-tsukushi- 「ワカメ?」 道明寺の言葉に、あたしは思わず聞き返す。 「おお、今俺んちがそれなんだとよ」 道明寺が頷くが・・・・・ 何のことだか分からず、あたしが首を捻っていると類が口を開いた。 「・・・・もしかして、改装してるってこと?」 「お、それそれ!なんだか壁が剥がれたとか何とか言ってたけどな」 改装・・・・・海藻、ね。 はは、相変わらずだわ・・・。 「壁が剥がれたって・・・道明寺の家に限ってそんなことないでしょ?」 「いや、表面はきれいにしてるけどよ、あの家も結構古いからな。見えないところで結構ガタがきてるところがあるって聞いたぜ。だから今年中にいっそのこと全部きれいにしちまおうってことらしい」 「全部って・・・・どのくらいかかるの?」 「さあ、1ヶ月くらいじゃねえ?」 「1ヶ月で終わるの?あんな大邸宅・・・」 「しらねえよ。どうせ俺はほとんど帰らねえし」 「そりゃそうだろうけど・・・」 「・・・で、今日はどうしてここへ?いつ帰ってきたの?」 類が、また難しい顔で聞く。 なんだかさっきからあんまりご機嫌が良くないみたい・・・ 「帰ってきたのは昼ごろだな。いろいろ回んなきゃいけないとこがあってすっかり遅くなっちまった。本当は電話しておこうかと思ったんだけどよ、時間がなかった」 「・・・・・・で?」 「実は頼みがあってここに来た」 「頼み・・・・・?」 道明寺の言葉に、あたしたちは顔を見合わせた。 「俺を、しばらくここに置いてくれねえか?」 そう言って、道明寺はにやりと笑ったのだった・・・・・。
「はあ!?司が類の家に住む!?」 翌日。 大学に行ったあたしと類は、キャンパスで会った美作さんと西門さんに昨日のことを話した。 「住むっていうか、部屋を貸して欲しいって・・・」 あたしが答えると、美作さんと西門さんは顔を見合わせた。 「取引先のトップが、今日本に来てるんだって。どうしてもその仕事は成功させたいらしいんだけど、相手が曲者で、なかなかうんと言わないらしい。で、年末まで日本にいるって話を聞いて追いかけてきたらしいんだけど、向こうも忙しいからなかなかスケジュールが合わないらしい」 と類が説明する。 「で、相手と会える機会を待ってるってわけ?」 美作さんが眉間に皺を寄せて言う。 「とにかく、何度も話をしないとだめな相手らしい。でも司も忙しいから、それだけに時間を割くわけにもいかなくって、仕事の合間合間に少しでも時間を多くとって会いに行ってるらしい。大変だよ。N.Y.の仕事もあるし、明日はまた向こうに行かなきゃいけないけど、その前にもしかしたら時間が取れるかもって、今日は京都に行ってる」 「は・・・・・すげぇな。んじゃ、ほとんど出っぱなしか」 西門さんが感心したように言う。 「うん。だから、うちに住むって言ってもほんとにたまに寝に帰ってくるだけってことになりそうだよ」 類の言葉に、あたしたちはしばし言葉が出てこなかった。 みんなだってもちろんそれぞれ家のことやってるし、たまに海外に行ったりすることもあって忙しそうだなって思うことはあるけど・・・。 道明寺は、もうそんなレベルじゃないんだ。 まだあの魔女が実権を握っているとはいえ、表立って行動するのは道明寺だ。 なんだかそう考えると、ますます世界が違うって気がしてくる・・・・・。 「しかし司が帰ってきたってことは・・・・・」 と美作さんが言うと、西門さんも頷いた。 「・・・・なんか、波乱がありそうな気がするな・・・・・」 「な、何よ2人とも、変なこと言わないでよ」 「大体、牧野と司が揃うと昔からろくなことがねえんだよな」 「西門さん!あたしは関係ないじゃん!」 「よく言うよ。お前は嵐を呼ぶ女だろうが」 「美作さんまで!けどほとんど帰ってこないんだから、別に心配いらないんじゃない?」 あたしがそう言うと、3人はそれぞれ相手にちらりと視線を送り・・・・・ 「・・・・だと良いけどね・・・・・・」 類が相変わらず難しい顔で呟く。 「もう、類まで!」 あたしは頬を膨らませ、類を睨んだ。 でもその3人の予感が、見事的中してしまうことになるなんて・・・・・
