-tsukushi- 「さてと。それじゃあ話を聞こうか、つくしちゃん」 お茶のお稽古が終わるなり、西門さんが満面の笑みを浮かべてそう言い出したから、あたしはとっさに対処することが出来なくて固まってしまう。 「は、話って、な、何の?」 「決まってんじゃん。家庭教師のことだよ、あきらの妹たちの。お前とあきらで何企んでる?」 「べ、別に、何も企んでなんか」 「・・・・・それでごまかしてるつもり?」 思いっきり半目で睨まれて、何も言えなくなってしまうあたし。 これだから、美作さんにも言われちゃうんだよね。
―――いいか、絶対ごまかせよ。総二郎の口車に乗せられんな。
そう言われてきたのに。 ごめん、美作さん。あたし自信ないよー 「類だって気付いてるだろ。何も聞かれないのか?」 「・・・・・うん」 「ま、基本あいつはあんまり小さいことは気にしないタイプだけどな。お前とあきらの間に何もなきゃ目を瞑るってとこか」 ずばり言い当てられて思わずひきつった笑いが浮かぶ。 「・・・・・・・・・・」 西門さんがじーっとあたしの顔を見つめる。 きれいなお顔がぐっと近づいてきて、冷たい汗が背中を伝う。 西門さんが、着替えもせずにこの茶室で話し始めた理由がわかった気がした。 この茶室の中では、西門さんはあたしの師匠だ。 師匠に質問されれば、弟子はそれに答えなくちゃいけない。 そんな気がしてきてしまって、うまく誤魔化せる自信がなくなってきてしまうのだ。 「・・・・・俺を騙しきれると思ってるか?」 「だ、騙すって」 「なんなら、お前の体に聞いてやってもいいけど?」 「・・・体って・・・・・」 何のことだろうと不思議に思って西門さんの顔を見てみれば、満面の笑みであたしを見つめている。 しばしそのきれいなお顔と見つめ合い・・・・・・・ 突然その意味を理解し、正座の姿勢のままざざっと後ずさった。 「ななな、何言ってんのよ!」 「言っとくけど、今日はお袋もいねえしお手伝いもここには呼ばなきゃこねえ。騒いだって無駄だぜ」 平然とそんな恐ろしいことを言う西門さん。 「どうする?」 「・・・・・・・・・・・・・・わかったわよ」 「よしよし。それじゃあ場所を変えるか」 そう言って西門さんは満足気に笑ったのだった・・・・・。
-soujirou- 「クリスマスプレゼントに手編みのマフラー?」 「何よ、その呆れた顔。今時ダサイとか言いたいの」 「いや。お前らしいっつーかなんつーか。で、それをあきらに教わってると」 「うん。美作さんて、教え方上手いから助かってるんだよ」 「・・・・・・あ、そ」 なんとなく気にいらない。 あきらがそういうことが得意だってことは知ってる。 だから牧野がそれをあきらに相談したとしてもなんの不思議もないことだ。 それはわかっていても、牧野が俺ではなくあきらを頼ったという事実が気にいらなかった。 そして2人してそれを俺に隠していたということが。 「それで、それが出来上がるまであきらのうちに通いつめるってわけ」 「う、うん」 何より一番気にいらないのはそこだ。 俺は週に一度しか牧野と一緒にいることが出来ないっていうのに、あきらは週に4日間も牧野を独占することが出来るなんて。 それって不公平じゃねえ? 俺がずっと黙ったままでいると、牧野がおずおずと顔を上げ、俺を見た。 「あの〜ごめんね、西門さん。黙ってて」 「あきらだろ?」 「え?」 「俺に黙ってろって言ったの」 「う、うん。そうだけど」 そりゃそうだろうな。俺があきらでもそうするし。 せっかくの2人きりの時間。他のやつに邪魔されたくはないだろう。 だが、知ってしまった以上、俺もただ指を咥えて見てるだけってわけにはいかなかった。 「・・・・・俺も協力してやろうか」 「え!?」 俺の言葉に、牧野がびっくりして声を上げる。 