-tsukushi-
「すご〜い、お料理もお酒もおいしい!」 あたしはテーブルに並べられた料理やお酒の量に目を丸くし、さらにそのおいしさに感動してしまった。 「牧野・・・・のみ過ぎないようにね」 類が苦笑しながらも楽しそうにあたしを見る。 「大丈夫だよ。それにしても、船の上でここまで出来ちゃうなんてすごいね。レイさんってそんな大物だったんだ・・・・・怖くってやっぱり何者か聞く気になれないけど」 「でも、そんな彼と友達みたいに話せちゃう牧野もすごいと思うよ。さっきは娘の方ともずいぶん仲良さそうに話してたね」 「だって・・・・・話してると、全然普通なんだもん。娘さんも日本語うまいし、少し大人っぽいけどやっぱりまだ高校生って感じでかわいいし・・・・・」 そう、あのサラってこと話してみたら本当に全然普通の女の子で・・・・・道明寺が言っていたことがわかるような気がした。 あんな子がもし英徳にもいてくれたら、少しはあたしの高校生活も違ってたかも・・・・・・なんて思わず思ってしまうくらい、意気投合してしまったのだ。
フルーティーで飲みやすいシャンパンを飲みながら、ふと視線を巡らせると、美作さんがあたしを見て何か言いたそうに目配せした。
―――あ、そういえば、美作さんの部屋に、プレゼント取りに行かなくちゃ・・・・・
うっかり忘れそうになっていたあたし。 慌てて飲みかけのシャンパンを飲み干すと、グラスをテーブルに置いた。 「牧野?どうかした?」 「あ、類、ごめん、あたしちょっとトイレに・・・・・」 「ああ、うん。行っておいで。足元大丈夫?着いて行こうか」 「だ、大丈夫、すぐ戻るから・・・・・・」 心配そうにする類に軽く手を振り、ホールを出たあたしは、少し早足で美作さんの部屋へ向かった・・・・・。
「おお、漸く来たな。日付変わっちまうとこだぞ」 扉をノックすると、美作さんが呆れ顔であたしを入れてくれた。 「ご、ごめん・・・・・もう11時?すっかり時間忘れてて・・・・・良かった気がついて」 あたしがほーっと息をつくと、美作さんが苦笑しながらきれいにラッピングされた例のプレゼントを出してくれた。 「ったく・・・・・。ほら、これ。せっかくがんばって作ったんだ。ちゃんと渡せよな」 「うん・・・・。ありがと、美作さん。最初から最後まで、美作さんにはお世話になりっぱなしだね」 「ま、好きでやってることだからな、気にするな」 美作さんの優しい笑顔に、あたしも微笑み返す。 この人の、人に気を使わせない優しさって・・・・すごいなって思う。 やっぱりあたしなんかよりもずっと大人で、つい、なんでも相談したくなってしまう。 あんまり頼っちゃいけないって思うのに、さり気なく後ろから背中を支えてくれているような、何もかも包み込んでくれるような安心感があって・・・・・その暖かさに、つい甘えたくなってしまうんだ・・・・・。 そんなことをぼんやり考えながらじっと見つめていると、ふいに美作さんが頬を染めて、視線を逸らす。 「・・・・・あんま、じっと見んなよ。照れる」 その言葉に、あたしは思わず目を瞬かせた。 「美作さんでも、そんな風に照れるの?女の人に見られるのなんか、慣れてそうじゃない」 「そりゃあな、けど・・・・お前は別」 「へ?なんで?」 「・・・・・できればそれくらい察するようになって欲しいけどな」 「え?え?」 「誰だって、惚れてるやつに見つめられたら照れるだろうが」 そう言って、熱っぽい瞳でじっとあたしを見つめる美作さん・・・・・・。 「!!」 その瞳の熱さに思わず固まり・・・・・ 急にアルコールが回ったかのようにめまいを感じ、ふらっと倒れそうになったあたしの体を、ふわりと受け止める美作さん。 「あっと、あぶね」 腰に手を回され、後10cmで唇が触れ合いそうな位置に、美作さんのきれいな顔。 