-tsukushi-
「類、牧野も・・・・・こんなところでどうした?」 美作さんがあたしたちを見て、笑顔になる。 「あ・・・・あたしはその、トイレに・・・・・」 「俺は、牧野が戻ってこないから、探しに・・・・・」 「ふーん。じゃ、俺は戻るから・・・・・」 そう言って美作さんがあたしたちの横を通り過ぎようとして・・・・・・ 「・・・・・ちょっと待って」 という、類の声に足を止めた。 「あ?なんだよ、類」 「・・・・・おかしいと思うんだけど」 「何が?」 「トイレは、こっちじゃないよね?何で不思議に思わないの?」 完全に疑りの目の類。 「あー・・・・・いや、それは・・・・・」 「それは?」 類に睨まれて、ちらりとあたしに視線を移し、溜息をつく美作さん。 「・・・・・ったく・・・・・もっとうまくやれよなあ」 「ご、ごめん・・・・・・・」 美作さんに謝るあたし。 そんなあたしたちを見て、類の表情がさらに険しくなる。 「・・・・・どういうこと?2人で何してたの?俺に黙って・・・・・」 「んな怖い目すんなって。お前が心配するようなことは何もしてねえよ」 そう言いながらも、類から目を逸らす美作さん。 ―――だめだ、完全に疑ってる・・・・・。 「じゃ、何してたの?」 「あ、あの、類」 思い切って口を開く。 もう時間もないし。ここで言うしかない! 意を決したあたしを、美作さんが心配そうに見る。 「おい、牧野・・・・・・」 「大丈夫。もう、今しかないから・・・・・」 そう言って笑って見せると、少し心配そうに・・・・でもいつもの優しい笑顔を見せてくれた美作さん。 それを見ていた類は、やっぱり不機嫌そうだったけど・・・・・。
-rui- 気に入らない。 目の前の牧野とあきらの、秘密を共有している2人だけの空気が。 大体、アルコールが入ってほんのりと染まった頬とか、潤んだ瞳とか。 髪をアップにした項にかかる後れ毛の艶っぽい感じとか、大きく胸の開いたドレス姿とか。 いつもよりも数段女らしく、艶っぽく見える牧野と2人きりでいて、牧野への気持ちを考えればなおさら、あきらが何もしないでいられるとは考えられなかった。 何よりも、あきらを信頼しきっている牧野の様子が手に取るようにわかるのも気に入らなかったし、そんな牧野を優しい眼差しで見つめるあきらにも腹が立ってしまう。 大人気ないって言われても、そんな風に嫉妬してしまう気持ちは抑えられなかった。
「あのね、類。渡したいものがあるの」 そう言って牧野が上目遣いに俺を見る。 その表情はすごくかわいくて、ついつい頬が緩みそうになるが、相変わらず心配そうに牧野を見つめるあきらが気になってしまう。 「・・・・・何?」 「えっと・・・・・これ、クリスマスプレゼント・・・・・なんだけど」 そう言って牧野が差し出したのは、きれいなメタリックブルーの包装紙でラッピングされたもので・・・・・ 「え・・・・・これ、俺に?」 さっきから、何か後ろに隠しているような気はしたけれど。 俺はその包みを受け取ると、「開けてみて」という牧野に促され、その包みをその場で開けてみた。
中から出てきたのは、淡いブルーのマフラーと、同じ柄の帽子。 「これ・・・・・もしかして、手編み・・・・・?」 「う、うん。初めて作ったから、あんまりうまくないけど・・・・・でも、その色、きれいでしょ?類に似合うと思うんだ」 頬を染め、恥ずかしそうに言い募るその顔がかわいくて。 俺のために造ってくれたんだと思うと、言いようのない感情がわきあがってくる。 「11月ごろからずっと、それ作ってたんだぜ。何度かやり直したりしてさ。こいつ、不器用だから簡単なデザインのものしか出来なかったけど・・・・すげぇがんばってたから、お前のために・・・・・」 あきらがニヤニヤと笑いながら言う。 「じゃあ、これのために毎日・・・・・?」 あきらの妹たちの家庭教師をやるといって週に4日もあきらの家に通っていたのはこれのため・・・・・? 「そういうこと。とても週1回じゃ間に合いそうになかったし、一緒に住んでるから家に持ち帰ることも出来ねえだろ?」 「じゃ・・・・総二郎も知ってたの?」 「もちろん」 そう言ったのは、いつの間にか俺の後ろに立っていた総二郎。 「だから、土日以外はほぼ毎日そのプレゼントのために時間を使ってたってわけ。どうだよ?牧野の努力の結晶は」 総二郎がにやりと笑う。 「・・・・すごい、嬉しい・・・・・。まさか、こんなことだとは思わなかった。何かやってるのはわかってたけど・・・・・」 「お前、勘いいからさ、牧野は嘘が下手だし。いつばれるかって、こっちはずっとひやひやしてたんだぜ。妙な誤解はされるし。これ、ここまでもってきたのは俺。今日中にお前に渡したいだろうと思ってさ、牧野に取りに来いって言ってたんだよ」 そう言ってあきらが牧野の髪に、そっと触れる。 「・・・・・・類、ごめんね、ずっと黙ってて。内緒にして、驚かそうと思ってたの。美作さんと西門さんにはそれに協力してもらってて・・・・・」 「ま、そういうことだ。じゃ、俺たちは行こうぜ、あきら」 そう言って総二郎が、牧野の髪に触れていたあきらの腕を引っ張る。 「おい・・・・・」 「いいから来いって。じゃあな、牧野」 手を振りつつ、あきらを引っ張っていく総二郎。 2人が見えなくなると、牧野は恥ずかしそうに俺を見上げた。 「あの・・・・・それ、ごめんね、あんまりうまくなくて・・・・・最後の方は急いでたから、ちょっと雑かも・・・・・でも、がんばったんだよ?」 落ち着きなくしゃべりだした牧野を、俺はたまらず引き寄せて抱きしめた。 「―――サンキュ。すげぇ嬉しい。」 「・・・・・うん」 「・・・・・なんか、言葉に出来ない・・・・・」 「・・・・・うん、あたしも・・・・・・」 腕の中で小さく頷く牧野。 愛しくて・・・・・ 離せなくなる・・・・・。
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