-tsukushi-
パーティー会場となるホールへ行くと、そこでは類と、見知らぬ美少女が話をしていた。
オリエンタルなムードを漂わせたその美少女は細見で小柄なのに、周りを圧倒するようなオーラを放っていて・・・・ あたしはその場に固まってしまい、その美少女に眼が釘付けになってしまった。 「あれ、レイの娘だってさ」 一緒にホールに入ってきた西門さんが言った。 「レイさんの?」 「ああ」 「じゃ・・・・・道明寺の言ってた・・・・・」 「ああ、彼女のことだよ」 道明寺と政略結婚の話があったというのが、彼女? ―――ぜんっぜん、普通の子じゃないじゃん!! 「類のとこ、いかねえの?」 西門さんが不思議そうにあたしを見る。 「だって・・・・・なんか、行きづらい」 「なあにらしくねえこと言ってんだよ。あいつがお前以外の女なんか相手にするわけないってことくらいわかってんだろうが」 呆れたように言われたけど・・・・ だって、なんだかこうして見てるとすごくお似合いで・・・・・ なんだか傍に行くのも躊躇われちゃうくらい・・・・・
そんなあたしを見ていた西門さんが、ちょっと笑うと、おもむろにあたしの手を取った。 「じゃ、俺と踊る?」 「へ?」 「せっかくのパーティーなんだし、せっかくそんなドレス着てるんだから、踊ろうぜ」 そう言ってあたしの手を引き、ホールの中央に歩いていく。 「ええ?ちょっと、待ってよ、あたし・・・・・・」 「クリスマスパーティーだぜ。楽しまないと」 そう言って、見事なウィンクを決める西門さん。 あたしの腰に手を回し、ぐっと引き寄せるから、顔が至近距離まで近づいて思わず焦ってしまう。 「・・・・・顔、赤いぜ。なんだったら俺の部屋行って、さっきの続きでもする?」 「!!」 耳元に囁かれ、顔が赤くなるのが自分でもわかる。 「な、何言ってんのよ、もう・・・・・」 そう言って抗議しようと思ったら・・・・・・ 突然、後ろから肩を掴まれ、そのままふわりと抱きすくめられた。 「・・・・・総二郎、何してんの」 後ろから聞こえる、不機嫌な声・・・・・。 「類?」 いつの間に・・・・・ 「なんだよ、類。せっかく牧野と踊ろうと思ってたのに」 西門さんがわざとらしく溜息をつく。 「ダメ。牧野も・・・・なんで総二郎に連れてかれてんの」 「え・・・・・だって類、話してたから・・・・・」 「ちょっと話してただけだよ。それより、さっきから待ってたのに・・・・なんで俺のとこに来てくれないの」 「ご、ごめん・・・・・」 すっかりふてくされてしまってる類に、謝るしかないあたし。 ちらりと視線を動かせば、さっきの美少女が同じ年頃のブロンドの男の子と一緒に踊っているのが見えた。 「レイの娘・・・・・サラっていうんだけど、そのサラのボーイフレンドだってさ」 と言ったのは、いつの間にかあたしたちの傍に来ていた美作さんだった。 「ボーイフレンドがいたの?」 「そういうこと。でも2人ともまだ若いし、父親としては心配だったんじゃねえの。司のことは気に入ってたし、彼女自身も司に懐いてた。だから、結婚の話を強引にでも進めてしまえばって気持ちがあったらしいな」 「へえ・・・・・美作さん、詳しいね」 「ま・・・・いろいろ情報は入ってくるもんだよ。それよりそのドレス、桜子に借りたって?あいつもすごいの持ってるな」 美作さんがあたしの全身を眺めていう。 「う・・・・・やっぱり派手?」 「まあな。でもいいんじゃね?クリスマスだし。似合ってるし」 そう笑顔で褒められて・・・・・つい照れてしまうあたし。 横で類がじっと見ている視線が痛かったり・・・・・ 「総二郎、行くぞ」 「へ?どこに?」 「そこであぶれてる女子2人の相手しないと、ふてくされるだろうが」 そう言って美作さんが視線を向けたのは、ど派手な真紅のドレスに身を包んだ滋さんと、セクシーさをアピールするような大胆なカットのパープルのドレスを着た桜子だった。 