「協力って・・・・・」 「クリスマスに間に合うように、俺んちでもそれ、やっていいって言ってんの」 「―――ほ、ほんとに?」 うれしそうに頬を染め、身を乗り出す牧野。 ―――ほんと正直なやつ。 「ああ。その代わり、条件がある」 と言うと、一転、警戒する顔になる。 「な・・・・・何?」 「お前な、そんなあからさまに嫌そうな顔すんな。傷つくだろうが」 「だって・・・・・西門さんの出す条件なんて怖くって」 「ったく・・・・・安心しろ。そんな難しいことじゃねえよ」 「じゃ・・・・・」 「あきらの家に、俺もいく」 「・・・・・は?」 文字通り、目が点になる牧野。 百面相。本当にこいつはおもしろい。 「だ・か・ら。あきらの家に俺も行くって言ってんの。邪魔するつもりはねえから安心して編み物でも何でもやってろ。俺は適当に時間潰してっから」 「??意味わかんないんだけど・・・・そんなことしてどうすんの?何でそれが条件?」 ・・・・・全くこいつの鈍感さは国宝級だな。 何気にもてるくせに、男の心理ってものを全くわかっていない。 そういうところもこいつの魅力の1つなんだろうけど・・・・ 「・・・・深く考えるな。とにかく、それが条件ならどってことねえだろ?」 「う・・・うん、まあ・・・・・」 「じゃ、決まり。あきらには俺から言っとくから」 牧野はまだ不思議そうな顔をしながらも、俺の言葉に頷いたのだった・・・・・。
-tsukushi- なんだか妙なことになっちゃったな・・・・。 邪魔されないで済むなら、あたしは西門さんが一緒でも全然構わないんだけど・・・・でも、美作さんはどう思うかな?なんだか、西門さんには絶対知られたくないみたいだったし・・・・ どうしよう。明日、怒られるかな・・・・・
迎えに来てくれた類と、今日は歩いて帰った。 一緒に暮らしていても、こうして2人手をつないで歩いたり、ふとした瞬間に見つめあったりするのはすごくどきどきする。 類を見るたび、類の声を聞くたび、類に触れるたび・・・・・ ああ、あたしは本当に類が好きなんだなあと実感してしまうから・・・・・
「牧野?今日何かあった?」 歩いているとき、類が急にそう言い出した。 「え・・・・・なんで?」 「なんとなく・・・・いつもと違う気がした」 じっとあたしの目を見つめながら言われると、つい全て本当のことを言いたくなってしまう。 薄茶色のビー玉のような瞳が、何もかも見透かしているようで・・・・ 「ううん、何にも」 「そう?ならいいけど」 にこりと微笑む類。 優しい、あたしの大好きな笑顔だ。
いつもいつもおしゃべりしているわけじゃなくて、時にはただ黙って手をつないで歩くときもある。 ふわりと包み込むように繋がれる手が、類のぬくもりを感じさせてくれるから、このひと時がとても幸せに感じられる・・・・。
「あれ?あのリモ・・・・・」 もうすぐ家に着くというところで、家の前にリムジンが止まっているのが目に入る。 「??誰か来てるのかな?」 「・・・・・まさか」 類が珍しく難しい表情になる。 「何?わかるの?」 「・・・牧野、わからない?」 「え・・・・・」 言われて、あたしはもう一度そのリムジンに視線を戻した。 暗がりの中、その黒いリムジンは怪しい光を放っていた。 よく見ると、運転席には男性が座っているのがわかる。その人物が、ちらりと家のほうへと視線を向けた、その瞬間・・・・・ 「あ!」 「わかった?」 見覚えのある運転手だった。 でも、まさか・・・・・
あたしと類は顔を見合わせ、急いで家の中へと入っていった。 そして玄関の戸を開けると、そこに立っていたのは・・・・・
「おう!漸く帰ったか!!」 そう言ってにやりと笑ったのは・・・・・・ 「ど、道明寺!?」 そう、それは今N.Y.にいるはずの、道明寺だった・・・・・。
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