-soujirou- 「よお、牧野。もう帰りか?」 キャンパスで、偶然牧野を見かけて声をかける。 牧野はコートを着込み、バッグを持ってなぜか急いでいるようだった。 「あ、西門さん!うん、そう。またね!」 「おい、待てよ!なんだよ、そんなに慌てて・・・用事でもあんのか?」 「え、うん、まあ・・・・・」 なぜか俺の言葉にぎくりとする牧野。 なんだ? 俺は、そのまま行き過ぎようとする牧野の腕をとっさに掴んだ。 「ちょい、待ち」 「な、何?ちょっとあたし、急いでるんだけど」 「何で?どこ行くんだよ?」 詰め寄る俺から目を逸らす牧野。 ―――絶対怪しい。 「おい、牧野!」 後ろから声が聞こえ振り向くと、ちょうどあきらが来るところだった。 「美作さん」 ほっとした様に息をつく牧野。 「ちょうど一緒になったな。じゃ、行くか」 「うん」 完全に俺を無視して行こうとする2人に、俺もさすがに顔が引きつる。 「ちょ―――っと待った」 俺はもう一度、牧野の腕を引っ張る。 「うあ!」 「なんだよ、総二郎。俺ら急ぐんだけど」 面倒くさそうに振り向くあきら。 「だから、何で急いでんだよ。2人でどこ行くんだ?」 イライラと聞くと、あきらと牧野は一瞬顔を見合わせ、あきらがひょいと肩を竦めると俺のほうを見た。 「おれんち」 「・・・・は?何であきらんちに?」 「妹たちの家庭教師。母親に頼まれて、牧野にやってもらうことにした」 あきらの言葉に驚き、牧野のほうを見ると、牧野はちょっと気まずそうに俺を見ていた。 「・・・バイトは、もうしないんじゃなかったのか?類は知ってるのかよ。ってか、類は?」 「類も承諾してることだよ。あいつは今日、朝から会社に呼び出しくらってそのまま帰ってきてねえ。家庭教師って言っても年末までの間だけどな。母親も俺も忙しくって、妹たちの相手してる時間がねえんだよ。いつもなら使用人に任せるとこだけど、今回は妹たちにおねだりされて、牧野じゃなきゃいやだって言うから」 「・・・・・・・そうなのか?」 牧野をじっと見つめて聞くと、牧野は目を逸らしたまま、こくんと頷いた。 「じゃ、もう時間ねえから行くぜ、じゃあな、総二郎」 「あ、おい―――」 あきらは、俺が掴んでいたのと逆の腕を掴み、そのまま牧野を引っ張っていってしまった。 そして、大学の門を出ると、待っていた車に乗り込んで行く・・・・・。
―――ぜっっっってーおかしい。
あれは絶対何かある。 あきらはともかく、牧野は嘘がつけない奴だ。 あの牧野の様子・・・・。あれは絶対何か隠してる。 「・・・・・どうしてやるかな・・・・・」
-akira- 「あっぶねえ。お前、もう少しうまくやれよ」 車が走り出し、俺は息をついて言った。 「だって・・・・ね、西門さんにも言ったらダメかな?」 上目遣いで言われれば、ドキッとして頷きそうにもなるが・・・・・ 「アホ。んなことしたら、あいつも来るって言い出しかねない。総二郎が茶々入れるような状況で、クリスマスまでに完成できると思うか?」 「・・・・・無理か」 「絶対無理。せっかく俺が協力してやるんだから、お前もちゃんとやれよ。せめてあれくらいの嘘、もっとうまく言えって」 「はーい」 ちょっと口を尖らせて・・・いじけた姿が、子供みたいでかわいい。 俺はくすっと笑い、素早く牧野の頬にキスをした。 途端に真っ赤になって狭い車内で後ずさる牧野。 「な、ななな、何するの!!」 その慌てようがおかしくて、思わず噴出す。 「ぶっ、はは、お前ほんとにおもしれえな。そんなに慌てなくても、ここでそれ以上のことしねえよ」 「あ、当たり前でしょ!そ、そういうことするんだったら、あたしかえ―――」 「協力料」 「・・・・は?」 「協力してやってるんだから、これくらい許せ。心配しなくても、それ以上のことはしねえよ。一応俺にも自制心ってものがあるからな。お前が嫌がるようなことはしない」 そう言うと、牧野はほっとしたように元の位置に戻った。 肩が触れるか触れないかの距離。 その距離がそのまんま俺たちの心の距離も表しているようで、ちょっと切なくなった。