-rui- 「で?実際のところどうなんだよ?」 牧野と総二郎が講義に出るためいなくなると、あきらがそう聞いてきた。 「どうって?」 「司のことだよ。本当にその仕事だけが目的か?」 「・・・・・どういう意味?」 俺が聞くと、あきらはため息をついた。 「わかってるだろ?牧野のことだよ。大体、ただ寝る場所が必要なだけならホテルに泊まればいい話だ。そのほうが仕事だってしやすいはずだ。なのにわざわざお前と牧野が住んでいる花沢の家へ来るなんて、どう考えたっておかしい。なんかあるなって思うほうが自然だろうが」 あきらに言われて、俺はしばらく黙り込んだ。 もちろん、そんなことはわかってる。 昨日、司のリモが家の前に止まっているのを見たときから、嫌な予感はしてたんだ。 司はわかりやすい。 考えていることがすぐに顔に出る。 それは牧野にも似たところがあるのだが・・・・・さすがに世界中飛び回って道明寺財閥の顔となった今、昔のように全て顔に出る、ということもなくなったのだろう。 昨日会った司から、何を考えているのかを読み取ることはできなかった。 ただ、あきらの言うとおり本当に寝場所を借りに来ただけ、とはとても思えなかった。 牧野がそこにいる、ということが大きな要因になっていることは明らかに思えたのだった・・・・・。 「類、気をつけろよ」 あきらが心配そうに俺を見る。 「気をつけろって、何を?」 「牧野だよ。あいつはああ見えて情に流されやすいからな。昔、あれだけ好きだった相手だ。それに喧嘩別れしたわけでもない。ちゃんと掴まえてないと、気付いたらモトサヤだった、なんてことになりかねないぜ」 「・・・・・・言われなくても、掴まえておくよ。言っただろ?牧野だけは絶対、誰にも渡さないよ。司にも総二郎にも・・・もちろんあきらにも」 「・・・なんだよ、話をこっちに振るな」 「週に4日も牧野を持ってかれて、俺が何にも感じてないと思う?牧野があきらのことを信頼してるから、何も言わないけど・・・・もし牧野に何かしたら、あきらでも許さない」 「・・・・・よーく肝に銘じとくよ」 よっぽど俺がすごい顔をしていたのか、あきらは一瞬ぞっとしたような青い顔をして、視線を逸らすとそう言って肩をすくめたのだった・・・・・。
-soujirou- 「じゃ、あたしこっちだから」 牧野がそう言って、俺とは逆の方へ行こうと手を振ろうとするのを、その手を掴まえた。 急に俺に手を掴まれた牧野は、きょとんとして首を傾げる。 「西門さん?どうかした?」 「お前・・・・・平気か?」 「え・・・・何が?」 「司のことだよ。同じ家に住むなんて」 俺が言うと、牧野は一瞬目を瞬かせた。 「寝に帰ってくるだけとはいえ、一つ屋根の下で暮らすんだぞ?」 「・・・・・うん」 「類も類だけど、お前もお前だ。昔の男と、今の婚約者と同じ家に住むなんて、ありえねえ」 「・・・・・あたしも、そう思ったよ。類も始めは、嫌そうな顔してたし。でも道明寺に頼み込まれて・・・。2人の・・・・あたしと類の邪魔はしないって」 「その言葉、信用したのか?」 「だって・・・・・友達でしょ?」 上目遣いで拗ねたように言う牧野。 俺は溜息をついた。 「お前にとっては、モトカレだろ?・・・・・司に、また口説かれるかもしれないぜ?」 「まさか」 即答する牧野に、再び溜息が漏れる。 「西門さん、心配しすぎだよ。それに口説かれたって、あたしには類がいるんだから。じゃ、遅れちゃうからもう行くね!」 そう言ってばたばたと走っていく牧野の後姿を、俺は見えなくなるまで見つめていた・・・・・。
司が、ホテルではなくわざわざ花沢の家を拠点にしたのには訳があるはずだ。 仕事上のことだけで言えば、ホテルにいたほうがずっと動きやすいはずだ。 だとしたら、その理由は牧野のこと以外には考えられない。 「何考えてんだ、あいつ・・・・・」 牧野と別れ、N.Y.で類とのことも認め・・・・・それでもあいつがまだ牧野のことを想っているのはわかっていたけれど。 2人が婚約した今になって、どうしてまた牧野の元へやってきたのか。 まさか、よりを戻そうと思っているのか・・・・・? 考えたくはなかったが、どうしてもその考えを打ち消すことは出来なかった。 そして何もあるはずがないと安心しきっている牧野のことも、心配せずにはいられなかった。 ―――大体あいつは、隙がありすぎなんだよ・・・・・ さっきまでの牧野の表情を思い出し、俺はまた溜息をついた。 自分の友達を、大切な人間を、全面的に信頼する。 それはあいつのいいところであり、悪いところでもある。 司のことを、友達として信用している牧野を責めることはできない。 だけど、司だって男だということ。 それも昔あれほど好き合っていた、そして今でも自分を想っているであろう男だということ。 そこのところを全くわかっていない牧野に、溜息が出てしまうのだ。 「全く・・・・俺たちF4を手玉にとるなんて、後にも先にも牧野つくしだけだぜ・・・・・」
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