」
 あきらが顔を顰めて言った。
「当たり前だろ」
「そっちの方が不公平じゃねえか。俺の場合は、1日はお袋のところへ来るんだぜ」
「あ、じゃあ、西門さんのお母様に習うとか」
 牧野の言葉に、俺は牧野の顔を見る。
「あ、だめか。お忙しいもんね。あたし1人のために、そんな時間、作れないよね」
「・・・・・聞いてみるよ、お袋に」
「え・・・・・」
「結構気に入ってるんだ、牧野のこと。あの道明寺楓を認めさせたなんて、大したもんだって思ってるみてえだぜ」
「ええ!?ほんとに?なんかそれ聞いちゃうと行きづらいかも・・・・」
「バーカ、気にすんな。とにかく、お袋に聞いてみるよ。いいな?」
「う、うん・・・・・」
 頷きながら、またケーキをぱくつき始めた牧野を見て、思わず口元が緩む。
 視線を感じてあきらの方を見ると、横目で探るような視線を俺に向けていた。
 俺はあきらに向かって、にやりと笑って見せた。
 まだまだ、諦めたわけじゃない。
 類との結婚が決まってるのにあきらと張り合っても仕方ないのかもしれないが、それでも・・・・俺の中での牧野の位置は変わらない。
 少しでも近くにいたい。
 牧野の中に、俺という存在を確立させたい。なくてはならないものに・・・・・
 人のものだと思えば辛くないといえば嘘になる。
 だけど、それ以上に牧野の傍にいると、俺は幸せな気分になるから。
 きっと、あきらも同じことを思ってるはず。
 だからこそ、譲るわけにはいかない。

 俺はこっそり親指を立てて見せた。
 それを見たあきらもふっと笑い、自分も親指を立てる。

 お前には、負けない。

 無言の、宣戦布告。
 もちろん牧野は気付かないんだろうけどな・・・・・。





  

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