「ああ・・・・あの2人も来てたんだっけか」 「お前・・・・殺されるぞ」 2人が行ってしまうと、類がちらりとあたしを見て、優しい笑みを浮かべた。 「それ・・・・かわいいね」 「あ、ありがと・・・・なんかちょっと恥ずかしいんだけど・・・・・」 「何で?似合ってるよ。かわいい」 照れもせず、そういうこと言ってくれるのがうれしいやら、照れくさいやら・・・・・ 恥ずかしくなってつい目をそらせてしまう。 「でも・・・・ちょっと不満」 「え?」 拗ねたような声に顔を上げれば、またちょっとふてくされたような瞳。 「その格好・・・・一番はじめに見たかったのに・・・・・総二郎に、何かされなかった?」 その言葉に、どきんとする。 「な、なにも・・・・・」 「ふーん・・・・・?」 じーっと半目であたしを見つめる類。 何もなかった・・・・・とは言えないんだけど・・・・でも、あんなこと、言えないし・・・・・・ 「・・・・・ま、いいや。今日はクリスマスだからね、特別」 そう言って類は小さな溜息をつくと、あたしの腰に手を回した。 「ちょっと、踊ろうか」 「・・・・珍しいね、類がそういうの」 「ん、苦手だから・・・・。でも、牧野が他の奴と踊るの見るのはいやだから」 さりげなく嫉妬の気持ちを告げられて、戸惑ってしまう。 「・・・・・そんな風にヤキモチ妬きだって、昔は知らなかった」 「何を今更・・・・・。だって昔は、牧野は俺のものじゃなかったし・・・・」 「そりゃそうだけど」
―――付き合うとか、付き合わないとか、そんなことはどうでもいい。
そう言ってた類。 だから、類は嫉妬なんてしない人なんだと思ってた・・・・・。
「・・・・・俺も、自分で驚いてるけど」 「え、そうなの?」 「うん。牧野と付き合い始めてから・・・・・充実もしてるけど、心配事も増えた。先のことはまだわからないし、今のことだけで精一杯だけど・・・・・その今だって、余裕なんか全然ない。毎日、きれいになってく牧野見てたら、心配でしょうがない。他の奴が傍にいるだけで、落ち着かないよ。呆れるかもしれないけど・・・・どっかに閉じ込めて、1人占めしたくなる」 熱っぽい瞳で、そんなことを言うから。 何にも言えなくなってしまう。 「どこにも行かないで。ずっと俺の傍にいて欲しい」 「・・・・いるよ、ちゃんと。あたしの居場所は、類の隣だもん」 「ん・・・・・でも、総二郎やあきらのことも、好きでしょ」 「え・・・・・」 「友達として、っていうだけじゃなく・・・・・男として、見てるでしょ?恋人じゃないけど、それに近い位置・・・・・それをどう言ったらいいかわからないけど、そのくらい、牧野にとっては大事な存在になってるんじゃない?」 穏やかに・・・・・まるであたしの心の中なんて全て見透かしてるみたいな瞳で、真っ直ぐに見つめられて・・・・・ここで意地を張っても、意味がない気がしてきてしまう。 「うん・・・・・・あたしにも、よくわからない。すごく、大事だよ。2人とも・・・・・。なんて言ったらいいのかわからないけど・・・・・欲張りで、わがままな感情だって思うけど・・・・・でも、大事なの。もう、切り離すことが出来ないくらい・・・・・・道明寺を想ってた時とも、類を想ってる気持ちとも違うものなの。いつかは、あの2人だってあたしから離れていってしまうってわかってるけど・・・・・今はそんなこと、考えたくないくらい、あの2人のこと・・・・・」 そこまで言ったとき、ふいに類の指がすっと伸びてきて、あたしの唇に押し当てられた。 「その先は、今は言わないで」 そして、その手をあたしの頬に添え、ゆっくりと顔を近づけて、唇を重ねた・・・・・。
いつの間にかホールの端っこにいたあたしたちは、海のような深い青のカーテンの陰に隠れて、長い口付けを交わした・・・・・・。
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