「う、わ、あの、近いっ」 思わずうろたえて離れようとするあたしを、なぜか放そうとせずそれどころか、その手に力を込めてぐいっと引き寄せる美作さん。 「ん?近い?」 「ち、近いよ!」 にやり、と確信犯な笑みを浮かべる美作さんに、冷や汗が流れるあたし。 「あの・・・・・離して・・・・・」 「何で?俺にはクリスマスプレゼント、くれないの?」 「プ、プレゼントって・・・・・」 「総二郎には、やったんだろ?」 その言葉に、サーッと青くなる・・・・・。 不意打ちのキス。 クリスマスプレゼントだと思え、と確かに西門さんには言われたけれど・・・・・ 「あ、あれは、西門さんが勝手に!」 「俺も、おんなじものがいいな」 「おんなじって、だって!」 「ずるいよな〜、総二郎だけ。類のプレゼント、俺はずいぶん協力したんだけどな〜〜〜」 わざとらしい大きな溜息とともに伏せられる瞳。 言われていることが事実なだけに、困ってしまう。 ―――どうすりゃいいのよ〜〜〜 長い睫越しに、ちらりと瞳を向けられ、どきんとする。 ―――そんな目で見ないで欲しい・・・・・ さっき類に言われたことを思い出してしまう・・・・・。
『友達として、っていうだけじゃなく・・・・・男として、見てるでしょ?恋人じゃないけど、それに近い位置・・・・・それをどう言ったらいいかわからないけど、そのくらい、牧野にとっては大事な存在になってるんじゃない?』
そう、本当にとても大切な存在。 あたしの日常から、既に美作さんも、西門さんも欠かすことの出来ない存在になってる・・・・・。 いつかは、離れていく。 きっと、それぞれの道を進み始めてしまったら、こうして一緒にいることは出来なくなってしまう。 そのことがあたしの胸を締め付ける。 ずっと一緒にいたいよ・・・・・・・。 「・・・・・いいよ」 「え?」 「クリスマスプレゼント・・・・・・あげる」 あたしの言葉に、美作さんの瞳が驚きに見開かれる。
あたしはそんな美作さんの肩に手をかけると、そのまま背伸びをして・・・・・・ そっと、美作さんの唇に触れるだけのキスをした。
恥ずかしくって、すぐに下を向いて・・・・・ きっと今のあたしの顔は真っ赤。 自分でも信じられない。 でも・・・・・・
何も言わない美作さんの顔を、そっと見上げてみる。 「・・・・・・え」 自分の口に手を当てた美作さんの顔は、今まで見たことがないくらい真っ赤に染まってた。 「うそ・・・・・なんで・・・・・?」 「アホ・・・・・お前が不意打ちすっから・・・・・」 「だ、だって、美作さんが・・・・・・」 「まさか本当にお前からしてくれるなんて、思わなかった」 「・・・・・・だって、大事だから・・・・・」 「え?」 「美作さんも、西門さんも・・・・あたしにとっては大事な存在なの。自分から、切り離すことが出来ないくらい・・・・・・だ、だから・・・・・」 「牧野・・・・・・」 言ってるうちに、またどんどん恥ずかしくなってきてしまった。 もう、美作さんの顔が見れない。 「じゃ、じゃあ、また後で!」 そう言うと、あたしはさっと向きを変え、扉を開けると部屋を飛び出したのだった・・・・・・。
「は〜〜〜〜、もう・・・・・・自分が信じらんない・・・・・」 廊下で、よろよろとへたり込む。 今更ながら、自分のしたことに汗が出てくる。 「・・・・・もう、これはアルコールのせいとしか思えない・・・・・」 「何がアルコールのせいだって?」 突然上の方から声がして、驚いて見上げると、そこには類が立っていた。 「類!」 「・・・・・・遅いから、心配になって・・・・・でもトイレにはいないし、どこに行ったのかと思って探してたら・・・・・・何してたの?こっちって確か、あきらの部屋が・・・・・」 類がそう言って廊下の先に目を向けたとき・・・・・ 「―――あきら」
そこにいたのは、ちょうど部屋から出てホールへ向かっていた美作さんだった・・・・・。
|