「―――今日はここまで」 俺は、ふと時計を見上げていった。 それまで編みものに集中していた牧野も、俺の声にはっと顔を上げる。 「え、もう?はや・・・。やっぱりなかなか進まないね・・・」 「ま、まだ時間はある。焦らずやってこうぜ」 そう言って笑ってやると、牧野も笑って頷いた。 「うん、ありがと。美作さん、教えるの上手だから助かる。家でも出来たらいいんだけどな・・・」 「そりゃ無理だろ。すぐばれるぜ」 「・・・・だよね」 牧野ががっくりと肩を落とす。 「心配すんなよ。何とか俺が間に合わせてやっから。さ、そろそろ片付けて外出るぜ。類が来ちまう」 「あ、うん」 牧野が慌てて片付け始める。 編み物の道具は全て俺の部屋に置いてある。もって帰って類に見られたら台無しだ。 最初、類が寝てる間にもやりたいと言っていた牧野を、俺が説得したのだ。 「つくしちゃん、もう出れる?」 部屋の外から、母親の声が聞こえる。 「あ、はい!今行きます」 「じゃ、また明日な」 「うん、バイバイ!」 そう言って元気に出て行く。 類にああ言った手前、俺が毎日一緒にいるのはおかしいので母親に協力してもらうことにしたのだ。 母親の方も、「つくしちゃんが毎日来てくれるなら」と喜んでいた。 クリスマスまでの間だけど・・・・俺は、牧野と秘密を共有できることに喜びを感じていた。
-rui- あきらの家の前で待っていると、牧野があきらの母親と一緒に歩いてくるのが見えた。いつもと変わらない牧野の様子に、ほっと胸をなでおろす。 何もあるはずがないって思っていても、やっぱりあきらの家に行っているとなれば気になる。 「類くん、こんばんは」 あきらの母親がにこやかに話しかけてくる。 「こんばんは。牧野、どうだった?」 「う、うん。大丈夫」 「つくしちゃん、本当に良くやってくれるのよ。うちの子たちも大喜びで、助かるわー。明日もよろしくね」 「はい。じゃ、また明日・・・」 そう言って牧野はあきらの母親に頭を下げると、車の助手席に乗り込んだ。 「じゃ、運転気をつけてね」 「はい、それじゃあ」 そう言って俺は車を発進させた。
「大丈夫?疲れてない?」 俺が聞くと、牧野はにっこりと頷いた。 「全然!バイトで1日中働いてたときに比べれば余裕!」 「そう、良かった。・・・そういえば、さっき総二郎から電話あったよ。家庭教師のこと、聞かれた」 「あ・・・・今日、帰りに会ってね、一応話したんだけど・・・・」 「疑ってるみたいだった。何か隠してるんじゃないかって・・・・牧野が」 「あ、あたし!?」 途端に顔を引きつらせるから、おかしくて思わず噴出す。 「ぶっ・・・・・あんたってほんとおもしろい」 「類!!試したの!?」 今度は顔を真っ赤にして怒ってる。 忙しい奴だ。 「そんなつもりなかったんだけど。あんたがあんまり素直に反応してくれるからつい、おもしろくって」 「ついって・・・・」 「・・・・俺だって、気付いてたよ。牧野が何か隠してるって」 「!!」 「あきらはそういうとこうまいから、ごまかされそうになったけど。牧野は隠し事苦手だろ?」 「う・・・・・・・」 「でも、今は聞かないで置いてあげる」 「え・・・・・」 「浮気、じゃないよね?」 「あ、当たり前じゃない!!」 「ならいい」 「類・・・?」 牧野が不思議そうに首を傾げる。 「あきらのことを100%信用するわけじゃないけど・・・・牧野に無理やり何かするような奴じゃないと思うから。牧野のことは信じてるから。その、なんかわかんないけどそれが済んだら、ちゃんと話してくれる?」 「・・・・うん」 そう言って、牧野はふわりと微笑んだ。 俺は、ハザードをつけて、車を路肩に止めた。 「類?どうしたの?」 「ん。ちょっと我慢できなくて」 何が?と聞こうとする牧野に、素早くキスをする。 突然のことに、牧野が目を白黒させていいる。 ゆっくりとその唇を味わい・・・・・・牧野の頬が高潮してきたのを見て、開放した。 「・・・・・・もう、突然!」 「・・・・牧野が、かわいすぎるから」 「へ?」 「そういう顔、見せられたら我慢できないってこと」 そう言って笑うと、牧野が顔を真っ赤に染めてうつむく。 「わ、わけわかんない・・・・かわいいとか、言ってくれるの類だけだよ」 「・・・あきらとか総二郎には?言われたことない?」 「あ・・・・・」 じっと牧野を見つめると、牧野はちょっと慌てたように口に手を当てた。 頬が赤い。 ―――気に入らない。 「・・・・・もう1回」 「え?」 驚いて顔を上げた牧野に、もう1度キス。 今度はもっと深く、何度も角度を変えて・・・・・。
俺以外の男のことを考えないで。 俺以外の男を見ないで。 俺の我侭だってわかってるけど・・・・・
「牧野、愛してる・・・・・」 耳元で囁けば、ピクリと肩が震える。 「・・・・あたしも・・・・・」
触れれば触れるほど、もっと欲しくなる。 もっと我侭になる・・・・・。
だから、ずっと俺だけを見ていて・・・・・
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